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高効率なeアクスルをさらに高効率に
モーターのエネルギー変換効率が高いことはよく知られるとおり。エンジンでは世界最高レベルで50%、市販車においては40%強というところ、駆動用モーターは90%にも届こうという値が一般的だ。このeアクスルをさらに高効率化したい。理由のひとつが航続距離の伸長。高価で重量も嵩む電池を少しでもセーブできれば――というニーズを満たすためである。
高効率化の手段はさまざまあるが、今回紹介するシェフラーのDCU:ディスコネクトユニットは駆動フローを切り離すという非常にシンプルかつ確実な方策である。「切り離す」と聞いたときにふたつ訊きたいことがあり、ひとつはどこで切り離すか、もうひとつはどうやって切り離すか、であった。
「場所についてはモーター軸、カウンター軸、デフ軸、そしてサイドシャフトの4つが考えられます。場所さえあればどこでも装着できる一方で、それぞれ長所と短所があります。タイヤに一番近いところで切ればフリクションを減らすという視点からすると取り代は大きいのですが、かかるトルクが大きいので装置も大型化してしまうのです」
担当エンジニアの山﨑氏はそのようにDCUの特質を説明する。シェフラーとしてはどの部位においても対応は可能とするものの、検討を進めているのはカウンター軸あるいはデフ軸への適用だ。DCUそのものを軸付近に置きやすいこと、そして何よりも効果を得やすいことが理由である。
では切り離しの方法としてはどのようなものなのか。図版をご覧いただければ一目瞭然で、ドッグクラッチによる締結解放がその手段である。摩擦クラッチを用いる策もあるものの、クラッチ板の圧着解放にばねを要すること、ばね圧縮のためにエネルギーが常時必要、といった性質がある。今回のDCUの製品特性からすれば締結/解放の頻度はさほど高くなく、ならばアクチュエータ通電時のみエネルギーを使用するドッグクラッチが適役だった。一方で、気になるショックとノイズへの対策についてはモーターに適用するということで差回転の吸収制御に加え、シンクロナイザーの知見を生かした歯形状の設計などから解決策を見出している。
ユニークな後輪操舵システム
かつて日本勢が得意としていた4WS:四輪操舵機構が、このところのBEVに復活適用の兆しを見せている。電池をキャビンスペース下に置くというBEV設計は、長尺化するホイールベースから生ずる最小回転半径の長大化が悩みのひとつ。後輪ステアがその解決策として注目されている。
シェフラーの後輪操舵システム・iRWSがユニークなのは、パワーアシスト機構の減速機に「プラネタリーローラーギヤ」なる仕組みを取り入れていること。ギヤの構造自体は名称が示すとおりプラネタリー構造を持つローラーギヤなのだが、そのままギヤボックスとして使ってしまうとホイール側からの入力でもステアしてしまうこととなり、後輪の操舵装置としては具合が悪い。そこで、iRWSのPRGは与圧をかけることで、例えばリヤホイールが横力を受けたとしても位相が動いてしまわない構造とした。一般的に用いられている台形ねじでも同様の効果を得ることはできるが、与圧をかけてもなお高効率ポイントに近い運用設計とできることが大きな特長。また、PRGでスピンドルを動かす仕組みとすることで、生産時の切削工程を最小化できるというのもメリットである。
なお、PRG自体はシェフラーにとって量産実績のある製品で、これまではDCTのクラッチ断続に使われてきた経緯がある。回転運動を直線運動に変換する際に、大減速比でトルクを増大させ、さらに静かで滑らかで、かつ高速にという、一挙両得を狙ったシステムを展開した。