スズキ、初の量産EV「eビターラ」とは?

スズキ・eビターラ

スズキは9月16日、東京で開催した発表会において、自社初の量産バッテリー電気自動車(BEV)となる新型SUV「eビターラ」を世界初公開した。発売は2026年1月16日を予定し、価格は399万3000円から492万8000円に設定された。従来、内燃機関やハイブリッドを中心に展開してきたスズキが、本格的にEV市場に踏み出す象徴的なモデルとして注目を集めている。

開発コンセプトは“Emotional Versatile Cruiser”。直訳すれば「感性を揺さぶる多用途クルーザー」であり、従来のビターラが持つSUVらしい力強さと多用途性を継承しつつ、電動化によって新しい走りと環境性能を融合させた。スズキは本車をグローバル戦略車と位置付け、インド・グジャラート工場で量産し、日本を含む各市場へ展開していく方針を示している。

都市で扱いやすいサイズとSUVらしい力強さ

全長4275mm、都市部でも扱いやすいボディサイズを確保している。

エクステリアは「ハイテク&アドベンチャー」をテーマに、多面体を組み合わせた造形を採用した。押し出しの強いフロントマスクに、シャープなシグネチャーランプが組み合わされ、先進的で力強い印象を与える。四隅に配置された大径タイヤやサイドスラッシュガードもSUVとしての存在感を高める要素だ。アルミホイールは18インチを標準とし、樹脂製ガーニッシュを組み合わせることで軽量化と空力性能を両立させた。ボディサイズは全長4275mm、全幅1800mm、全高1640mm、ホイールベース2700mmと、都市部でも扱いやすいサイズ感にまとめられている。

メーターとセンターディスプレイを同一平面に配置したインテリアを採用。

インテリアはブラックとブラウンを基調にし、上質さと温もりを両立。特徴的なのは、メーターとセンターディスプレイを同一平面上にレイアウトする「インテグレーテッドディスプレイシステム」だ。情報が一目で把握でき、未来的なコックピット空間を演出する。また、センターコンソールはフローティング構造を採用し、足元の広がりを感じさせる設計とした。アンビエントライトやソフトパッド調のトリム、ピアノブラック加飾など、細部の質感向上も怠っていない。

ブラックとブラウンでまとめられたインパネまわりは質感の高さを感じさせる。

49kWh/61kWhのバッテリーで最大520km航続

フロントマスクは“ハイテク&アドベンチャー”をテーマにした押し出し感あるデザイン。

パワートレーンは49kWhと61kWhの2種類のバッテリーを用意する。航続距離はWLTCモードでそれぞれ約433kmと520kmを達成。61kWh仕様には4WDモデルも設定され、こちらは約472kmの航続を実現する。消費電力量は124Wh/kmから144Wh/kmの範囲に収められており、効率性も高水準にある。駆動方式は2WDに加え、新開発の電動4WDシステム「ALLGRIP-e」を搭載するグレードを展開。前後モーターによる緻密な駆動力配分で、雪道や悪路においても安定感を確保する。スズキが長年培ってきた4WD技術をEVに適用した点は、ブランドらしい強みだといえる。

電動4WDシステム『ALLGRIP-e』が雪道や悪路での安定性を高める。電池は安全性が高いとされるリン酸鉄リチウムイオンバッテリーを採用している。

安全装備も最新世代に刷新された。衝突被害軽減ブレーキ「デュアルセンサーブレーキサポートⅡ」、運転支援システム「サポカーS ワイド」、ペダル踏み間違い時急発進抑制装置などを搭載し、事故リスク低減に寄与する。また、EVならではの静粛性を生かしつつ、走行音発生装置も備えることで歩行者への安全配慮も行き届いている。

価格は399万円から、補助金適用で実質312万円は魅力的

スズキ・eビターラ オプション装着車

価格はXグレード(2WD)が399万3000円、Zグレード(2WD)が448万8000円、Zグレード(4WD)が492万8000円。いずれのグレードもクリーンエネルギー自動車導入促進補助金の対象で、補助額は最大87万円。これを活用すれば実質的な購入負担は大きく軽減される。従来、スズキは「軽自動車の雄」として手頃な価格帯のモデルを多く揃えてきたが、eビターラはブランドにとって過去最高水準の価格帯に踏み込んでおり、その点で新たな挑戦となる。

補助金を適用すると、最安グレードの「X(2WD)」の場合で、乗り出し価格は312万円からとなる。

発表会では、スズキ経営陣が「EV市場におけるスズキのスタートライン」と強調したのが印象的だった。競合各社が電動SUVを相次いで投入するなか、eビターラは航続距離や安全装備、価格設定において競争力を持ち得るかが試される。実際の使用環境での航続性能や充電インフラとの適合性、価格に見合う付加価値がユーザーにどう受け止められるかが、今後の評価を左右するだろう。

スズキが得意とする小型SUVというカテゴリーに、eビターラを投入することは、単なる新型SUVの追加ではなく、スズキが電動化時代に本格的に踏み出すための重要なステップであり、航続性能、価格、デザイン、安全装備のいずれも一定の完成度を備えているので、競合との差別化に成功すれば、スズキにとって新たな成長軌道を切り開く一台となるだろう。

発表会に登壇した鈴木俊宏社長は、スズキ初の量産EV「eビターラ」の完成度と将来性を強調した。