前後にモーターを搭載したAWDモデル。航続距離は500km
ついに「本命」が登場した――。ボルボEX30に追加された新モデル「クロスカントリー」を見て、そう感じた。たとえるなら、モーニング娘。に後藤真希が加入して一気に存在感を増したあの瞬間のように…(古い?)。シリーズの人気を加速する、期待の大型新人といったところだろう。
日本では2024年2月からデリバリーが始まったEX30。ボルボ史上、最も小さいSUVかつ電気自動車(BEV)であり、販売はオンラインのみという新しい取り組みも行われるなど、大きな注目を集めた。導入初年度となった2024年、EX30は1700台を販売。プレミアムセグメントにおけるBEVの販売台数ランキングにおいては、テスラ・モデルYとモデル3に次ぐ3位につけることができ、まずは好調なスタートを切った。


ただ、ライバルの追い上げも強力である。2025年になるとテスラの2台以外にアウディQ4 e-tron、ポルシェ・マカン、MINIエースマンといった新鋭に後塵を拝し、上半期では6位にまで順位を下げてしまっているという状況だ。
ボルボも手をこまねいてはいない。まずはオンライン限定からディーラーでの販売に切り替えることで購入の間口を広げたところ、さっそく販売ペースが回復の傾向にあるという。そして、ボルボはさらなる拡販を目指して、EX30のフルラインナップ化を実施した。これまではリヤにモーターを搭載した「ウルトラ シングルモーター エクステンデッドレンジ」の1グレードのみの展開だったが、リン酸鉄バッテリーを新採用したエントリーモデルから要望の多かったAWDモデルまで、全5グレードを用意するなど、ユーザーの選択肢が大幅に広がったのだ。
そんなEX30のフルラインナップ化の中で最も注目なのが、「クロスカントリー」である。ボルボで「クロスカントリー」と言えば、1997年にステーションワゴンのV70のラインナップに追加された「V70XC」が起源(XCと書いてクロスカントリーと読む)。リフトアップしたボディに樹脂製クラッディングパネルを組み合わせる手法は、このときすでに確立されていた。


当時は、1994年にトヨタRAV4、翌年にホンダCR-Vが登場し、乗用車ベースのRV(レクリエーショナルビークル、現在はほぼ死語)のブームが兆しを見せていた時期。時流にも乗ったクロスカントリーは好評を博し、やがてコンパクトハッチのV40やフラッグシップワゴンのV90にも展開される。現在もミドルワゴンであるV60のラインナップに「クロスカントリー」が残るが、ボルボの主力はすでにSUVであり、そのモデル名に「XC」が冠されているのは周知のとおりだ。
そして今、クロスカントリーという名称は「BEVをよりラギッドに見せる手法」として新たな役割を担おうとしている。その第一歩となるのが、EX30クロスカントリーなのである。
EX30クロスカントリーの魅力は、やはりアウトドアテイストが強まったエクステリアだろう。グリルレスでスッキリとした印象だったEX30のフロントフェイスだが、クロスカントリーではブラックのシールドをプラス。ユニークなのは、表面には“トポグラフィーパターン”と言われる地形図のような模様が刻まれていること。また、さらに目を凝らすとわかるのだが、謎の英数字も配されている。実はこれ、ボルボの本拠地であるスウェーデンの最高峰であるケブネカイセという山(標高2103m)の座標なのだとか。ボルボというと、ワイシャツのボタンも一番上まで留めるようなエリート的イメージがあるが、EX30クロスカントリーは随所に遊び心を感じさせる要素が盛り込まれているのが好印象だ。


さらにEX30クロスカントリーには、リヤゲート部のブラックアウト処理、ホイールアーチの樹脂製エクステンション、前後バンパー下部のインサート、ロゴ入りピラーパネル、19インチ専用アルミホイールといったアイテムがおごられているほか、専用サスペンションの採用により、最低地上高も20mm(175mm→195mm)高められている。

インテリアも、クロスカントリーは特別だ。EX30のシート素材は「パイン」と呼ばれる、カーキのようなグリーンを基調とした内装色が採用されている。これは北欧に広がる常緑の松林をイメージしたもの。シートは松脂や再生PETを原料にしたバイオ素材「ノルディコ」と、ウール混毛のファブリック(こちらにもリサイクルが使われている)との組み合わせで、北欧デザインらしい上質で温もりを感じさせる雰囲気となっている。


