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無限RRと同様のK20Aエンジンを搭載
随所に専用装備満載のスペシャル仕様!
EP3シビックタイプRと同じくイギリス・スウィンドン工場で2007年から生産され、2009年にまず2010台、翌年1500台の計3510台が日本にも導入されたFN2シビックタイプRユーロ。
純粋なタイプRではなく、“ユーロ”という但し書きがつくことからも分かるように、DC2/5インテグラやEK9/FD2シビックといった生粋のタイプRに比べてエンジン特性も足回りのセッティングも、よく言えばマイルド、悪く言えばパンチの足りないものとなっていた。
そんなFN2をベースに誕生したのが、無限ユーロの企画による世界限定20台のコンプリートカー、シビックタイプR“MUGEN20”だ。
発売は2009年。日本とイギリスのチームが共同で開発を進めたこのモデルは、2007年に日本で発売されたFD2ベースの300台限定モデル、無限RRと同じK20A型エンジンを搭載。ピストン交換による圧縮比アップや専用プロフィールを持つカムシャフトへの交換、吸排気系の見直しなどを行ない、専用ECUで制御されるK20A型エンジンは日本仕様のタイプRユーロに対して39ps、2.0kgmアップとなる240ps、21.7kgmを発揮する。
さらに、最高出力の発生回転数は7800rpmから8300rpmへ、最大トルクは5600rpmから6250rpmへと向上。高回転志向を強めている。
シリアルナンバーが刻印された専用ケースを持つオーナーズマニュアル。MUGEN20は1台ずつパワーとトルクが計測され、そのグラフもオーナーズマニュアルに含まれる。ハイパフォーマンスなだけでなく、プレミアム感の演出も上手い。
また、専用セッティングが施された足回りにフロント対向4ポットブレーキキャリパーが与えられ、LSDも専用品を装備。その一方で、タイプRユーロには備わるトラクションコントロールを含むVSA(ビークルスタビリティアシスト/車両挙動安定機能)が省かれ、ABSだけが残される。電子制御デバイスでなくドライバーの技量にクルマのコントロールを委ねてるわけで、その姿勢がかつてのタイプRを思い起こさせる。
ホイールは鍛造7本スポークの無限GPで専用サイズ。「裏側にオフセット表記がなく、フロント用、リヤ用を示すFとRの刻印しか入ってないんです」とオーナー。タイヤは225/40R18サイズのディレッツァZIIスタースペック86を組む。
資料には、MUGEN20のイギリス本国での新車価格は3万8599ポンドとある。当時の為替レートで日本円に換算すると約580万円だ。これを日本まで船便で送って国内で登録するとトータル700万円といったところ。
同じ仕様のエンジンを搭載したFD2無限RRの新車価格が約480万円、乗り出し550万円前後に比べてMUGEN20の方が150万円ほど高いが、世界限定20台という希少性を考えると妥当な価格だと思えなくもない。
オーナーにとって、これが3台目のFN2。「1台目のタイプRユーロは2009年に新車で購入したんですけど、1年ほど乗った頃に水没で廃車。すぐに2台目を買って7~8年乗りました。そのあと手に入れたのが、このMUGEN20です」とのこと。
無限のダクト付きFRP製ボンネットやタイプRユーロ純正スカッフプレート、リヤガーニッシュなど一部のパーツを交換しているが、基本はノーマル。また、「排気系はEXマニとマフラーを日本の無限製に交換してます。イギリス仕様のままだと、国内の排ガスや騒音の規制に引っかかる可能性があったので」とオーナーは言う。
ダッシュボードのデザインは日本仕様タイプRユーロと共通。水温/油温/油圧計で構成される無限製3連追加メーターは本国でもオプション設定されていたが、日本上陸後に装着されたものだ。
本国仕様は右ハンドルでも、ウインカーレバーとワイパーレバーが日本仕様と逆転する。また、MUGEN20はVSA非装着のため、タイプRユーロには備わるオンオフスイッチが見当たらない。
前席はタイプRロゴ入り専用レカロシートを採用。リクライニング調整はレカロでお馴染みのダイヤル式でなくレバー式だから操作しやすい。ちなみに、タイプRユーロにも同じシートが装着される。
フロントバンパーに内蔵されたヘッドライトウォッシャー。メーターナセル右側のスイッチ操作によって稼働する。これも日本のタイプRユーロでは見られない装備だ。
走り出してすぐに感じたのは、乗り心地がタイプRユーロより格段にソリッドだということ。それは、筑波サーキットでDC5のタイムを上回るために開発され、街乗りではハードすぎると思ったFD2に匹敵するほどだった。が、決してネガティブな印象ではなく、むしろスパルタンなタイプRが復活したと嬉しく思ったのは本当だ。
また、ステアリング操舵力は重めでフィーリングもどっしりしたもの。ロール量はタイプRユーロより明らかに少なく、コーナリング時の安定感や安心感で上回る。トラクション性能を高める専用LSDはその存在を主張することがなく、コーナリング中のアクセルオン/オフに対してもハンドリングに影響を及ぼすことはない。
ブレーキはペダルタッチからして別物だ。絶対的な制動性能は言うまでもなく、踏力に応じたコントロール性も抜群。右足の微妙な動きに対してリニアに減速Gが変化するのを体感できる。フロント荷重を調整しながら曲げるためのブレーキングで、これは強力な武器になってくれるはずだ。
エンジンは5000rpmを超えてからのパワー感と吹け上がりの鋭さが桁違い。タイプRユーロも8000rpmまでストレスなく回ってパワーの盛り上がりも感じられるが、MUGEN20は「これが同じK20A!?」と思ってしまうくらい、高回転域でのパワーとレスポンスの炸裂感が強烈なのだ。
このフィーリングを知ってしまったら、多分タイプRユーロには戻れないと思う。逆に5000rpm以下の領域では、タイプRユーロの方がトルク感もあって扱いやすいってことは付け加えておく。
試乗するまで「タイプRユーロを少し手直ししただけ?」と思っていたことを深く反省。MUGEN20は歴代モデルに肩を並べるリアルなタイプRだった。
TEXT&PHOTO:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)
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