S13シルビアを象徴する、誰にでもわかりやすい先進技術2つ・・・【時代の名車探訪 No.3-12 最終回】 日産シルビアS13・1988(昭和63)年 プロジェクターヘッドランプ/フロントウィンドウディスプレイ編

「いまあたり前」の黎明期を飾ったS13の先進技術

いよいよ大晦日である。
なぜ12月31日のことを「大晦日(おおみそか)」というのか。
それは毎月の最終日を「晦日(みそか)」と呼ぶのだが、12月31日は12月の「晦日」であると同時に、1年間の最終日でもあることから「大晦日」というのだ。

全12回でお送りしてきたS13解説の最終回=大晦日回は、「最初はS13だったっけな」と思わせる、プロジェクタータイプのヘッドライト、フロントウインドウディスプレイ・・・この2つの技術の紹介だ。

1.プロジェクターヘッドランプ

資料では「量産車としては世界初の4灯式プロジェクターヘッドランプ」と謳っている。
さきに「プロジェクターライトはS13が初めて・・・」と書いたが、ランプにプロジェクターレンズそのものを用いたのは、正確にいえば1987年8月の改良型R31スカイラインのGTシリーズにオプションで起用されたのが最初。
R31スカGはロービームに限っていたが、2灯であれ4灯であれ、あの、ビー玉のでかいやつを半分に割ったみたいなランプの認知&普及にはずみをつけたのはS13シルビアが最初だと思っている。

R31のマイナチェンジ時、GTシリーズにオプションで用意されたプロジェクターヘッドランプ。ハイビーム側は通常タイプ。
R31後期型スカイライン(1987年)。
当時の資料による断面構造図。

このシルビアのライトは、さきのスカGとともに市光工業の開発品。
S13の発表(1988年5月17日)から2日後の5月19日には、市光工業は、販社での日産純正オプション品として、プロジェクター式フォグランプの単体品も発売している。

S13シルビア発表から2日後、販社オプション用として発売されたプロジェクター式フォグランプ。
プロジェクターフォグランプの断面構造図。

先にヒストリーを述べてしまうと、日産はプロジェクター式をクルマによって4灯、2灯と使い分けながら初代セフィーロ(A31・1988年)、R32スカイライン(1989年)、Z32フェアレディZ(1989年)へと続けていった。

初代セフィーロ(A31型・1988年)。
R32スカイライン(1989年)。
Z32フェアレディZ(1989年)。

S13では左右4灯=片側2灯のうち、外側がロービームで内側がハイビーム。
好き嫌いは分かれようが、丸いレンズによって外観デザイン上、目つきが鋭くなり、精悍な顔つきになる商品効果があるが、機能上のねらいは上方向への光のカットにある。

プロジェクター式ヘッドランプ付きのS13。
点灯中の走行シーン。こちらに近づくにつれ、光源の色が変色したもので、筆者は商品性のひとつなのかと思っていたが、本当はなくしたいものだったらしく、実際時が進むにしたがって変色はなくなっていった。
こちらは標準ランプの点灯状態。

いま主流のマルチリフレクター式は、光源背後の多様な角度の複合多面リフレクターへの反射で配光するからレンズは素どおしだ。
この頃の一般的なヘッドランプは、リフレクターは曲面で、配光の多くはレンズ裏面に刻まれた凹凸で決めていた。
レンズ式であれ、いまのマルチリフレクターであれ、いくら下向きに照らしたいロービームといえど、配光をどう飼いならしたつもりでも上方向への光の漏れは避けられない。
これは雨の日、上に漏れた光が落下中の雨に乱反射し、視認性の低下の元になっていた。
そこで考え出されたのがプロジェクター式ライトで、前方の非球面凸レンズ、光源、光源を取り囲む、楕円形を基本とするリフレクター、その中間からややレンズ寄りに配したシェードの4つで構成される。

断面図で見て第1焦点となるバルブから放たれた光はコンピュータ解析で形づくられたリフレクターに反射し、シェード上端にいったん集められてから(ここが第2焦点)非球面の凸レンズを通り抜けて前方照射に充てられる。

S13のプロジェクターランプの断面構造図。まあ、基本構造はR31用と同じだ。
プロジェクター式のねらいは、シェードを用いて影を作り、上方向への光の分散をカットすることにある。上方に光が漏れると降雨時、雨粒に光が乱反射して視界低下につながることを阻止したかったのだ。

