S Type

ロールス・ロイスとの共同プロジェクト

第2次大戦後、ヨーロッパの自動車産業にとって重要になったのがアメリカ市場の動向だ。それはベントレーにとっても例外ではなく、アメリカの高級車市場での販売台数拡大は至上命題となっていた。

そこでクルー本社では、「マークⅥ」「Rタイプ」に代わる新型車の開発を1940年代後半からスタート。当初は軍用の直列8気筒やV型12気筒の搭載も検討されたが、ノーズヘビーでハンドリングに悪影響を及ぼすこと、そしてアメリカ市場での人気がV型8気筒にあることから、新設計のV8エンジンを搭載する方向で開発が進められることとなった。

開発を主導したのはチーフプロジェクトエンジニアであるイヴァン・エヴァーデンと、チーフスタイリストであるジョン・ブラッチリーの2人で、ベントレーとロールス・ロイス共同のプロジェクトとして進められた。

シャシーは新設計され、スチール製のラダーフレームながらXメンバーで補強し、大幅に剛性をアップした。サスペンションもフロントダブルウイッシュボーン、リヤリジッドと形式こそマークⅥと変わらないものの、新設計に改められた。またサスペンションのジョイントがボールジョイントになったのも、大きな変更点のひとつであった。

1955年から販売を開始

ブラッチリーによるスタンダードな4ドアボディは「戦後のベントレー&ロールス・ロイス・サルーンの傑作」と評される、近代的なフェンダーとボディを一体化させたフラッシュサイドデザインへと一新。プレス鋼板をメインとしつつもドア、ボンネット、トランクリッドなどにはアルミニウムが使用され、軽量化に貢献していた。

しかしながらV8エンジンの開発が間に合わず、既存の4.9リッター直6OHVをベースにシリンダーヘッドを軽合金化し、圧縮比を6.6にアップするなど改良を施し、SUツインキャブレターを組み合わせたものが搭載されている。

こうして誕生した「Sタイプ」は1955年から販売を開始。1959年までに標準ボディが3072台、ロングホイールベースが35台生産されるという成功を収めた。またローリングシャシーをベースに2ドアのRタイプ・コンチネンタルも製造されたが、218台のH.Jマリナーのほかにも、パークウォード製のクーペ、ドロップ・ヘッド・クーペが185台作られている。

さらにH.Jマリナーでは、コンチネンタルの顧客にスポーティな4ドアサルーンの需要があることを察知し、4ドアのコンチネンタルを開発。H.J.マリナー社長のアーサー・タルボット・ジョンストンにより、スコットランド国境地方のジョンストン氏族の紋章にちなんでSタイプ・フライングスパーと名付けられた。またこのフライングスパーに触発され、ジェームス・ヤングも4ドアモデルを製作している。

S2には最新技術が投入された6230ccV型8気筒OHV

一方クルーでは、新たにチーフエンジニアに就任したハリー・グリルズの元、主任エンジン設計者ジャック・フィリップスが、ウエットライナーを備えた腐食しにくいシリコンアルミニウム合金のシリンダーブロック、クロスプレーンクランクシャフト、航空機エンジンの技術を応用したポート加工を施したアルミ製シリンダーヘッドなど、惜しみなく最新技術を投入した6230ccV型8気筒OHV“Lシリーズ”エンジンの開発に成功する。

1959年からこのV8エンジンをSタイプの車体に搭載した「S2」の発売が開始された。外観上の変更はほとんどなかったものの、パワーステアリング、電動式ライドコントロール、ハイドラマティック4速ATを標準装備。また最高速度が185km/hにアップするとともにパワーの増大で、オプション装備ながらクーラーが装着できるようになった。

このS2にもH.J.マリナーのコンチネンタル、フライングスパー、パークウォード製のクーペ、ドロップ・ヘッド・クーペが製造されているが、珍しいところでは、わずか15台ながらH.J.マリナーがドロップ・ヘッド・クーペを製作しており、そのうちの1台であるUFF 366はマリナーでレストアされ、ベントレーのヘリテイジ・コレクションに収められている。

フロントマスクのデザインを変更したS3

そしてS2の発展型として1962年のパリ・モーターショーで発表されたのが「S3」だ。その中身は基本的に変わらなかったが、ヘッドライトが2灯から4灯になるなどフロントマスクのデザインを変更。6230ccのV8エンジンはハイオクガソリンの使用にあわせて圧縮比を9.0へとアップするとともに、キャブレターも大型のSU HD8に変更。これにより最高出力は218PSへと向上し、装備の追加などによる重量増にもかかわらず、最高時速は185km/hを誇った。

なお1959年にH.J.マリナー、そして1961年にパークウォードもロールス・ロイスに買収され、傘下の一部門としてマリナー・パークウォードが誕生。コンチネンタル、フライングスパーも彼らが手がけたのだが、その中には“チャイニーズ・アイ”と呼ばれる傾斜した4灯ヘッドライトを備えていたものも存在する。

「Rタイプ・コンチネンタル」

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