スズキ・DR-Z4SM……¥1,199,000(2025年10月8日発売)

ホイールトラベル量はフロント280mm/リヤ296mmのDR-Z4Sに対し、DR-Z4SMは260mm/277mmに設定。試乗車は純正アクセサリーのローシート(1万9800円、約30mmダウン)を装着していた。燃料タンク容量は8.7Lで、指定ガソリンは無鉛レギュラー。残量が2.1L未満になると給油マークが点滅する。今回の試乗では平均燃費が28km/L程度だったので、200kmを目安に給油するのが現実的だろう。
標準装着タイヤはダンロップ・スポーツマックスQ5Aで、内部構造はDR-Z4SM専用設計とされる。前後ホイールの17インチ化による車高ダウン(最低地上高は300mmから260mmへ)に伴い、DR-Z4Sとは長さの異なるサイドスタンドを使用。
車体色はソリッドスペシャルホワイトNo.2とスカイグレーの2種類。リムのカラーは前者がブルー、後者はブラックを採用する。車重はDR-Z4Sの151kgに対し、プラス3kgの154kgを公称。
DR-Z400SM(2005年モデル、日本仕様)
DR-Z400SM(2024年モデル、US仕様)

先代にあたるDR-Z400SMの日本での発売日は2004年12月1日。モトクロッサーRMシリーズ譲りの倒立式フロントフォーク(DR-Z400Sは正立式)や、新設計のスイングアームなどを採用していた。税込み価格は73万2900円で、スズキの資料によれば2011年モデルまで販売を継続。右は昨年(2024年)までラインナップされていたUS仕様のDR-Z400SMだ。

400ccシングルは近代化改修によって目覚ましく進化

かつては各メーカーが積極的にラインナップしていたスーパーモトだが、排ガス規制の強化を境に国内市場から姿を消し、いつしか「過去のカテゴリー」と見なされる存在になっていた。そんな停滞した空気を打ち破ったのがカワサキであり、2022年10月にKLX230SMを導入。そして今年、これに続くかのようにスズキが「DR-Z4SM」をリリースした。先代DR-Z400SMが2011年モデルを最後にディスコンとなっていることを考えると、実に約15年ぶりの復活であり、この瞬間を待ち望んでいたファンも少なくないはずだ。

KLX230シリーズのモデルチェンジのタイミングで追加されたのが「KLX230SM」で、日本では2022年10月に発売された。国内メーカーで初めてスーパーモト(スーパーモタード、スーパーバイカーズとも呼ばれる)をラインナップに加えたのがカワサキであり、その記念すべき第1号車「Dトラッカー」は、2002年にスズキがOEM供給を受ける形で「250SB」という名称で発売している。

先代のDR-Z400SMは、デュアルパーパスモデルである「DR-Z400S」をベースに、およそ5年後に派生モデルとして追加された。それに対して新型DR-Z4SMは、デュアルパーパスのDR-Z4Sと同時に開発され、そして同日にリリースされている。この成り立ちの違いは、両モデルが対等な立場で設計されていることを意味しており、車両全体の完成度にも大きく影響しているように思える。

搭載されている398ccのエンジンは、現在の国内メーカーの公道用モデルとしては最大級の単気筒で、もはや「ビッグシングル」と呼んでも差し支えないだろう。トランスミッションは6段ではなく5段であり、潤滑方式も従来どおりドライサンプを踏襲するなど、基本設計は先代を受け継いでいる。しかしその一方で、構成部品の多くは刷新されており、ほぼ新規のパワーユニットといっても過言ではない。