ロービームの場合、上方向への光をできるだけカットして上で下方向を照らしたい。
このシェードで上方向への光をカット・・・クルマを壁際に置いてライトを点けるとよくわかるのだが、サイドに当たった光を見ると、ライト高さから上は影が生じ、下が明るく照らされることがわかる。
この影はシェードの影・・・つまりシェードの影を映すから「プロジェクター:projector(投影機)」式ヘッドライトなのだ。

なお、これは片側2灯のうちのロービーム側の話で、上方に光を放つハイビームは影が不要だからシェードは存在しない。
影を投影しないわけだから、見かけ上、ロービームと同じ非球面レンズを持っていても厳密には、ハイビームは「プロジェクター式」とはいえないことになる。

ここからは私見。

筆者の経験からすると、いま主流の白いLED光とプロジェクター式はあまりなじみがいいとはいえないと思う。
プロジェクターランプのクルマにお乗りの方の中にはすでにお気づきのひとがいるかも知れない。
というのも、上方向に影の黒、下側の白い光、運転視界では上下の白黒のコントラストが人間の目であまりにくっきりしすぎていて影はより黒く感じられ、暗い部分にある物体が黒に埋もれてかえって認識しづらいのだ。

実はライトの照射エリアは規格で決められており、クルマの正面に置いた壁に照射したときの光の広がりは、ゾーンIからIVの4エリアに分けられている。
上方向の光は「ゾーンIII」に属し、光を意図的にいくらか漏らす程度に放つことで、ライト高さから上の物体(人の上半身や標識、看板など)も照らすように考慮されている。
つまりある程度は上方向への光は必要なのだが、これが夜の雨天では乱反射の元となっているわけ・・・二律背反の要素がある。

色味がオレンジ寄りでLEDよりは照度が落ちるハロゲン式なら問題なかろうが、白い激光のLED時代に、プロジェクター式はなじまず、見直されなければならないだろう。
この疑問をいちど自動車安全の専門家に呈してみたら、同じことを考えていたらしく、「あんなものはやめるべきだ」といっていた。

お話戻して、S13も後期(1991年)には、それまでの「4灯」から、フォグランプも含めてプロジェクター化した「新開発3連プロジェクターヘッドランプ」に変えている。

2.フロントウィンドウディスプレイ

もうひとつ、S13を象徴する(と勝手に筆者が思っている)のが、K’sとQ’sにセットオプション「Gパッケージ」のひとつだったフロントウィンドウディスプレイである。

車速をデジタルのセグメントでフロントガラス右下に表示。
運転視界の中に車速を虚像表示することで、目の移動量を少なく、そして目の焦点が遠方に合ったままでも車速を把握できるようにすることがねらいだ。

フロントウィンドウディスプレイ。
ドライバーから見たフロントウィンドウディスプレイ。

当時学生だった筆者が初めて見たときは、あまりの未来感に驚愕したものだ。
私はてっきり、ガラスの中に薄い薄い発光フィルムのようなものがはさまれているのかと思ったが、それでは遠方への虚像表示の説明がつかなくなる。

原理を見たらがっかり。
とどのつまり、あなたが洗面所で歯を磨きながら鏡で自分の顔を見るのと変わらないのだ。
がっかりと書いたが、がっかりするほど簡単な割にその効果は大きいことを意味する。

フロントウィンドウディスプレイの構造図。いずれ解説するときがクルマも知れぬが、トヨタがソアラなどに用いたスペースビジョンメーターの仕組みも似たようなものだ。

メーターフード奥直下にディスプレイユニットが内蔵され、上部に投影口がある。
ハンドル向こうの真のメーターは、フロントウィンドウディスプレイとセットで速度計だけがデジタル表示になるハイブリッドメーターとなるが、その速度計と同じ表示をガラスに投影する。
図を見ればわかるとおり、照射元のメーターは高輝度蛍光表示管で、表示管正面の反射鏡で1回、その鏡に映った表示像をガラスに反射した数字をドライバーが見る・・・2回反射した像を見るから、元のユニットは正像。
逆にいうと、ドライバーは、ユニットがインパネ内部の誰も見る者のいない暗がりの場で表示している車速を、2回反射でガラスに映った像を通じて見ているのだ。

