EV化がもたらした“自動車=巨大な家電”という構図
自動車の潮流がガソリン車から電気自動車(EV)へ移るにつれ、車の構造は劇的に変化した。従来の自動車は、複雑なエンジンやトランスミッションが主役になる典型的な“機械の集合体”だったが、EVではモーターと電池、そして制御ソフトが中心となる。
この構造の変化は、クルマを一気に“巨大な家電”へと近づけた。電気で動き、ソフトウェアによって性能が左右され、アップデートによって能力が進化する。まるでスマートフォンやパソコンがそのまま公道を走りだしたような世界が広がっている。
こうした領域では、電子デバイス、センサー、バッテリー、通信技術といった電機メーカーが得意とする技術が重要な位置を占める。そのためシャープやSONYにとって、自動車はもはや遠い業界ではなく、自らのコア技術がそのまま通用しつつある。
SHARP・LDK+が示した新しい車の形

シャープは2024年にEVコンセプトモデル「LDK+」を発表し、大きな話題を呼んだ。
これは台湾のHON HAI(鴻海/Foxconn)と共同で取り組むEVプロジェクトの一環で、プラットフォームはHON HAI、車内空間の企画・設計、家電連携、AIなどの生活価値を高める領域をシャープが担った。
LDK+が象徴するのは、車を「移動のための工業製品」ではなく、住まいの延長にある“動く生活空間(Living Dining Kitchen)”として再定義する発想だ。
大画面ディスプレイ、スマート家電との連動、AIアシスタントなど、“家電メーカーだからこそ作れる車”という独自ポジションを打ち出し、自動車と家電の境界線を曖昧にする代表例となっている。
車は「走るデバイス」へ SONYが描く新しいモビリティ像
SONYの自動車参入は、EV・自動運転時代の象徴と言える動きだ。
同社が発表した新ブランド「AFEELA(アフィーラ)」は、カメラ・センサー・通信・エンタメを統合した“走る巨大デバイス”の思想がベースにある。
特にSONYが強みを持つCMOSセンサーや映像技術、音楽・映画コンテンツは、自動運転時代の体験価値を形成する中心要素となる。
車外ディスプレイで歩行者とコミュニケーションしたり、車内でインタラクティブなエンタメを楽しんだり、
“車が情報を発し、受け取り、体験を提供する存在”へ進化する未来像を提示している。
EVのモジュール化で参入障壁が下がった

HON HAI(鴻海/フォックスコン)による「MIHアライアンス」は、車の作り方そのものを変えつつある。
従来、自動車づくりは膨大な開発費と長い時間が必要だった。しかしMIHは、EVをモジュール化し、シャーシやモーター、バッテリーを共通のプラットフォームとして開発することで、車づくりのハードルを大きく下げた。
この方式では、完成車メーカーは外観デザインやソフトウェアの体験に注力すればよく、スマホのOEM/ODMで世界最大規模を誇るHON HAIにとっては極めて相性が良い。
家電メーカーが自動車産業に入りやすくなった背景には、こうしたプラットフォーム化の進展がある。シャープのLDK+が生まれた背景にも、このMIH構想がある。
次の巨大市場は「モビリティ」である
家電市場が成熟する一方で、モビリティ市場は依然として世界最大級の規模を誇り、300兆円近い市場が存在する。特にEV、自動運転、車載センサー、車内エンタメなどの領域は今後も拡大が確実視されており、メーカーにとっては“次の成長の柱”となり得る金脈だ。
映像、行動ログ、決済、エンタメ利用履歴など、車載データは新たな収益源となり、AIやクラウドを活用したサービスの主導権は、電機・ITメーカーが握る可能性が高い。
クルマの未来は、家電メーカーの得意分野で構成されている
家電メーカーが自動車をつくるのは奇抜な挑戦ではなく、産業構造が変わった結果としての必然だ。
EV化によって車は電子機器に近づき、自動運転はセンサーとソフトウェアの力が不可欠になり、モビリティ市場は今後も拡大し続ける。必要とされる技術の中心が、家電メーカーがこれまで培ってきた領域へと近づいたことで、両者の境界線は完全に曖昧になりつつある。
今や自動車は“走るスマホ”“走る高性能デバイス”とも言われる。その世界で覇権を握る企業はどこなのか、今後の動向に注目したい。
