Cadillac Lyriq

久しぶりの右ハンドルのアメリカ車

デザイン上のハイライトとなるL字型のリヤコンビランプは、本国では尾灯として常時点灯するのだが、日本では保安基準の関係でアンバーのウインカーのみに。ストップランプは縦型。
デザイン上のハイライトとなるL字型のリヤコンビランプは、本国では尾灯として常時点灯するのだが、日本では保安基準の関係でアンバーのウインカーのみに。ストップランプは下の縦型部分。

自動車関税を巡って日米で侃々諤々が繰り広げられている昨今。トランプは「もっと日本でアメリカ車を売れ!」と言うけれど、もう30年も米車に乗り続けているファンとしては、もし1990年代のようなアメ車ブームが再来したら? と、あれこれ妄想していたりする。「フォードが日本に再進出? マスタングGTDスゲーな。ブロンコあたりはソコソコ売れるんじゃない?」「シボレーもトレイルブレーザーやコロラドなんかを持ってきたら面白いのに」「もしトヨタが昔のキャバリエみたいに自社ブランドで何か売るとしたら……?」等々。でも何をやるにせよ、円安がもう少し落ち着いてくれないと色々と難しそうだけれど。

 さて、そんな情勢を見越したか否か、久々にGMの本気を感じさせるモデルが上陸した。それがクロスオーバーEVのキャデラック・リリックだ。右ハンドルのキャデラックは2代目CTS以来、実に12年ぶり。価格もアメリカでのベースプライスが約6万5000ドルのところ、1100万円の戦略価格ときた。もしかして中国から持ってきたか? と思ったのだけれど、生産はテネシー州のスプリングヒル工場。実際、正真正銘のアメリカ車だった。

 ボディサイズは全長約5m、全幅約2mだから、メルセデスのGLEやBMWのX5と同じくらい。ただし全高は1.64mとそれらよりもかなり低め。都会的なルックスもあって、SUVというよりはクロスオーバーと呼びたくなるキャラクターだ。

実は“羊の皮をかぶった狼”

アーキテクチャーはGM製EVに幅広く使われる「アルティウム」で、モーターは前後アクスルに搭載。本国にはリヤのみのRWD仕様もあるのだが、日本向けは上級のAWD版が選ばれた。その最高出力と最大トルクは、フロントが231PS/309Nm、リヤが328PS/415Nm。つまりリヤの方がより強力なわけで、これはメルセデスのEQでいえばAMGモデルと同様の手法。よりパフォーマンスを重視した結果で、このあたりからもリリックの狙いが透けて見える。ちなみにシステム総合最高出力は522PS、同最大トルクは610Nmだ。

 そんなリリックの第一印象は「どこからどう見てもアメリカ車だな」というもの。欧州車にも日本車にも、近年EV界隈で台頭著しいアジアンカーにもまったく似ていない。しかも往時のキャデラックが持つ優雅さを上手くアレンジしているな……と思っていたら、CピラーのL字型リヤコンビランプは1967年のエルドラドがモチーフなんだとか。インテリアのクロームメッキ使いといい、長くクルマ好きを続けている身にはどこか落ち着ける雰囲気を漂わせる。やけに未来的でドライなキャラクターのEVが多い中、もしかしたらこの方向性は今後“クルマ屋が造るEV”の勝ち筋になってくるのかもしれない。

 そして走らせるとそんな思いはさらに増幅する。モーターは発進時から最大トルクを発揮できるのでダッシュが鋭いのは当然。だが、いきなり背中をドン! と蹴られるような加速ではなく、「高性能エンジンスポーツカーのさらに一段上をいく」とでも表現すればおわかりいただけるだろうか。また特筆すべきは高速域からの再加速。2速ATなどは搭載していないようだが、その鋭さはもう、ハイパフォーマンスEVの領域。発進時の加速よりも、こちらのワープ感の方が強烈な印象を残す。

以前、サーキット試乗記を展開したキャデラック・リリックだが今回は一般道でのインプレッションをお届けしたい。ちなみにリリックのデビューは2023年だが、その後キャデラックは、本国で「オプティック」「ビスティック」「エスカレードIQ」を発表。すでに電動SUVのフルラインナップを完成させている。
ボディカラーはブラック、ホワイト、シルバーの3色が用意される。だが、もう少しキャデラックらしい派手な色味も欲しかった!?

 ハンドリングはバッテリーを床下に積む低重心を活かし、アシを固めることなくキビキビした動きを作り出している。車重は2650kgもあるのだが、前後重量配分は51対49(いずれも車検証値)。実際バランスも申し分ないのだ。サスペンションのダンパーは入力に応じてオイルの流路を変え、減衰力を調整するパッシブ式のようだが、快適な乗り心地とスポーツドライビング時の俊敏さを十分に満足のゆくレベルで両立させている。さらに巨力なリヤモーターを活かし、後輪で力強く路面を蹴り出して旋回するダイナミズムもある。洗練された外観から想像する以上に走りはスポーティだ。

 一充電走行距離は510kmだが、それもパフォーマンス系EVと考えれば納得できるレベルか。リリックは「叙情的な」というネーミングが示す通り、どこか血の通った生命感を漂わせるEVである。

REPORT/市原直英(Naohide ICHIHARA)
PHOTO/神村 聖(Satoshi KAMIMURA)
MAGAZINE/GENROQ 2025年10月号

 SPECIFICATIONS

キャデラック・リリック・スポーツ

ボディサイズ:全長4995 全幅1985 全高1640mm 
ホイールベース:3085mm 
車両重量:2650kg 
フロントモーター最高出力:170kW(231PS)/15500rpm 
フロントモーター最大トルク:309Nm(31.5kgm)/0-1000rpm 
リヤモーター最高出力:241kW(328PS)/15500rpm 
リヤモーター最大トルク:415Nm(42.3kgm)/0-1000rpm 
駆動方式:AWD 
サスペンション形式:前後マルチリンク 
ブレーキ:前後ディスク 
タイヤサイズ:前後275/45R21 
最高速度:210km/h 
0-100km/h加速:5.3秒 
車両本体価格:1100万円

【問い合わせ】
GMジャパン・カスタマーセンター 
TEL 0120-711-276 
https://www.gmjapan.co.jp/

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