バランサー付きの398cc水冷4ストローク単気筒エンジンは、DR-Z4SMと共通だ。燃料供給は従来のBSR36キャブから10ホールインジェクターを持つFIとなり、スロットルボア径をφ42mmへと拡大。点火プラグは1本から2本となり、どちらも着火性に優れるイリジウムを採用する。吸気バルブはチタン製、排気バルブはナトリウム封入タイプとなり、合わせて吸排気カムのプロフィールを変更。なお、最高出力はDR-Z400SMの40PS/7,500rpmから38PS/8,000rpmへ、最大トルクは39Nm/6,500rpmから37Nm/6500rpmへと、それぞれ微減している。
左はSDMS(スズキ・ドライブ・モード・セレクター)の出力イメージだ。A/B/Cの各モードでピークパワーこそ変わらないが、スロットル開度に対して発生する出力に大きな差があることが分かる。さらに、Aモードではギヤ別に出力特性を変更し、高いギヤほど開度に対して発生する出力を大きく設定。さらにDR-Z4SMはスーパーモトという特性上、スロットル操作に対しての挙動が敏感になることから、DR-Z4Sよりも各モードの開度差を小さくしているという。右は1/2/G(グラベル)/OFFの4つから選べるSTCS(トラコン)の介入イメージで、モード1は乾いた舗装路向け、モード2は濡れた舗装路向けとなっている。また、こちらもサスセッティングやタイヤ銘柄の違いにより、DR-Z4SとDR-Z4SMでそれぞれ専用チューニングが施されている。

このエンジン、φ90mmという大径ボアを与えられたことで、一般論としてはノッキングの発生が懸念される。よって、その対策としてツインプラグ化が図られたのだろう。実際、A/B/Cいずれのライディングモードにおいても、極低回転域でガツガツとした不快な挙動は一切感じられず、回転は驚くほどスムーズに立ち上がる。最新の電子制御と組み合わされることで、400ccシングルがここまで扱いやすくなるのかと感心させられる完成度だ。

Aモードでは、Vストローム250SXより10kgも軽い車体との相乗効果によって、加速フィールがとにかく刺激的だ。同日に試乗したDR-Z4Sと比べるとホイールトラベル量が少なく、さらにタイヤのグリップ力も高いためか、スタートから一気に前へ出るダッシュ力はまさに脱兎の如し。ハブダンパーを持たない構成もあって、スロットル操作に対する車体の反応は極めてダイレクトで、加速・減速ともに瑞々しく応答する。一方で、バランサーの効果により、振動は不快に感じないレベルにまで抑え込まれており、高回転域まで引っ張ることにためらいはない。

中間にあたるBモードでは、Aモードに比べて全域でレスポンスが穏やかになり、伝わる振動もわずかにマイルドになったような印象を受ける。最もオールマイティに使えるモードであり、スロットルを大きく開けなくても、流れの速いバイパスを余裕でリードできるほどの懐の深さを見せる。

最も穏やかなCモードは、特に低~中回転域の出力が意図的に抑えられており、その領域での加速“感”は250ccクラスのデュアルパーパスに近い。スロットルを開け続ければ高回転域までしっかり伸びていくものの、ピークに達するまでの時間は長めだ。ライダーの疲労が蓄積してきた場面や、緊張感を強いられるウェット路面など、穏やかな出力特性が求められるシチュエーションで真価を発揮するモードと言えるだろう。

このようにSDMSの各モードは明確にキャラクターが分けられており、「三つの顔を持つエンジン」と表現しても大げさではない。ちなみに、勾配のきつい峠道をAモードで走行していると平均燃費は20km/Lを下回りそうになるが、Bモードで市街地を淡々と移動していたところ徐々に回復し、最終的には約28km/Lに落ち着いた。このあたりがDR-Z4SMの実燃費に近いと言えそうだ。

セオリーどおりに操縦することで高い旋回力を引き出せる

DR-Z4SMのハンドリングは、誤解を恐れずに言えば、一般的なネイキッドのように誰にでも即座に馴染むタイプではない。車重そのものは軽いものの、走り始めると低速域から車体が起きようとする力が明確に感じられ、ロール方向の動きには想像以上の手応えがある。これを安定志向と好意的に捉えることもできるが、とりわけ倒し込みの軽さが際立つDR-Z4Sから乗り換えると、違和感を覚えるのも正直なところだ。

もっとも、こうした特性はスーパーモトというカテゴリー全体に共通するものであり、言い換えれば正統派であることの証でもある。DR-Z4SMは、ハンドル操作だけで車体を寝かせようとすると、フロントタイヤがなかなかイン側を向かず、コーナーを大きくはらみやすい。いわゆるアンダーステア傾向だ。しかし、進入速度を高めたうえでブレーキングによってフロントフォークをしっかりと縮め、リーンアウト気味に車体を倒し込むと、挙動は一変する。そこからは驚くほどクイックに向きを変え、コーナーを鋭く抜けていくのだ。ブレーキングから倒し込み、そして二次旋回に至るまで、フロントタイヤから伝わってくる接地感は常に潤沢で、ラインの修正も自由自在。とりわけステアリングヘッド周辺の高い剛性は明らかで、ダンロップ・Q5Aという高いグリップ力を持つタイヤを履いてなお、車体が音を上げる気配はない。