計器盤内部で輝く数字がガラスに映っているだけのことなのだ。
フロントウィンドウディスプレイのユニット。ここを何かでふさぐと何も映らない。
フロントウィンドウディスプレイとセットで、ハンドル奥のメーターも変わる。車速のみがデジタル表示されるハイブリッドメーター。

この、直接見えない先の様子を鏡の反射の繰り返しで見る手法は、江戸川乱歩の「湖畔亭事件」を思わせる。

ガラスの方にも仕掛けがあり、表示はコンバイナと呼ばれるエリアにされるが、これはフィルムや着色ではなく、ガラスの製造過程で施された反射膜・・・一種のコーティングだ。

車外から見た投影部分。コンバイナと呼ぶ。ガラス製造時の加工処理による金属膜だ。

位置はドライバー正面から右に7度の位置。
サイド視で見たとき、表示の前後位置=フロントガラスからの距離(L)はワイパーのあたりで、浮いた格好で虚像表示される。
図にあるが、その(L)は、インパネ内部の表示部と1回目の反射鏡の距離(a)と、反射鏡とコンバイナの距離(b)の合計となる。

いまかなり普及しているヘッドアップディスプレイの現代版にはコンバイナが見当たらないが、その代わり、虚像表示がにじまないよう、ガラスの厚みを変化させるなどの工夫で対応しているようだ。
また、その位置も、ここでいう(L)=(a)+(b)どころではない手法で距離を稼ぎ、もっと奥・・・フード中間あたりで浮遊するようになっている。

他にはメーターフード上に設置した、電動で起き上がるアクリル(?)パネルに表示したり・・・いまやヘッドアップディスプレイもいろいろだ。

フロントウィンドウディスプレイ、その後・・・

日産は、S13の3年後、1991年のU13ブルーバードにもこのフロントウィンドウディスプレイを投入している。
U13ブルの開発主管は、S13と同じ川村紘一郎さん。

S13での表示は車速のみだったが、U13ブルでは他にターンシグナル、ブレーキ、半ドア警告が追加され、油圧、充電、排気温度、燃料残量、エンジン、シートベルト、ABS、エアバッグなどは不具合や異常が生じたとき、「CHECK」のマスターワーニングが表示されるようになった。

U13ブルーバードに起用されたフロントウィンドウディスプレイ。
表示項目が増え、ここにはないが、ターンシグナルもある。
3年経っても基本構造は変わらない。
U13ブルーバード2000ARX-Z(1991年)。同じブルでセダンとハードトップ、まったく異なるデザインで仕立て上げたのがこのブルの特徴だった。
U13ブルーバードSSS-G(1991年)。

これは引きつづき、S14シルビアにも継続されている。

こちらはS13の次のS14シルビアのフロントウィンドウディスプレイ。
表示内容も構造もほとんどU13に倣ったようだ。
S14のコンバイナ。
S14のフロントウィンドウディスプレイ表示。
S14シルビア(1993年)。

最後の回はちょっとかけ足になったが、今回を持ってS13シルビアの解説はおしまい。

次回の「名車探訪」は何にするか、公開までのお楽しみということで。

みなさん、どうぞよいお年を。

【撮影車スペック】

日産シルビア Qs
(E-S13HA型・1988(昭和63)年型・4速AT・ライムグリーンツートン(特別塗装色))

●全長×全幅×全高:4470×1690×1290mm ●ホイールベース:2475mm ●トレッド前/後:1465/1460mm ●最低地上高: 135mm ●車両重量: 1110kg ●乗車定員:4名 ●最高速度: – km/h ●最小回転半径:4.7m ●タイヤサイズ:185/70R14 ●エンジン:CA18DE型・水冷直列4気筒DOHC・縦置き ●総排気量:1809cc ●ボア×ストローク:83.0×83.6mm ●圧縮比:9.5 ●最高出力:135ps/6400rpm ●最大トルク:16.2kgm/5200rpm ●燃料供給装置:ニッサンEGI(ECCS・電子制御燃料噴射) ●燃料タンク容量:60L(無鉛レギュラー) ●サスペンション 前/後:ストラット式/マルチリンク式 ●ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ディスク ●車両本体価格:186万9000円(当時)