なんですか、この蝶ネクタイのようなステアリングホイールは!

正直に言おう。ステアバイワイヤ(以下SBW)の初見は「違和感ありあり」だった。レクサス車といえば、ステアリングホイールはどのモデルも真円。LFAは例外的にDシェイプを採用していたが、量産モデルはLBXからLCまで、ステアリングホイールは一貫して真円だ。クロスアームが好きではない僕は「さすが、レクサスのマスタードライバーはわかっているなぁ」と思っていたのに、なんですかこの蝶ネクタイのようなステアリングホイールは!
これじゃ操作性にも違和感があるんだろうなと思いながら、袖ケ浦フォレストレースウェイのサーキットにコースイン。1コーナー(40R)を曲がったら「あれ? 思ったより普通だぞ?」と感じた。過敏感や制御の遅れは感じないし、操舵に対して切れすぎる感じもしない。このコースでもっともカーブがきついのは、4コーナーと9コーナーの25Rなのだが、そこも100度ぐらいの舵角で曲がれるため、ステアリングを持ち替える必用はない。
もっとも、コース幅が15mもあり、それを目一杯使えるサーキットでは、あまり正確な評価はできない。そもそも車速が50km/hを超えると、センター付近のギヤレシオは極端には速くはなくなる。旋回Gが高まるほどに保舵力が大きくなる点は、普通のステアリングとは大きな差はなく、違和感はない。いや待てよ、違和感がないというのは、すごく良くできているということではないのか?

インタラクティブマニュアルドライブとは?
とはいえ「3周のうちの最後の1周はクールダウンして戻ってください」と言われているので、SBWの評価はほどほどにして、加速性能の評価に移る。サーキットコース用の試乗車は、特別仕様車の「RZ600e F SPORT Performance」。シリーズ最強の313kW(約425.3ps)を発生する。といっても、「これ見よがし」な加速応答はなく、アクセル操作に忠実な反応だけが返ってくる。
この日は最高速度が100km/hに制限されていたため、最終コーナーで40km/hぐらいまで落としてから全開加速をしてみたら、ホームストレートを半分も走らないうちに100km/hに到達。思わず「おおっ!」と声が出た。ちなみに0→100km/hは4.4秒とのことで、平均加速度を計算すると、約0.64G。どのくらい強力かは、ジェット旅客機の離陸加速度が0.3〜0.5Gだというあたりから想像していただきたい。


2周目は新型RZのもうひとつの新機軸である“インタラクティブマニュアルドライブ(以下i-MD)”を試してみる。モーターのトルク特性を8段階に分け、シフトパドルによってそれを選択できるようにしたもので、仮想ギヤ段に合わせ、エンジンサウンドのような人工音がスピーカーから流れてくる。ホンダが新型プレリュードに搭載した“S+シフト”に似ているが、i-MDに自動変速モードはなく、シフトパドルによるマニュアル選択のみとなる。
低ギヤ段で引っ張ると、甲高い音ともに爽快に加速し、+側パドルを引くと、シフトショックのようなヘジテーションと同時にサウンドの周波数が低下する。また、アップシフトせずに仮想レブリミットに突き当てると、点火カットしたようなギクシャクした挙動が、それっぽい音とともに発生する。さらにダウンシフト時には、排気がバタつくような音まで再現される。加えて、高ギヤ段からアクセルを深く踏み込んだ際にも自動ダウンシフトさせず、加速にもたつき感まで作っている。徹底的にリアルだ。
トルクやサウンドの特性は、何か特定のエンジンをイメージしたものではなく、下山のテストコースを気持ちよく走れることを前提に創作したとのことだが、サウンドは甲高く、レクサスLFAのV型10気筒に電気的なノイズをトッピングした印象だ。
シフトパドルは指1本で操作する程度の面積しかないが、これが操舵時に持ち替える必用のないSBWのステアリングと相性が良い。i-MD非選択時には、パドルは回生ブレーキの強弱調整(4段階)に使用できる。


さて、サーキットの3周回を終え、クルマをRZ550e F SPORTに乗り換える。こちらはナンバーが付いており、公道走行OKの車両だ。ただし、いきなり公道に出るのではなく、クローズドコースでパイロンスラロームと後退駐車を体験してからのスタートとなる。
コースインのために微低速で直角カーブを曲がると、「おお、切れる!」とすぐに感じられる。スラロームコースはピッチが短く、ノーマルステアリングでは360度以上、回さないと通過できない。しかしSBW車なら、半分以下の舵角で通り抜けてしまう。ノーマスルテアリング車のロックtoロックも約2.7と遅い部類ではないが、SBWのそれは約1.1と半分以下に過ぎないから、持ち替えることなく通過できてしまう。

ただし気をつけなければならないのは、クイックに切れるからと言って、小回りが利くようになるわけではないということ。ステアリング操作をする際には、後輪の軌跡を意識するのがセオリーだが、SBW車はあまりに鼻先が素早く向きを変えるため、つい意識が前輪にいってしまい、スラロームの際に後輪でパイロンの足を踏んでしまうことがあった。
後退駐車時も同様で、普段の感覚で操舵すると、クルマが動きすぎてしまう。ドアミラーが凸面鏡だったこともあり、1回目はうまくいかなかったが、バックモニターも併用しながら行なえば、それほど違和感なく白線中央に収めることができた。このあたりは、乗っているうちに慣れてしまうだろう。

レクサスRZを買うなら、SBWが付くRZ550e F SPORTがオススメ

さて、いよいよ公道に出てみたわけだが、これも思いのほか違和感はなかった。サーキットコースで感じたのと同様、車速が50km/hぐらい出てしまえば、普通のステアリングと変わらない感覚で運転できる。交差点では切り込むほどにギヤレシオの速さを感じるが、それも進路予測を誤るようなレベルではない。擁壁のある狭いカーブで、ちょっと探りながら操舵することはあったが、これも慣れてしまうだろう。操舵感は滑らかである一方、インフォメーションとしての手応えや振動はきちんと返してくる。「これ、本当に機械的につながっていないの?」と疑いたくなるほど自然なフィードバックだ。
蝶ネクタイ型のステアリングホイールも、触感からして「いつもと違うクルマに乗っている」ということが認識できるので、ノーマルステアリング車と2台使いしているユーザーでも、運転を誤ることはないだろう。

最後にノーマルステアリングのRZ350eで公道を走ったのだが、これがむしろ、SBWの良さを確認することとなった。ノーマルステアリングは、機械的な遊びが取れて舵が利き始める瞬間や、電動パワーアシストが乗ってくる瞬間、アシストの強さが変わる瞬間などがわかってしまう。といっても、単独で乗っていれば気付かない程度なのだが、そうしたノイズを排除したSBW車に乗った直後だと、認識できてしまうのだ。

そんなわけで、レクサスRZを買うなら、SBWが付くRZ550e F SPORTがオススメ。20扁平のタイヤでも、荒っぽい乗心地はではまったくなく、むしろRZ350eのほうが、タイヤの硬さやばね下の収まりの遅れを感じる。価格差160万円の価値は、十分にあるだろう。