家族にも優しい乗り味と、俊敏な加速性能とを両立
というわけで、内外装ともにSUVらしい個性が強まったEX30クロスカントリーだが、実際に走らせてみると、見かけによらない(?)獰猛な加速に驚かされた。ドライブモードは「標準」のほか、省電力走行して航続距離を伸ばす「レンジ」、そしてフロントモーターも駆動して常時AWD状態となる「パフォーマンス」の3種類。試しに「パフォーマンス」を選択して、停止状態からアクセルを全開にしてみたところ、あまりの加速Gに頭の血の気が引いた。ジェットコースターに乗って頂上からまさに落下する瞬間、シートに押し付けられるあの感覚を思い出した。

最高出力200kW/最大トルク343Nmのモーターで後輪を駆動する従来グレードの「ウルトラ シングルモーター エクストラレンジ」だって並のスポーツカーもかくやの加速を発揮したものだが、クロスカントリーははっきりいって別次元。フロントに追加された最高出力115kW/最大トルク200Nmのモーターの加勢もあり、0-100km/h加速は「ウルトラ シングルモーター エクストラレンジ」の5.3秒に対して3.6秒をマークするのだ。ポルシェ911(標準グレードのカレラ)が4.1秒というのを聞けば、どれだけクロスカントリーのダッシュが力強いかがおわかりいただけるだろう。
かといって、ガッチガチのスポーツカーっぽい乗り味なのかというと、そうではないのがクロスカントリーらしいところ。最低地上高を20mmアップさせたのに伴い、足まわりのチューニングを同時に実施。前後スプリングのバネレートはフロントが約7%、リヤが約13%柔らかくなったほか、リヤスタビライザーも直径を21mm→20.5mmと細くすることでソフト方向に変更された。また、電動パワーステアリングのソフトウェアも変更され、ステアリングトルクの立ち上がりやセルフセンタリングなども最適化。これらの効果はテキメンで、19インチの大径タイヤを履いているとは思えないほどの穏やかな走りを味わうことができるのだ。


また、EX30ではクロスカントリーを含めた2026年モデルで細かなブラッシュアップが図られており、それが一段と走りやすさの向上に結びついている。まずは、ワンペダルドライブの進化。これまでの「弱」と「オフ」に「強」が追加されるとともに、センターディスプレイ上での操作に加えて、ステアリングスイッチでの操作も可能となった。
早速、「強」を試してみると、これがいい塩梅。アクセルペダルを戻すと最大で0.3G程度の減速度が発生する。0.1G程度という「弱」と比べるとちょっとした急ブレーキという印象だが、右足の力加減で速度を自由にコントロールできるので、ブレーキペダルへの踏み替え操作が大幅に減少。さらに、完全停止にも対応するのがうれしいところだ。
2026年モデルの改良は、他にもある。フロントシートは座面先端の高さと長さが変更されて腿裏のサポートが向上し、座り心地が改善された。また、ボディカラーは鮮やかなモスイエローの代わりにトレンド感のあるサンドベージュが設定された。特に、ブラックのアクセントが各部にあしらわれたクロスカントリーとの相性が良い新色と言えるだろう。

EX30クロスカントリーでは、純正アクセサリーにも注目したい。標準の19インチから18インチにサイズダウンするオールテレインタイヤ+アルミホイールや、キャリア+ルーフバスケットといった、アウトドア色をさらに強化するアイテムが用意されている。

というわけで、クロスカントリーをはじめとするラインナップの拡充によって、格段に魅力を増したEX30。479万円~という競争力のある価格設定、扱いやすいサイズ(全長4235mm×全幅1850~1865mm×全高1550~1565mm)、最長560kmの航続距離など、スペックも魅力的な数字が並ぶ。BEVの購入を検討しているならば、有力候補のひとつに入れておくべき存在と言えるだろう。
ボルボEX30クロスカントリー ウルトラ ツインモーター パフォーマンス
ボディサイズ:全長×全幅×全高:4235mm×1850mm×1565mm
ホイールベース:2650mm
サスペンション形式:前マクファーソン式ストラット 後マルチリンク
車両重量:1880kg
フロントモーター最高出力:115kW(156PS)/6000-6500rpm
フロントモーター最大トルク:200Nm(20.4kgm)/5000rpm
リヤモーター最高出力:200kW(272PS)/6500-8000rpm
リヤモーター最大トルク:343Nm(35.0kgm)/5345rpm
駆動方式:AWD
0-100km/h加速:3.6秒
最高速度:180km/h
バッテリー容量:69kWh
WLTC航続距離:500km
交流電力量消費率:161Wh/km
ブレーキ:前後ディスク
タイヤサイズ:前後235/50R19
車両本体価格:649万円








