先日、本田技研工業が連結子会社することが発表された「アステモ」。我々エンドユーザーにはあまり馴染みのない会社名だが、実は2輪車の技術にも大きく関わっている会社だ。1930年自動車部品の製造を開始した日立製作所が、2002年に日産系のユニシアジェックスを子会社化、さらに2004年にはトキコを吸収合併し、2009年に日立オートモーティブシステムズが設立された。2019年にはオランダのCBIを買収し、さらに2021年にはケーヒン、ショーワ、日信工業(NISSIN)と経営統合して日立アステモへ。2025年4月からアステモ株式会社に社名変更された。元々ホンダと関わりの深かった部品メーカーではあったが、2025年12月16日、日立製作所からアステモの株式21%相当を取得し、本田技研工業が連結子会社とすることが発表された。

アステモはバイクの先進技術の開発を数多く行っている。ここでは11月4日より9日まで、イタリア・ミラノで開催された世界最大のモーターサイクル博覧会EICMAにアステモが出展した二輪車の安全性や快適性能向上のニーズに応える技術、次世代の二輪車開発に貢献する製品を紹介する。

ADAS技術

周囲の状況、標識も認識して出力やサスペンションの動きも統合制御。

前方検知用ステレオカメラを使用した二輪車用ADAS(Advanced Driver Assistance system・先進運転支援システム)は2022年に発表して以来、EICMAでは毎年進化した最新版を発表してきました。2025年はこれまでの機能を維持しながら、ACC(Adaptive Cruise Control・車間距離維持機能付き定速走行装置)の機能を充実。カメラセンシング技術ならではの新しい機能の追加と他の車体制御機能との連動により、走行安全性能の更なる進化と快適性の向上を目指している。

先行車両を認識して設定した車間距離や速度を維持して安全な走行を支援。

最初のステップではステレオカメラ、モノカメラなどの前方、後方検知用カメラで自車の走行状況や周辺状況を認識して、状況に応じてアラートをライダーに知らせて危険回避を促すことで安全性の向上を目指す。前方や後方の危険を検知して知らせるFCW(Foward Collision Warning・前方衝突警報)や、BSD+BCW(Behind Spot Detection+Behind Collision Warning・後方死角検知+後方衝突検知)、信号及び標識を認識して知らせ、警告する機能がある。

第2のステップではカメラが検知した自車および周辺状況にあわせて、エンジンの出力やブレーキ、サスペンションなどを統合制御して、安全かつ快適な運動支援を提供して交通死亡事故ゼロを目指す。先行車を認識して設定した車間距離や速度を自動で維持するACC(Adptive Cruise Control・車間距離維持機能付き定速走行装置)、衝突の危険を察知した際にライダーのブレーキ操作をサポートするEBA(Emergency brake Assist・緊急ブレーキアシスト)や、AEB(Autonomous Emergency Braking・緊急自動ブレーキ)、速度標識を認識して自動的に安全な速度へ調整するISA(Intelligent Speed Assistance・自動速度制限装置)などがある。

第3ステップではカメラ検知機能と車体制御および姿勢制御の親和性を高めて、転倒事故による危険性を低下させるとともに、V2x協調技術(Vehicle to Everyting・車両と外部環境との間で情報通信を行う技術)も活用して新しい移動体験の提供を目指し、死角の危険要因に対する早期回避も可能となり、交通事故ゼロの貢献に繋げる。2025年のEICMAには第1ステップの技術に第2ステップで目指す技術を追加し、様々な走行場面でカメラ検知機能と車両統合制御のシステムが稼働し、安全にライディングする様子を、実走行映像を通して体験できる展示を行った。

最新のスーパースポーツモデル用燃料供給システムの2モーター電子制御スロットルボディ技術

中央に配置した集約コネクターが2つのモーターを制御してスロットルバルブを駆動。

2025年のFIM世界耐久選手権/鈴鹿8時間耐久ロードレースでは、ホンダのファクトリーチーム「Team HRC」が周回数217で優勝を果たした。ハイスピードなレース展開と40℃に迫る高い気温という過酷な環境の中での勝利には、ファクトリーマシン「CBR1000RR-R FIREBLADE SP」に搭載したAstemo製電子制御スロットルボディ「ETB/Electronic Throttle Body」も寄与している。このシステムを採用した車両はFIMスーパーバイク選手権(WSBK)やFIM世界耐久選手権、全日本ロードレース選手権(JSB1000クラス)に参戦し、最新型のCBR1000RR-Rにも同じシステムが採用されている。

2024年型CBR1000RR-Rに搭載されたAstemo製電子制御スロットルボディは、L型並列4気筒エンジン搭載の電子制御スロットルボディとしては世界初となるセンター配置2モーターを採用。スロットルボディの全幅を増やすことなく2モーターを搭載したことで、車両の空力性能を維持しながらエンジンの左右2気筒ずつを独立して制御することが可能となり、ドライバビリティが向上している。最大の特徴は並列する4つのスロットルボアの中央に集約コネクタを配置したこと。左右に2つのモーターを配置してコネクタ内に2つの駆動軸を配置することで、左右に分かれた2つの気筒をそれぞれ独立して制御。これによりアクセルの低開度領域では左右のスロットルバルブを片方ずつ開くことでトラクションを向上させ、タイヤがグリップ力を維持したままエンジン出力のコントロール性を向上。減速時にも左右スロットルバルブの開き方を変えることで、エンジンブレーキの効きを増加させる制御が可能になっている。また、一つのモーターの負荷を減らすことで、全域においてモーター駆動するスロットルバルブのライダーによる操作に対する追従性が向上し、操る楽しさと安心感を両立させている。

スロットルボディの中央に配置している集約コネクターは、スプリングや歯車などのモーターと連結してスロットルバルブを駆動する部品を配置しているが、これらをいかに薄く、かつ高強度で設計する事がこの2モーター電子制御スロットルボディを実現させる大きな課題となった。この集約コネクタはAstemoの特許技術だ。

そのほかにも多くの独自技術を展示

SHOWA EERA Gen2が体験できる展示も。
ECUを内蔵した電子制御サスペンション。
オフロード競技用ピンスライドキャリパーのプロトタイプも。
最新テクノロジーを注いだレース関連製品も展示された。

2025年のEICMAでは、ギアポンプ駆動サスペンションアジャスターとECU内蔵電子制御サスペンションによる「SHOWA EERA Gen2」が体験できる展示や、NISSIN製オフロード競技用ピンスライドキャリパーのプロトタイプなど、多くの二輪車用先進技術の展示も行われ、世界にAstemoの技術の高さをアピールしていた。

もっと詳しく知りたい方はAstemoのHPをチェック!

Astemo株式会社

Astemo株式会社のサイトです。自動車用製品および二輪車用システム分野において、グローバルをけん引する先進的なモビリティソリューションをご紹介します。

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