Porsche Cayenne Electric
カイエンEVは「独自プラットフォーム」で勝負する

久々にフルモデルチェンジを果たした「カイエン エレクトリック」の国際試乗会に参加した。「タイカン」「マカン」に続くポルシェ第3のBEVとして登場したカイエンだが、そこにはタイカンでの知見、さらにはフォーミュラEで培った最先端のモーター技術が惜しみなく投入されている。カイエンEVから始まるポルシェ独自の先進技術、そして彼らが描く次世代のBEV戦略とはどのようなものか。その根幹を成すプラットフォームから紐解いていきたい。
論理性を重んじるドイツの自動車メーカーは、プラットフォームという概念を極めて重視する。フォルクスワーゲングループが展開する、横置きエンジン車向けの「MQB」や、アウディ主導の「MLB」(縦置きエンジンベース)などはその代表例だ。BEV時代において、ポルシェとアウディは共同で「PPE(プレミアム・プラットフォーム・エレクトリック)」を開発した。「マカンEV」や「アウディ Q6 e-tron」がこれを採用しているが、より大きく重いボディを持つカイエンには、ポルシェが独自にカスタマイズを施したPPEの進化版が投入された。これは単なるサイズ拡大ではない。将来のパナメーラEVをも見据えた、ポルシェ独自のダイナミクスを実現するための“専用土台”と言えるものだ。
2018年に登場したポルシェ初のEV、タイカンは「テスラ モデルS」を強く意識し、「911 GT3」に匹敵する運動性能を実現して世を驚かせた。しかし、ポルシェというブランドにとって“速いEV”であるだけでは十分ではなかった。今回のカイエンEVは、独自のプラットフォームを土台にすることで、単なる加速性能を超えた「最上級の乗り心地」と「知的なシャシー制御」の両立を目指している。
EVの本質的な弱点「熱」を技術で封じ込めるべく

カイエンEVには「エレクトリック」と「エレクトリック ターボ」の2モデル用意されるが、そのスペックは凄まじい。トップグレードのターボはシステム出力857PS、フルブースト時にはなんと1156PSを叩き出す。0-100km/h加速は2.5秒。油断すれば鞭打ちになりそうなほどの衝撃的な加速だ。
だが、このハイパフォーマンスを維持する上で最大の壁となるのが「熱」だ。電気工学の常識として、大電流を流せば流すほど熱が発生し、それはバッテリーやモーターの性能低下を招く。ポルシェはこのEVの本質的な課題に対し、正面から技術で回答を出した。
113kWhの大容量バッテリーは、セルの上下から冷却するモジュール構造を採用し、温度ムラを徹底的に抑制。直接計測できないセル内部の化学反応状態を周辺データから推測する高度なマネジメントを導入した。また、モーターの冷却にはフォーミュラE由来の油冷方式を採用している。
ユニークなのはラジエターファンの配置だ。従来の“吸い込み式”ではなく、電動ファンで空気を“押し込む”方式を採ることで、低速域から高速域まで最適な温度管理を可能にした。もはや冷却は単なる熱対策ではなく、空力マネジメントと統合された“機能パーツ”へと進化しているのだ。
電力を「走りの質」に転換するアクティブ・ライド

もうひとつの目玉は、ポルシェ・アクティブ・ライド(セミアクティブ・サスペンション)だ。従来のエアサスペンションとPASM(可変ダンパー)の組み合わせをベースにしつつ、高電圧バッテリーから直接電力を供給し、ダンパー内に設置されたポンプがミリ秒単位で高圧オイルを制御する。
このシステムの凄みは、車体の姿勢を常にフラットに保つだけでなく、コーナリング中に意図的に内側へ車体を傾ける「ネガティブ・ロール」すら物理的に可能にしている点だ。試乗ではあえて極端な挙動は抑えられていたが、そのフラットな姿勢維持能力は、重量級のSUVであることを忘れさせる。4WS(後輪操舵)やPSM(ポルシェ・スタビリティ・マネージメント)とも連携するこの統合制御は、豊富な電力を持つEVだからこそ到達できた新領域と言えるだろう。
ポルシェの決意表明

カイエンEVは、単なる“電気版”カイエンではない。内燃機関では到達できなかった物理限界の突破を、電気とソフトウェアの力で実現しようとするポルシェの決意表明なのだ。日本上陸の折には、その緻密な制御が日本の道でどう振る舞うのか、さらに深く掘り下げてみたい。

