ポルシェ911初のハイブリッド、T-Hybrid

ポルシェ カレラGTS ニュルブルクリンクのタイムは7分16秒934で従来モデルを8.7秒上回る。最高速度は312km/h。

ポルシェ911は、スポーツカーの代名詞だ。クルマ好きなら誰しも一度はオーナーに、あるいはそれが叶わなくとも、一度はステアリングを握ってみたいクルマである。筆者も、もちろん例外ではない。
20代後半、自動車メディアに関わるようになったとき、いや、それ以前から「いつかは911」と思い続けてきた。

1991年、ポルシェ911(964型)カレラ2クーペの新車価格は1035万円だった。
ボディサイズは全長×全幅×全高=4245mm×1660mm×1310mm。
当時の大卒初任給は17万9400円で、価格は約73か月分に相当する。もちろん簡単に手が届く存在ではなく、あくまで「いつかはポルシェ911」という憧れだった。

とはいえ、まだ“失われた30年”に入る前の時代だ。「一生懸命働けば、いつか程度のいい中古の911なら手に入るのではないか」と、希望を持てた空気も確かにあった。

それから時は流れ、中古の911は高騰を続け、新車の911はベーシックなカレラで1853万円という価格帯に達した。

自動車メディアに身を置いていても、ポルシェ911に乗る機会はそう多くない。ましてや、クローズドな環境で、熟練インストラクターの指導を受けながら最新の911をドライブできる機会となると、なおさらだ。

千葉県袖ケ浦市にあるポルシェ・エクスペリエンスセンター東京(PEC東京)

そんな貴重な体験の場を用意してくれたのが、ポルシェジャパンである。場所は、千葉県袖ケ浦市にあるポルシェ・エクスペリエンスセンター東京(PEC東京)。

多彩なコースを最新のポルシェで体験できるPEC東京で、筆者がステアリングを握ったのは911カレラGTS。ポルシェ911初のハイブリッドシステム、T-Hybridを搭載するモデルだ。

低μ路でも安心してアクセルを踏み、スピンも体験できるのが、PEC東京のありがたみ。なるほど、スピンモードにはこう入るのか、とわかる。

ハンドリングやシャシー性能を詳細に論じられる腕前を持つわけではない、ごく平均的なドライバーである筆者が引き出せたのは、そのポテンシャルの20%程度だったと思う。それでも、「濃密」と表現したくなるドライブ体験は、まさに驚異的だった。「こんなに良いクルマがあるのか」と、素直に感じさせられる。

おそらく2000万円、3000万円、あるいはそれ以上の、いわゆるスーパーカーには、それぞれに特別な味わいがあり、一般的なクルマとは別次元の“何か”があるのだろう。その濃密さは、まずエンジンに表れている。

写真では省かれているが、前モデル2基構成だったチャージエアクーラー(インタークーラー)を1基の大型に統合し、エンジン上部に水平配置される。Vario Cam PlusをVario Camへ変更。バルブリフト切換を廃したシンプルで高効率な構造にした。
3.6Lに排気量をアップした水平対向6気筒ターボエンジン。
ここが電動ターボ(eTurbo)である。
高い応答速度。回生モードではレース用に開発されたポルシェ919ハイブリッドと同様に排気エネルギーが電気エネルギーに変換される。従来のウェイストゲートが不要。ブースト圧を精密制御し、効率を向上した。

911カレラGTSは、ボアを91.0mmから97.0mmへ拡大し、ストロークを76.4mmから81.0mmへ伸長。排気量を3.0Lから3.6Lへ拡大した水平対向6気筒エンジンを搭載する。最高出力は458ps、最大トルクは570Nm。数値だけを見れば、驚くほどではないかもしれない。しかし注目すべきは、電動ターボチャージャーの採用だ。

これにより、いわゆるターボラグは極小化されている(少なくとも筆者の感覚では、ほぼ皆無)。アクセルを踏み込めば、即座に意図したトルクが路面に伝わる。

911カレラGTSのパワートレーン
新型モーターはPDK一体型。直径286mm×長さ55mmのコンパクトサイズ。40kW(約45ps)300Nmを発揮。モーターはPDKハウジングに完全統合され、クランクシャフトに直結している。
アイドリング回転域(700rpm)から最大トルクを供給する。

ル・マンを制したポルシェ919ハイブリッド譲りの電動ターボ(eTurbo)は、回生モード時に最大11kWまで排気エネルギーを電気エネルギーへ変換する。400V、1.9kWhのバッテリーはフロントに配置され、前後重量配分の最適化に寄与。重量はわずか27kgだという。12Vバッテリーも、約7kgのLiFePO₄(リン酸鉄)バッテリーが採用されている。

PDK一体型の新型モーターは、直径286mm×長さ55mmというコンパクトなサイズながら、40kW(約45ps)/300Nmを発生。アイドリング回転域の700rpmから最大トルクを供給する。

新開発の400V/1.9kWhのバッテリーはココに。
21700サイズの円筒形セル×216個で構成される。21700サイズとは、直径21mm、高さ70mmの円筒形電池を意味する。

エンジンとモーターを合わせたシステム最高出力は541ps、最大トルクは610Nm。車両重量1620kgから算出されるパワーウェイトレシオは3kg/psを下回る。

いまでも「いつかは911」

もっとも、こうしたスペックの話は、実のところ本質ではない。重要なのは数字ではなく、感性や官能性だ。コークスクリューやニュルブルクリンクのカルーセルを模したコーナーを持つ全長2.1kmのハンドリングトラックを走らせてもらったが、とにかく楽しい。ポテンシャルの一部しか引き出せなくても、クルマを思い通りに操る歓びを存分に味わえる。思わず「なんていいクルマなんだ」と、ため息が漏れた。

2379万円という価格(オプションを加えれば2500万円を軽く超える)は、決して気軽に手を出せるものではない。加えて、現在注文しても納車まで年単位の時間がかかるという。それでも、ポルシェ911は、日常のドライブで交差点を曲がるだけでも、確かな楽しさと歓びを与えてくれる存在だと想像できる。

もし筆者がいま20代、あるいは30代だったなら、この911カレラGTSのドライブ体験は、「いつかはポルシェ911を手に入れよう」と決意するに十分なほど鮮烈だったに違いない。

2025年の大卒初任給は23万9280円。911カレラの新車価格1853万円は、77.4か月分に相当する。じつは、1991年当時と911への“距離感”は、それほど変わっていないのだ。
「いつかは911」というキーフレーズは、いまなおクルマ好きの真実である。とくに若い世代には、響くはず。

2026年、再び「いつかは911」を胸に、がんばろう――そう思わせてくれた一台だった。

ポルシェ911GTS 全長×全幅×全高:4555mm×1870mm×1295mm ホイールベース:2450mm
ポルシェ カレラ911GTS
全長×全幅×全高:4555mm×1870mm×1295mm
ホイールベース:2450mm
車重:1620kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式/Rマルチリンク式
駆動方式:RWD
エンジン
形式:水平対向6気筒DOHCターボ+モーター
型式:
排気量:3591cc
ボア×ストローク:97.0mm×81.0mm
圧縮比:13.9
最高出力:485ps(357kW)/7500rpm
最大トルク:570Nm/2300-5000rpm
燃料供給:DI
燃料:無鉛プレミアム
燃料タンク:63L
モーター出力:41kW
システム出力541ps/610Nm
トランスミッション:8速DCT+モーター
車両価格:2379万円