新設計の合金鋼セミダブルクレードルフレーム。中央に1本だったタンクレール部が左右2本となり、見た目にもステアリングヘッド付近の剛性が高まっていることが分かる。なお、エンジンは従来と同様にドライサンプ式であり、メインフレームのフロント内部をそのオイルタンクとして活用している。

初見の峠道など、コーナーの曲率半径が読みづらい場面では、必要なバンク角を想像しながら走ることになり、思い描いたラインを外してしまうことも少なくない。裏を返せば、同じコーナーを何度もトレースできるサーキットや、走り慣れた通勤ルートでは、進入速度や荷重の掛け方を自在にコントロールできるということでもある。セオリーどおりの操作を行うことで高い旋回性能を引き出せる点は、性格としてはスーパースポーツに近い。それでいて要求されるハードルははるかに低く、その絶妙な立ち位置こそがDR-Z4SMの存在価値と言えるだろう。

ブレーキは、フロントにφ310mmの大径フローティングディスクを採用し、制動力は十分以上。コントロール性も良好で、もう一段リリース側の感触が明確であれば完璧だと感じた。リヤはモトクロッサーRM-Zと共通のマスターシリンダーを用いていることもあってか、ABSが介入する直前までのコントロール性が非常に高く、街乗りにおいてもダイレクトな操作感が楽しめる。

フロントブレーキはディスク径こそ従来と同じφ310mmだが、フローティングピンを6か所から8か所に増やすことで耐久性やフィーリングを向上させている。ニッシン製のピンスライド片押し式2ピストンキャリパーはDR-Z4Sと共通だが、パッドは両モデルで異なる。ホイールは前後ともワイヤースポークを採用。
新設計のアルミ製スイングアームや、φ240mmディスクを採用したリヤブレーキのセットはDR-Z4Sと共通。ハブダンパーがない点も同様だ。なお、ABSは前後とも解除できるDR-Z4Sに対し、DR-Z4SMはリヤのみキャンセル可能。

スリムかつ軽量な車体に加え、ハンドル切れ角も大きく、街中での取り回しは良好だ。一方で気になるのは足着き性で、今回の試乗車はローシート装着車だったため問題なかったが、不安を覚える人は事前にショップでまたがって確認しておきたい。

直接のライバルと目されるKTM・SMC R(2025年モデル/85万9000円)と比べると、DR-Z4SMの119万9000円という価格設定は、決して安いとは言えない。正直に言えば、今回の短時間の試乗だけで「この価格に完全に納得した」と言い切ることは難しい。しかしその一方で、走り出した瞬間に「自分が本当に欲しかったのはこれだ!」と直感的に理解してしまうライダーが存在するのも確かだ。そうした運命的な出会いを果たした人にとっては、DR-Z4SMは決して高価な買い物ではなく、むしろ替えのきかない相棒になるはずである。

ライディングポジション&足着き性(175cm/68kg)

ハンドルおよびステップはDR-Z4Sと共通パーツだ。本来のシート高(890mm)では身長175cmの筆者でも足着き性は厳しかっただろうが、約30mmダウンするローシートによってここまでしっかりと足が地面に届いた。なお、シート高を含む着座位置はハンドリングに大きく影響するので、目的を持って下げたいというのが筆者の持論だ。

