MotoGP第12戦チェコGPが、2020年以来5年ぶりにブルノ・サーキットで開催された。現地取材をした筆者が、ブルノの街やブルノ・サーキットの雰囲気をお伝えする。

スーパーマーケットで見たソーセージとインスタント・マッシュポテト

筆者にとっては初めてのチェコだった。日本の成田空港から飛行機でポーランドのワルシャワを経由して、チェコの首都、プラハに到着した。そこからは、レンタカーでの陸路である。

ブルノ・サーキットはチェコの首都、プラハからクルマで200kmほど南東に走ったところにある。ブルノの街は、もう20kmほど走った先である。プラハからブルノまでの高速道路、ブルノの街、ブルノからサーキットまでを往復したドライバーとしての印象は、「一般的なヨーロッパの道」だった。方向指示器を出さないし、車間距離もほとんどなくて運転は穏やかではないが(ただし、日本に比べて)、自分の中では標準的なヨーロッパの道、といったところだ。

チェコは多くのヨーロッパの国のように右車線走行で、基本的にクルマは左ハンドル。高速道路は有料だが、事前にインターネットでレンタカーのナンバープレートを登録しておく。支払いはいくつかの期間が選べて、今回の場合は10日間で290チェコ・コルナ(約2000円)だった。ヨーロッパの各国の高速道路を使っていて思うのだが、軒並み料金が安い。日本はなぜあんなに高いのだろう、と思う。

チェコのプラハとブルノをつなぐ高速道路は、主要な都市同士にわたっていることもあってか、とにかくトラックが多かったし、交通量もあった。それでも、道路状況は悪くはなく、ちゃんと整備されていた。それに、料金所がないので、高速道路の出入りがとても楽であった。

ブルノの街の様子。中心地から少し外れた住宅街©Eri Ito

ホテル、というかホステルはブルノの街にあった。個室の部屋はあるけれど、シャワールーム、トイレ、キッチンは全て共用、という宿である。このホステルの場合、シャワールームもトイレも男女共用だった。チェコ人の気質なのか、それとも個人の特徴なのかわからないけれど、パンツだけでのしのしと歩き回るおじさんを見たことも、一度や二度ではない。最初は慄いたもののだんだん慣れてきて、半裸のおじさんと「こんにちは」とあいさつを交わすまでになった。

金曜日の夜には、MotoGPを見に来たらしいバイク乗りたちがチェックインに困っていたので少し手助けをしたところ、共用のシャワールームとトイレを見て、「え、共用なの!?」といかにもいやそうな顔をして言った。どうやら、チェコでも一般的な設備ではないらしい。こんな(と言ったら失礼だけれど)ホステルでも、MotoGPのレースウイーク中なので料金が高騰していて、6泊で484ユーロ(約83,000円)なのである。

ブルノのスーパーマーケットでは、ソーセージや、お湯を注ぐだけでマッシュポテトができるインスタント食品などがあった。売り場のラインアップを見ると、イタリアやスペインよりもドイツに近い。調べたところ、ブルノは12、13世紀にドイツ人が移住して、第二次世界大戦まではドイツ人が多く住んでいたのだそうだ。食文化も影響を受けているのかもしれない。ただし、残念ながら一度も外食できなかったので、これはあくまでもスーパーマーケットで見ただけの印象である。

インスタントのマッシュポテト。手軽でおいしい©Eri Ito
スーパーマーケットで発見した、MotoGPライダーのフランチェスコ・バニャイアが起用されているモンスターのポップ広告©Eri Ito

ブルノの街からサーキットまでは、クルマで20、30分ほど走れば着く。サーキットは森に囲まれていて、すぐ近くにいるはずなのに、ごっそりと立つ木々がサーキットの姿を見せてくれないほどだった。

ブルノ・サーキットは1930年に公道コースで始まった歴史を持っている。当時は「マサリク・サーキット」という名称だった。公道コースからクローズド・サーキットに変わり、第一次世界大戦、第二次世界大戦を経て、そしてチェコスロバキアからチェコに変わった歴史をくぐり抜けてきたサーキットである。

ブルノ・サーキットのエントランス©Eri Ito
KTMライダーのペドロ・アコスタが、パドックで取材を受けていた©Eri Ito

チェコGPは筆者にとって初めて取材するグランプリだったので、どんな雰囲気なのだろうと思っていたが、週末を通じての観客動員数は22万人だったということだ。現在、チェコ人のMotoGPライダーはいないのだが(Moto2ライダーは一人いる)、バレンティーノ・ロッシのグッズを身に着けている人が目についた。2021年シーズンでMotoGPを引退した伝説のライダーは、どのサーキットでもいまだに人気の高さを感じるのだけれど、特にチェコはその割合が多かったように思う。

初めて訪れたブルノとブルノ・サーキットで、チェコに少し触れることができたかもしれない。もちろん、まだ知らないところがたくさんあるはずだ。そう思うと、「また行きたいサーキット」が、一つ増えるのである。

ブルノ・サーキットの全体図©Eri Ito
木曜日と金曜日は天候がよくなかったが、土曜日からはよく晴れた©Eri Ito
パドックにはライダーの写真が大きく張られている©Eri Ito
2020年ぶりのMotoGP開催。メインスタンドを埋めるファン©Eri Ito