圧倒的シェアを誇るヤマハ「ゴルフカー」「ランドカー」が水素で走る
2025年末、私は水素燃料エンジンを搭載した「ランドカー」のハンドルを握る機会に恵まれました。ベースとなったのは、ヤマハ発動機のガソリンエンジン仕様のランドカー。ゴルフ場でお馴染みのゴルフカーをイメージしていただければ間違いありません。

実はヤマハは、国内のゴルフカー市場で7割を超える圧倒的なシェアを持つナンバーワンメーカーです。世界でも第2位を誇り、累計生産台数は100万台を突破。リゾートでの移動手段や、近年では地域の足となる「グリーンスローモビリティ」としても活用されています。
ちなみに、ヤマハブランドではゴルフクラブもありますが、あちらは楽器のヤマハ株式会社が作っています。ちょっとしたヤマハトリビアでした。





さて、ゴルフカーはこれまでゴルフ場で乗ったことがあります。ゴルフ場ですので、アップダウンもあり、ぬかるんでいる場所もありますが、そんな不整地でも大人4人と4セットのクラブを乗せてグイグイと進んでくれます。
私なんか下手くそが、打つたびに右へ左へと飛んでいってしまっても、ちょこちょこと小回りを効かせてくれる、回転半径の小ささも特長です。
乗ったことある人ならわかると思いますが、ゴルフカーはメインスイッチを入れれば、エンジンスタートもクラッチミートもアクセルを踏むだけでOK。なんだったら駐車ブレーキもブレーキペダルと一緒になっています。ハンドル以外の運転操作はすべて2ペダルで完結するのです。
究極にイージードライブな車両になっており、世界中に普及しているのも納得いく乗り物です。
水素エンジンの実力と、クリーンルームのようなテスト現場
そんなガソリン車をベースにして、水素燃料で走れるようにしたランドカーも、操作系はまったく同じです。
サイドブレーキ解除と同じように、ブレーキペダルの左上を踏むと駐車時のためのブレーキロックが解除されます。
あとはアクセルを踏むと静かにエンジンは始動し、踏み込むと自動遠心クラッチにより、エンジンパワーは後輪へと伝わり、ランドカーは進みだします。
そのトルク感はガソリン車よりはやや控えめに感じました。
というのも、水素はガソリンに比べ、エネルギー密度が重量でも体積でも小さいわけです。簡単に言えば、同じだけ燃やしても発生する熱量が少ないわけです。
「なーんだ、パワーが出ないのは残念……」と思うのはまだ早い。
水素燃料を使うメリットは、さっきから説明している既存のガソリン車をベースに比較的簡単に変更できるわけです。そのため、熱量が低い燃料である水素を使うと最高出力、最大トルクが小さくなってしまうのは物理の法則に従っているだけなのです。言い換えると、水素燃料専用に開発またはチューニングすれば、ガソリンと同等の出力、トルクを得られる可能性はあるのです。
そして最大の特長と感じたのは、排気ガスの臭いがしないことです。
一般のゴルフカーを走らせれば、当たり前ですが、やはりガソリン車の排ガス臭がします。それに対し、水素燃料では、発生するのが理論上は水とNOxのみです。なので、排ガスは無臭です。まさに、クリーンエネルギーそのものだと感じます。

さて、同様の水素を燃料とするスクーター「H2 Buddy Porter Concept」が2025年のジャパンモビリティショーに出展されていましたが、その車両そのもののデモランも見学することができました。







テストライダーによる走行は、何事もなく、通常のスクーター同様の走行を見せてくれました。
もちろん、燃焼臭はまったくありません。
水素を燃料にして走らせることは、ランドカー同様に既存エンジンを使用し、ガソリンタンクを水素タンクに替え、その他の燃料系統をわずかに変更することで、水素燃料車とすることが可能です。
ただし、水素燃料の4輪車は、トヨタミライなど既に公道を走っていますが、バイクの場合、法整備の関係で今のところ走っている車両はありません。具体的には、搭載できるタンクの容量や、そのクルマより小さなタンクに給水素ができない、などの複雑さが絡んでいるのですが、なんとかテスト走行くらいはできそうな目途も立っているようです。
さらにヤマハでは、S耐に出場するトヨタGRカローラの水素エンジン開発に技術協力しており、水素エンジンのテストベンチも保有しています。そちらベンチをメディアに公開してくれました。




エンジンベンチへの水素供給は、大きなトレーラーに搭載された水素タンクから、周りを窒素で充填した二重管による配管で建屋内に送り込まれます。

それ以外では、万が一水素が漏れた場合の排気装置があるくらいで、ガソリンエンジンのそれとほぼ変わりませんが、油臭いエンジンテストベンチという印象よりも、クリーンルームくらいの清潔さと、やはりガソリン臭がしないことが印象的でした。
「マルチパスウェイ」戦略:海の命を守るための水素エンジン
水素の実力を体感した後、設楽元文社長によるラウンドテーブルが行われました。設楽社長は、本社社屋のロゴをLED化したことに触れ、「東海道新幹線の車窓から見える“YAMAHA”の光をぜひ確認してほしい」と地域への愛着を語った後、まずは経営数字の発表と説明。その後、ヤマハの進むべき道「マルチパスウェイ(多角的経路)戦略」について明言しました。

「電動化は必ず来ます。しかし、それがすべてではない」と設楽社長は語った。特にマリン事業において、沖合でのバッテリー切れは命取りになります。燃料を置き換えることで既存のエンジン技術を応用できる「水素直接燃焼エンジン」は、マリン分野において極めて現実的かつ重要な手法なのです。
もちろん、電動推進操船システム「HARMO」の開発、インドでのスタートアップ企業との協業による電動プラットフォーム開発など、電動化も同時進行で進めています。自社ですべてを抱え込まずに最適なパートナーと組む現実的な路線も並行して進めています。
「一番のヤマハファン」設楽社長が描く感動創造の未来

質疑応答の際、愛車のSR400を所有する私から「若者のバイク離れと400ccクラスの衰退」についてお聞きしたところ、設楽社長から最も熱のこもった回答が返ってきました。
「私は二輪を一過性のトレンドで終わらせたくない。欧米のように仕事をリタイアした人がバイクを趣味にしていると『良い趣味ですね』と尊敬されるような、文化として定着させたいんです。そのためには、スペック競争ではない『普遍的な価値』を持つモデルを作り、古いモデルの部品サポートを含め、長く愛せる環境を整えるのがメーカーの使命です」
さらに印象的だったのは、社長が2025年最も感動した出来事として、新入社員300名全員を「鈴鹿8耐」観戦に招待したことを挙げた点です。「理屈ではなく、これがヤマハの仕事なんだと肌で感じて欲しかった」という言葉に、企業の魂を感じました。
最後に名刺交換をさせていただいた際、社長は「私もSR持っていますよ」と笑顔で教えてくれました。経営数字を語る時の厳しい表情が、バイクの話になるとふっと緩む。設楽社長自身が誰よりも熱狂的な「ヤマハファン」であること。その事実に、私は何よりも感動したのです。