ディテール解説

ステンレス製のエキパイおよびサイレンサーともDR-Z4Sと共通。触媒を2段とすることで走行性能を維持しつつユーロ5+をクリアしている。
KYB製のφ46mm倒立式フロントフォークは、アウターチューブの外径の一部がDR-Z4Sと異なるほか、ボトム部にある圧側減衰力調整ダイヤルの位置も異なるなど、それぞれで作り分けている。なお、トップキャップに伸び側減衰力の調整ダイヤルがあり、プリロート調整機構がないという点は共通だ。
KYB製のフルアジャスタブル(圧側減衰力は高速と低速の2ウェイセッティングが可能)式リヤショックは、見た目こそ同じだがDR-Z4Sとは異なるものを使用。
アルミ製のテーパーハンドルバーおよびトップブリッジはDR-Z4Sと共通パーツで、日本仕様は左側にヘルメットホルダーを備える点も同じ。
スロットルケーブルを介したライド・バイ・ワイヤ方式を採用。電子制御ライダー支援システムのスズキインテリジェントライドシステム(S.I.R.S.)は、スズキドライブモードセレクター(SDMS)、スズキトラクションコントロールシステム(STCS)、そしてABSの設定が任意に変更可能。リヤのABSキャンセル時にはフロントのABSの介入度も変更される。このほか、ワンプッシュでエンジン始動が可能なスズキ・イージースタート・システムも装備。
DR-Z4Sと共通のモノクロLCDディスプレイを採用。新たにギヤポジションインジケーターとバーグラフ式の燃料計が追加されたが、タコメーターの表示機能はなし。
ステップバーの幅は従来比で33mmから49mmへと広くなり、位置は18mmバックしている。ブレーキペダルはアルミ鍛造製だ。
一つの発光部でハイビームとロービームが切り替えられるバイファンクションLEDヘッドライトを採用。バンク中は路面を照らすように設計されている。LEDのフロントウインカーはポジションランプも兼ねる。
コンパクトに設計されたLEDテールランプ。ナンバー灯もLEDだ。写真ではやや見づらいが、シート後端とリヤフェンダーとの間にある開口部は、エアクリーナーボックスへの空気の流入をスムーズにするために設けられている。
試乗車に装着されていた純正アクセサリーのローシート。これを装着することで座面の高さは約30mmダウンする。
こちらはDR-Z4SMに標準装着されるシート。上面がフラットなので、前後方向への着座位置の自由度が高そうだ。
キーロック式の左フロントフレームカバーを開けた状態。ここに車載工具に納められている。シートを外すには、左右のフロントフレームカバーと左右のサイドフレームカバー、シートバンドを取り外さなければならない。
リヤフェンダーの左側にある円筒形のパーツは、ツールボックスではなくエバポキャニスターだ。

スズキ・DR-Z4S/DR-Z4SM(2026年モデル) 主要諸元

型式 8BL-ER1AH
全長/全幅/全高 2,270mm/885mm/1,230mm【1,190mm】
軸間距離/最低地上高 1,490mm【1,465mm】/300mm【260mm】
シート高 890mm
装備重量 151kg【154kg】
燃料消費率 国土交通省届出値:定地燃費値 34.9km/L【36.1km/L】(60km/h)2名乗車時
WMTCモード値 27.7km/L【28.8km/L】(クラス3、サブクラス3-1) 1名乗車時
最小回転半径 2.4m【2.3m】
エンジン型式/弁方式 GKA1・水冷・4サイクル・単気筒/DOHC・4バルブ
総排気量 398cm3
内径×行程/圧縮比 90.0mm×62.6mm/11.1:1
最高出力 28kW〈38PS〉/8,000rpm
最大トルク 37N・m〈3.8kgf・m〉/6,500rpm
燃料供給装置 フューエルインジェクションシステム
始動方式 セルフ式
点火方式 フルトランジスタ式
潤滑方式 圧送式ドライサンプ
潤滑油容量 1.9L
燃料タンク容量 8.7L
クラッチ形式 湿式多板コイルスプリング
変速機形式 常時噛合式5段リターン
変速比 2.285~0.863
減速比(1次/2次) 2.960/2.866【2.733】
フレーム形式 セミダブルクレードル
キャスター/トレール 27° 30′【26° 30′】/109mm【95mm】
ブレーキ形式(前/後) 油圧式シングルディスク(ABS/油圧式シングルディスク(ABS)
タイヤサイズ(前/後) 80/100-21M/C 51P【120/70R17M/C 58H】 チューブタイプ 120/80-18M/C 62P【140/70R17M/C 66H】 チューブタイプ
舵取り角左右 45°
乗車定員 2名
排出ガス基準 平成32年(令和2年)国内排出ガス規制に対応

※【 】内はDR-Z4SM