2025年シーズン、MotoGPの最高峰クラスにフル参戦した唯一の日本人ライダーが、小椋藍(アプリリア)だ。2024年のMoto2チャンピオンである小椋は、2025年に最高峰クラスにステップアップを果たした。そんな小椋の2025年シーズンを振り返る。
最高峰クラスで戦うということ
MotoGPクラスのルーキーとして、小椋藍はアプリリアのサテライトチーム、トラックハウス・MotoGP・チームから参戦した。2025年シーズンは、どんなものだったのだろうか。
まずは結果から見ていこう。チャンピオンシップのランキングは16位だった。今季のルーキーは小椋とフェルミン・アルデゲル(ドゥカティ)、ソムキアット・チャントラ(ホンダ)の3名で、ルーキー勢としては2番目の成績となる。ルーキー勢のトップはアルデゲルで、1勝を挙げてランキング8位だった。
小椋は開幕戦のタイGPのスプリントレースで4位、決勝レースで5位を獲得し、これが今季のベストリザルトとなった。
また、小椋は今季、2度、大きなけがをしている。ライダーにとってけがは珍しいものではないが、欠場をともなうもの、となると話は別だ。
1回目はイギリスGPで、小椋は右ひざを骨折して手術を受けた。転倒したのが初日午前中だったので、イギリスGPのほとんどとアラゴンGPを欠場した。2回目はサンマリノGP決勝レースでの転倒で、右手の甲2か所にひびを負った。翌戦は母国グランプリである日本GPで、小椋は土曜日までを走ったが、状態が悪化して決勝レースの欠場を余儀なくされた。連戦だったインドネシアGPも欠場している。
開幕戦タイGPでセンセーショナルなデビューを飾っただけに、その後は低迷した、と見えるかもしれない。
ただ、小椋がタイGP以降に低迷したというよりも、状況としてはタイGPでは様々な要因によってスプリントレース4位、決勝レース5位という好結果を生んだのであり、シーズンの状況がルーキーとして通常だった、と言ったほうが正しい。
小椋はタイGPが開催されたチャン・インターナショナル・サーキットを得意としており、2024年のサマーブレイクではトレーニングを行っている。今年のタイGPは、気温が高く、厳しいコンディションだったことも影響した。小椋はこのようなコンディションでのマネジメント能力に長けている。
つまり、タイGPでは周りが苦戦したが、小椋はさほど苦しまずに戦うことができた。もう一つ例を挙げれば、カタルーニャGPもそれに近い。決勝レースで6位に入ったカタルーニャGPは、路面グリップが低いサーキットだった。
加えて、MotoGPの状況はスペインGPから変わる。ライダーの多くはヨーロッパの選手であり、チームの多くの拠点もヨーロッパにある。スペインGPまではタイ、アルゼンチン、アメリカ、カタールという海を超えたサーキットでの週末だが、多くのライダーにとってスペイン以降は走り慣れたヨーロッパのサーキットでのレースとなるからだ。
今季は移籍したライダーが多かった。メーカーを変えたり、メーカーは変わらずともチームを移籍したライダーがいた。ホンダとヤマハについても、この時点ではまだ前年の苦戦を引きずっていた。
もちろん、タイGPは確かに小椋の実力を示した。どんな背景があろうとも、ドライコンディションでルーキーがデビューレースであのポジションを走ったことは、センセーショナルだった。それは間違いない。そして同時に、以降に「苦戦した」「低迷した」という見方は正しくはないということだ。

小椋自身、MotoGPのレベルについてこう語っている。
「やっぱり、難しいですね。MotoGPはみんな速い。世界選手権に来て、いちばん悪いランキングは10位でした(Moto3クラス1年目の2019年)。今年はそれよりも大きく下回りましたから。Moto2の1年目よりも、はるかに難しいです」
MotoGPクラスは、22名のライダーが参戦する。世界で22名しか参戦できない場所の厳しさがそこに現れている。
もちろん、小椋には課題もある。小椋は厳しい状況のときに周りほど苦戦せずに走ることができるが、コンディションが悪くない、あるいはいいときには、周りほどタイムを上げることができなかった。結果にはそれぞれに、様々な要因があるが、これもまた、その要因の一つだった。
バレンシアGP後の11月18日に行われた公式テストのあと、小椋に「ライディング面で改善できたと思えるのはどこですか?」と尋ねた。
「高速コーナーでは、Moto2のときよりも上位を走るライダーとの差がなくなったかな、という感じはあります。そこはポジティブに捉えていますけどね。でも、まだまだすべてが足りないです」
課題としては「ブレーキング、旋回、立ち上がり」という一連の流れを挙げていた。
2026年シーズンは、2月上旬にマレーシアで行われる公式テストから始まる。そして、2月下旬には開幕戦タイGPが行われる。2か月ほどのオフシーズンを経て、小椋はMotoGPクラスで2年目のシーズンに挑むことになる。