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大同特殊鋼は、トヨタ自動車、豊田中央研究所、デンソー、ファインシンターとハイブリッド自動車のバッテリー電圧を上げる部品(リアクトル)に使用される金属磁性粉末を共同で開発し、最新のハイブリッドシステムに採用されたことを発表した。22年1月に発売された「新型ノア/ヴォクシー」とともに、23年1月に新発売となった「新型プリウス(写真1)」に搭載されているリアクトルの原料粉としても使用されている。
今回採用された金属磁性粉末はトヨタ自動車と豊田中央研究所が材料設計し、大同特殊鋼が持つアトマイズ技術※1と粉末加工技術を応用し、独自開発技術を取り入れることで実用化に至った。目標とする材料特性と部品性能が達成されたことで、リアクトル部品の小型化が可能となり、部品コスト削減に貢献している。
背景
大同特殊鋼は、「素材の可能性を追求し、人と社会の未来を支え続けます」を経営理念に掲げ、「グリーン社会の実現」に貢献するべく、高機能材料の技術革新および事業強化を推進している。今回開発された金属磁性粉末も高機能材料の一つであり、CO₂削減に貢献できる電動車への採用に向けて開発に取り組んできた。大同特殊鋼の金属磁性粉末は、2009年にトヨタ自動車より発売された「プリウス」のリアクトル部品用原料として採用されて以降、約13年間にわたり材料の安定供給に努めてきた。
リアクトルとそのニーズ
ハイブリッドシステムを駆動する技術として、バッテリー電圧を高める昇圧回路があり、それによって車両を駆動するモーターのトルクが高められている(図1)。リアクトルはその昇圧回路の基幹部品の一つとなる。リアクトルは、バッテリーの直流電圧を高めるために使用される電気部品であり、鉄心にコイルを巻き、電流を流すことにより鉄心を磁化させて使用される。リアクトルに要求される性能としては、コイルに電流を流した際に蓄えられる磁気的エネルギーがより高いことが望ましく、ハイブリッド車の燃費向上に関わるエネルギー損失がより低いことが求められる。鉄心は開発した金属磁性粉末を金型に充填し、プレス成形によって製造される(図1)。ハイブリッド自動車に搭載されるパワーコントロールユニットの小型化は、小型車種への展開、車両デザインの多様性、さらに走行性能向上に効果があるすが、そのためには構成部品であるリアクトルの小型化も必要となる。リアクトルの小型化には、スイッチング周波数※2 を高周波化することに加えて、大電流下において、鉄心が磁気的に飽和しないような材料選定および部品構成が必要となる。
新たに開発された金属磁性粉末の特長
大同特殊鋼のガスアトマイズ技術が適用されることで、高清浄度で良質な金属磁性粉末の製造が可能となり、これまで使用してきた金属磁性粉末と比べて磁気的損失を低く抑えることができた。さらに、粉末状態で酸化熱処理を施し粉末表面に適切な厚みの硬質な酸化皮膜を生成させ(図2)、大電流下での使用においても鉄心の磁気的な飽和が起こりにくくするトヨタ自動車と豊田中央研究所の材料設計に対し、安定した酸化皮膜を形成する量産熱処理技術を大同特殊鋼が確立し、設計通りの金属磁性粉末およびリアクトルの製品化が実現された。従来型ハイブリッドシステムのリアクトルと比較して、部品体積を30%低減でき、さらに、巻線面積の減少により部品コストの削減にも繋がりった(写真2)。
大同特殊鋼は将来の需要拡大を見据えて、2019年に量産規模での生産が可能なガスアトマイズ工場を新設した(写真3)。また、粉末表面への均一な酸化皮膜を生成するための熱処理も量産規模での実用化に至っている。この金属磁性粉末は最新のハイブリッドシステム用リアクトル原料として、21年度から量産が開始され、適用車種の拡大に伴う増産対応を推進している。
※1 アトマイズ技術
アトマイズ法は金属粉末製造法の一つであり、原料を溶解炉で溶かし、溶けた溶湯をタンディシュと呼ばれる容器に流し込み、その底面に設けられた穴から流れ出た溶湯流に、高圧のガスや水を吹き付け、溶湯を飛散、凝固させて粉末とする製造方法。この製造法に必要とされる技術として、原料の溶解技術、溶湯流を安定にする技術、ガスや水を吹き付けるノズル設計技術などがあげられる
※2 スイッチング周波数
パワートランジスタなどのスイッチング素子のオン・オフ時間を調整することで出力電圧を所望の値に変化させる。このオン・オフ切替を制御する信号周波数のことを指す