それはレストアの新たな解釈


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カー・エンスージアストの間で、最近大きな話題を呼んでいるのが「レストモッド」の世界だ。ちなみにこのレストモッドとは、「レストア」と「モディファイ」という2つの言葉を合せた造語。クラッシックカーのコンディションを、高い知識と技術を持つスペシャリストの手によって「復元」するレストアは、以前から一般的に行われてきたものだが、これに最新の技術を駆使したモディファイ、すなわち「改善」を施すことで新たな価値を生み出すのが、レストモッドの基本的なコンセプトである。
それまでのレストアで正義とされていたのは、新車時のコンディションを忠実に再現することだった。その究極的な例といえるのは、やはりフェラーリ・クラシケや、ランボルギーニ・ポロストリコ、あるいはアストンマーティン・ワークス、ジャガー・クラシックなどに代表される、自動車メーカー自身が組織するクラッシックカー部門によって徹頭徹尾オリジナルに拘ってレストアされた、いわゆるメーカー公認ともいえるモデルたちだろう。これらがクラシックカーの世界において、常に特別な存在として語られているのはよく知られているところだ。


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このオリジナル絶対主義を貫く、いわば伝統的なレストアに対して、ここ最近レストモッドの世界に熱い視線が注がれているのは、やはりそれに採用されるエンジニアリングがきわめて先進的なものであることに大きな理由がある。所有するクラシックカーを美しく保つとともに、その走りをさらに魅力的なものへと進化させるため、オリジナルのモデルに使用されるパーツを、より高性能かつ優れた耐久性を誇るものにアップグレードしていくことは昔から珍しいことではなかったが、それを考えるとレストモッドという概念そのものは、かなり以前から存在していたということになる。



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現在ではさまざまなクラシックカーを素材として、多くのブランドから斬新な成り立ちを持つモデルが続々と誕生するに至っているレストモッドの世界。それがいかに素晴らしく、またクラシックカーに新たな付加価値をもたらすものであるのかを、そのプロダクトとともに最も早くアピールしてみせたブランドのひとつが、2009年にイギリスで設立され、後にアメリカのカリフォルニアへと拠点を移したことで、さらに大きな成長を遂げた、シンガー・ヴィークル・デザインだ。


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彼らが「リイマジンド911」、すなわち「再構築された911」をコンセプトとして生み出したファーストモデルの「クラシック・スタディ」は、ポルシェが1989年から1994年にかけて生産していた964型911をベースとしたものだったが、さらに優秀なエアロダイナミクスや軽量性を実現したボディや、コスワースなどの手によってチューニングされたパワーユニットを搭載するなど、その独自性はきわめて強かった。そしてこのクラシック・スタディの誕生は、レストモッドという新しいジャンルをより確固たるものとするとともに、それに野心的な新興勢力を参入させる直接のきっかけにもなった。彼らがまたポルシェ911をレストモッドのベースに選んでいるのも、このシンガーの影響力がいかに大きなものだったのかを物語っている。


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さまざまなニューモデルが多くのブランドから発表され、その魅力がより強くカスタマーに理解されるようになると、レストモッドにはさらにこれまでとは異なる方向性も見出されるようになる。それは基本となるシャシーやパワーユニットを過去のモデルから継承しつつ、それにまったくのオリジナルデザインとなる、より現代的でスタイリッシュなボディを組み合わせるというもの。レストモッドのコンセプトを拡大解釈したともいえるこの手法もまた、これからひとつのトレンドとなっていくことは確かだろう。レストモッドの世界は、まだまだ多くの可能性に満ち溢れているようだ。


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REPORT/山崎元裕(Motohiro YAMAZAKI)

