目次
メルセデスAMGブランドとしては初となるハイブリッド車「AMG GT 63 E PERFERMANCE(しかし長い名前だ)」の基本的フォーマットは、高電圧型のモーターを後軸に置き、アシストするというもの。つまり、FR車のリヤデフ内にモーターを収めた機械構造。「GT」自体が後輪駆動車なので、リヤモーターでエンジン+トランスミッションの出力をモーター出力とミックスする=ハイブリッドというわけである。ちなみに本車は4MATIC、つまり前輪も駆動するシステムとしている。
モーターの種類としては、乗用車用駆動用電動機としては常道の同期型。近年、高回転時のトルク特性を優先した誘導型にも注目が集まり、採用するケースも現れ始めているが、今回の「GT63SEP」には用いられなかった。先行するメルセデス・ベンツEQCが搭載するユニット:ZF eVD2は非同期型(誘導型)であり、これの2段変速仕様が開発中とアナウンスされていたことから今回のGT63SEPはその製品版かと思われたが、今回は異なるようだ。
白眉はなんといっても変速機を備えていること。なぜモーターに変速機が必要か。回転し始めに最大トルクを発揮する特性から、発進時に蹴飛ばすような加速感を味わえる云々——という表現はモーター駆動車のインプレッションでよく見られる(この「回転し始めに最大トルク」という特性も作り込んだキャラクターではあるが)。しかしエンジン同様にモーターにも「最高効率点」というものが存在し、回転数のレンジが広くなるほど走行シーンによってはその効率点から大きく離れてしまう。これは電費の悪化と同義で、これを埋めるためにはバッテリーの大型化を余儀なくされる。
バッテリー
ちなみにGT63SEPのバッテリー仕様は下の図版に示すとおり。水冷式で、電力量は6.1kWh、電圧は400V。セル数は560と発表されている。
画像から判断するに7モジュールに見えるので、すると80セル=1モジュール構成か。しかし400Vの電圧を得るには、セル電圧を3.7Vとすると108直列が必要で(3.7V × 108 = 399.6V)、すると総セル数560で割り切れなくなってしまう。セル電圧3.6Vで112直列だと403.2V、モジュール数は5で割り切れる計算。電力量6.1kWhから逆算すると容量は15Ah程度、5モジュールなので、そうするとセル容量は3Ah程度か。
セル電圧3.6V × 112直列 = 403.2V
5モジュール × セル容量3.0Ah = 15Ah
総電圧403.2V × 総容量15Ah = 6048Wh
あくまでも机上の計算なので参考程度に留めていただきたいが、おそらくこのようなセル配置だろう。なお、冷却水量は14L、45度の水温を基準としているということなので、パワートレインの冷却水系統とは別立てにしているものと思われる。
エンジン
エンジンはGT専用のユニット・M178ではなく、M177を載せたという。これにツインスクロールターボを今回備えたのがトピックである。M178はバンク内排気レイアウトでツインターボだが、今回はターボチャージャーの数についての言及は見当たらない。
ツインスクロール式ターボチャージャーのねらいはターボラグの解消。しかしハイブリッド化しているなら過給ラグ発生時にはモーターアシストすればいいわけで、なにやら機能の重複に思える。ひょっとするとシングルターボ式として両バンクの排気干渉を抑えるためのツインスクロールターボの採用か(さすがにそれはないかと思うが)。
エンジンの技術トピックとしてはもうひとつ、BSG(メルセデス呼称ではRSG)の採用が挙げられる。いわゆるオルタネータに替えて備えるモータージェネレーターで、ドリブン状態では発電機として働き、印加するとドライブ状態として駆動機としても働くというシステムである。ダイムラーは、BSGも400V駆動によって高応答である旨を示している。
後軸にモーターを備え、エンジン出力とハイブリッドするのは先述のとおりだが、後輪片側がスリップした際にはLSDによって駆動力を確保、両輪がグリップを失った場合でもモーターからプロペラシャフトを通じて前輪を駆動するシステムとした。ユニークな構造である。