現在、MotoGPにタイヤを供給するのがミシュランだ。そんなミシュランは、MotoGPのタイヤサプライヤーとしての役割を2026年で終え、2027年からはスーパーバイク世界選手権(SBK)のタイヤサプライヤーとなる。
市販タイヤには、どのような影響があるのだろうか。
MotoGP第21戦ポルトガルGPで、ミシュランの二輪モータースポーツ・マネージャー、ピエロ・タラマッソさんにインタビューを行った。
SBKサプライヤーとなることで市販タイヤが得る恩恵
2025年、世界最高峰の二輪ロードレース選手権、MotoGPにタイヤを供給するミシュランは、2027年以降はスーパーバイク世界選手権(SBK)のタイヤサプライヤーを担うことになる。
MotoGPを戦うために開発されたレース専用車で争われるMotoGPとは異なり、SBKとそれに併催される選手権は、市販車をベースとしたマシンで争われる。例えばSBKなら、基本的にベース車両は各メーカーの排気量1000ccクラスのバイクだ。2025年は、BMW M1000RR、ドゥカティ パニガーレV4R、ホンダCBR1000RR-R、ヤマハYZF-R1、ビモータKB998リミニ、カワサキZX-10RRなどが参戦した。なお、チャンピオンを獲得したのは、BMW M1000RRを走らせた、トプラク・ラズガットリオグルである。
ミシュランタイヤは過去にSBKにタイヤを供給していたが、2004年にワンメイクタイヤになって以降、サプライヤーはピレリが担ってきた。ミシュランにとっては、約20年ぶりのSBK復帰であり、初めての「SBKにおけるワンメイクタイヤサプライヤー」となる。
では、MotoGPとSBKのマシンの違いは、供給するタイヤにどう影響するのだろうか。
タラマッソさんは「SBK向けのタイヤは、MotoGPとは異なるものになります」と説明する。
「確かにSBKも非常に速いですが、タイヤにかかる荷重やストレス、エネルギー量は、MotoGPほど大きくありません。また、(SBKは)レース距離も少し短いです」
SBKでは、レギュレーションで決勝レースの距離が最低85kmから最大110kmと定められている。一方、MotoGPでは明確な距離はレギュレーションに記載されていないが、2025年シーズンの各サーキットのレース距離を確認すると、およそ105kmから120kmほどである。MotoGPのほうが少し長めだ。
「そのため、(MotoGPとは)性格の違うタイヤになります。言ってみれば、『より扱いやすいタイヤ』ですね。私たちがトラックデイや、フランス・スーパーバイクなどの国内選手権で使っているタイヤに、より近いものになります。MotoGPのタイヤよりも、そちらの特性に近いです」
「MotoGPのタイヤは、非常にプロトタイプ色の強い設計ですが、SBK用はそうではありません。つまり、より市販タイヤに近い方向性になります」
「まずは開発用のタイヤとして使いますが、その後は、市販タイヤへとつながっていくものになります。現在の市販タイヤに、かなり近い位置づけですね。そのため、私たちは新しいレンジ(シリーズ)を開発します。そして、それが検証、承認された段階で、市販タイヤとして展開していく予定です」
MotoGPの場合、培われた技術は市販のタイヤに反映されるまで5~8年かかっていた。MotoGPのタイヤと市販のタイヤはニーズがまったく異なるからだ。MotoGPからサーキット用の市販タイヤ、その後、公道用のタイヤに技術が投影されていく、というのが流れだった。
「MotoGPから市販タイヤへ展開する場合は、やはりかなり時間がかかります。イノベーションを実際に公道用のタイヤへ落とし込むには、どうしても長い時間が必要になるのです」
SBKも選手権としては最高峰であることは間違いないが、車両が市販車ベースである分、MotoGPよりも市販タイヤに技術が落とし込まれるスピードは早い。
タラマッソさん曰く「その点、スーパーバイクの場合は、はるかに速いです。最大でも1年ですね」ということだ。かなりのスピードアップである。
「新しいソリューションを試して、それがうまく機能するとわかれば、SBKで5~7戦ほど使って検証し、その後、市販タイヤへ展開していくことができます。ですから、SBKから市販タイヤへの技術移転は、最長でも1年です。MotoGPに比べて、はるかに、はるかに早いのです」
「バイクに乗る人たちは、とても喜ぶはずです。レース(SBK)で使われているものとまったく同じ製品を、しかも非常に早い段階で手に入れられるのですからね」
2027年からのSBKワンメイクタイヤサプライヤー就任は、ミシュランにとっても、「新しい」チャレンジだ。
「MotoGPとはまったく違うやり方で取り組むことになります。ライダーも違えば、バイクも違います。そして何より、市販モデルやメーカーとの距離が、より近いんです。その点が、とても興味深いですね。そういう意味で、本当に新しいチャレンジだと思っています」
世界最高峰で磨かれた技術が、1年というスパンで市販のタイヤに投入される。しかもそれは一過性ではなく、継続的なものになる。新しい技術が次々とサーキットで生まれ、検証され、そして我々のもとに届くことになる。
2027年から始まるミシュランの挑戦は、すべてのバイク乗りにとっても大きな注目になりそうだ。

