McLaren Solus GT

久しぶりに乗るセンターポジションのマクラーレン

V10エンジンは自然吸気で10000rpmを実現し、パワーは840PS。カム駆動にはチェーンではなくギヤ式を採用している。トランスミッションは7速シーケンシャルを組み合わせる。
V10エンジンは自然吸気で10000rpmを実現し、パワーは840PS。カム駆動にはチェーンではなくギヤ式を採用している。トランスミッションは7速シーケンシャルを組み合わせる。

確か1998年だったと記憶しているが「マクラーレンF1 GTR」で鈴鹿1000kmレースに参戦して、総合2位を獲得したことがある。マクラーレンF1 GTRは当時のGTカーの中でも特別な存在であったが、とにかくその扱いやすさが印象的だった。シートがセンターに位置しているから、フォーミュラカー出身の私にとっては、とても自然なドライビングポジションを取れたのだ。

そして今回久しぶりに“センターポジション”のマクラーレンに乗ることになった。それがソーラスGTである。なんと世界に25台しか存在しないという、サーキット専用のスペシャルマシンだ。重量はドライバー込みでわずか1000kgだが、パワーは840PS。そのスペックを聞くだけで楽しみになってくる。実はソーラスGTのオーナー様からシェイクダウンのご指名を受けて、鈴鹿サーキットで初ドライブを行うことになったのだ。とても光栄なのだがその一方で緊張感もすごい。前夜は緊張でよく眠れなかったくらいだ。

まるで戦闘機のようなボディはダウンフォース1200kg

バーチャルマシンを実車化しただけあって、未来的なヴィジュアルのソーラスGT。一般公道の走行はできない。
バーチャルマシンを実車化しただけあって、未来的なヴィジュアルのソーラスGT。一般公道の走行はできない。

鈴鹿サーキットのピットで対面したソーラスGT、その第一印象はクルマというより戦闘機、という感じだ。コクピットもまるで戦闘機のキャノピーのように前にスライドして乗り込むというスタイルなのである。そして特徴的なのはエアロパーツ。パーツというよりも曲面主体で構成されるボディは全体が巨大なウイングのようで、見るからに大きなダウンフォースが発生しそうなボディデザインだ。聞くとダウンフォースは1200kg(!)だという。自らの重量よりも大きなダウンフォースを発生させるのだ。

このようなマシンになると“シート合わせ”が大事だ。ポジションを決めると、それがまさにGTカーではなく100%フォーミュラカーのポジションであることがわかった。ステアリングの位置、ペダル位置などを自分のベストポジションにアジャストすると、マクラーレンのF1マシンに収まったような気分になる。カーボンが丸見えのタイトなモノコックだからなおさらだ。

ポジションを決めた後は、このシェイクダウンのためにイギリスから来日しているマクラーレンのスタッフからコクピットドリルを受ける。スイッチ類やボタン類はロードカーのマクラーレンとイメージが似ているので使いやすい。そしてちゃんとエアコンも装備されている。「ドライバーが快適なクルマは速いドライビングが行える」というのはいつも私が考えていることだが、ソーラスGTにはそれが当てはまるようだ。

史上最高レベルのV10エンジン

マクラーレンが25台限定で販売したハイパーカー、ソーラスGTには5.2リッターのV10が搭載されている。そのフィールを田中哲也が確かめる。
840PSもあるが、スロットルワークが過敏すぎないので、扱いやすいと田中哲也氏は語る。

かなり緊張感を持ちながらスタートしたのだが、1コーナーに差し掛かる頃に緊張感は消えた。それはステアリングやリヤ周りから、グリップ感やクルマ挙動などのインフォメーションが確実に伝わってくること、そしてエンジンのピーキーさを感じなかったからだ。タイヤを温めながらペースを上げていくと、10000rpmがレブリミットのV10エンジンが気持ち良く回転を上げていく。7000rpmから10000rpmまでの超高回転域でのパワフルさと透き通ったスムーズ感、そして高揚感はレーシングV10エンジンでしか味わえないレベルの素晴らしさだ。もし10000rpmのリミッターがなければどこまで回るのか、と思わせるこの感覚は、かつてドライブした2003年のフェラーリF1のV10と、1992年にテストしていたトヨタのグループCカーのV10エンジン以来だ。感動、という表現が相応しい最高レベルのV10エンジンだと思う。

それでいて扱いやすいのもこのV10エンジンの美点だ。840PSを扱いやすいと言うと誤解を招きそうだが、スロットルワークに対して過敏過ぎないセッティングなのである。それによってコーナー出口でのリヤスライドの心配がかなり減少される。

また、マシンの軽さとダウンフォースの強さも感じられる。この2つの要素はコーナリングやブレーキングに大きく影響するのだが、ソーラスGTはいずれもフォーミュラカーのようだ。毎ラップごとに自分なりにペースを上げていったのだが、特にダウンフォースは「余っている」と感じるほどで、アンダーステアもオーバーステアも発生することはない。貴重なマシンなので絶対ミスのないよう、気持ちを抑えて慎重に走行したこともあるが、完全にグリップの範囲内で走ることができた。そんな慎重な走行でも2分を余裕で切ったのだから、全開で走ったら一体どれくらいのタイムが出るのか?

パワー、エンジン特性、ドライバビリティ、そしてサウンド。すべてにおいて感動的なレベルを見せてくれたソーラスGT。もともとマクラーレンのスーパースポーツカーはレーシングマシンのノウハウが込められているが、ソーラスGTはその究極の形だと言えるだろう。

マクラーレンが25台限定で販売したハイパーカー、ソーラスGTには5.2リッターのV10が搭載されている。そのフィールを田中哲也が確かめる。
レヴリミット10000rpmのV10は高回転で澄んだ音を響かせる。

REPORT/田中哲也(Tetsuya TANAKA)
PHOTO/マクラーレン大阪(OSAKA McLaren)

マクラーレンがごく少数だけ生産したハイパーカー、Solus GT(ソーラスGT)。

「乗り降り大変」往年のF1マシンを彷彿させるハイパーカー「マクラーレン ソーラスGT」

マクラーレンがごく少数だけ生産したハイパーカー、Solus GT(ソーラスGT)が初めて日本でその走りを披露した。840PS、1000kg以下というシングルシーターはまるでF1マシン、いや、それ以上のパフォーマンスを我々に見せてくれた。(GENROQ 2025年1月号より転載・再構成)