Aston Martin DB12
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Aston Martin Vanquish

獰猛なスーパースポーツ、ヴァンキッシュ

アストンマーティンのラインナップの頂点に君臨する12気筒搭載のスーパースポーツ「ヴァンキッシュ」。その走りは刺激的ながら、大人びた印象を持つ稀有なモデルだ。
アストンマーティンのラインナップの頂点に君臨する12気筒搭載のスーパースポーツ「ヴァンキッシュ」。その走りは刺激的ながら、大人びた印象を持つ稀有なモデルだ。

創業から110年余の時を経ながら、幾度もの転換期を経験してきたアストンマーティン。中でも、現在へと続く彼らのビジネスの礎を築いたのは第2次大戦終了後の1947年、実業家のデビッド・ブラウンによる会社の買収だろう。

レース活動を含めての市販車販売を大前提としたブランディングはさておき、メディアを通じたマーケティングは余りに有名な一例となった。ある意味、現代的なビジネスの才覚が、自らのイニシャルである「DB」が冠された数々のモデルを生み出す契機にも繋がったわけだ。

その後も折につけ流転の日々は続くことになるわけだが、今や故人であるDBのイニシャルは常にアストンマーティンのプロダクトを代弁するものとして語り継がれてきた。

スタイリッシュ過ぎる、DB12クーペ

アストンマーティンを代表するV8搭載のグランドツーリング・スポーツカー「DB12」。ジェントルな大人にこそ似合う、スタイリッシュなモデルだ。
アストンマーティンを代表するV8搭載のグランドツーリング・スポーツカー「DB12」。ジェントルな大人にこそ似合う、スタイリッシュなモデルだ。

一方で、21世紀のアストンマーティンの方向性を示すアイコンとして2001年に投入されたのが「ヴァンキッシュ」だ。その意が征服と聞けば強すぎるほどの志を感じるが、実際にヴァンキッシュは歴代最強のアウトプットと前衛的なエンジニアリングを携え、スーパースポーツのカテゴリーで確たる地位を築いた。以降に登場したDB9やヴァンテージといったモデルたちは、見た目にしても中身にしても何かしらヴァンキッシュの韻を踏んでいる。外だけではなく内に向けても道標の役割を果たしてきた、そんな存在といえるだろう。

そんなヴァンキッシュが6年ぶりの復活を発表したのは2024年秋の話だ。3代目となるそのモデルは、通常販売の体をとりつつも、年間1000台以下の台数規模で生産される。いよいよデリバリーが始まったそのモデルは、果たして現在のアストンマーティンの中でどういうスタンスを示すものなのか。先だって日本上陸を果たし1年余となるDB12と共に、各々のキャラクターを探ってみた。

2023年の半ばに発表されたDB12の立ち位置は、アストンマーティン自らが「新世代の幕開け」と説いている。デザイン面では斬新さよりもオーセンティックさが全面に押し出されたことに加え、新しいインフォテインメントを内包したインテリアはクオリティが大きく改善されるなど、傍目には正統な進化に伺えるのではないだろうか。

そして2024年の頭には、このDB12をベースとして100mmのショートホイールベース化が施されたシャシーを持つヴァンテージが登場。こちらは従来通り、アストンマーティンのカスタマーレーシングのハブともなる最もスポーティなモデルという位置づけだ。

トップ・オブ・アストンの名に相応しいヴァンキッシュの12気筒エンジン

ヴァンキッシュのディメンジョンはヴァンテージの真逆で、DB12に対して80mmホイールベースが延長されている。これは搭載するエンジンがヴァンキッシュのお約束となる12気筒だから……というだけではない。実際、そのエンジンがヴァンテージにも搭載できることは、前型で登場した限定車のSが証明している。

ヴァンキッシュがロングホイールベース化で狙ったのは搭載性よりもアイコニックな存在感を湛えることだったのではないかと思う。現に80mmの伸ばししろの多くは、前軸とカウルの間に費やされている。フロントノーズに12気筒を収める、その特別な威厳がまさにこの部位の長さに現れているわけだ。それに加えて、もちろん長いエンジンを前軸よりも車体中心側に置きたいという狙いも延伸の背景にはある。

結果的に、ヴァンキッシュはDB12に比べると全長が125mm長くなった。並んでみると明らかに印象が異なるのは、この車体の長さと前述のパッケージングの変更に加えて、リヤ側の造形の違いにある。DB12はファストバックのルーフラインを綺麗に後端へと流してくデザインなのに対して、ヴァンキッシュは後端をスパッと断ち切るコーダトロンカ、英国風に言うところのカムテール的な造形が用いられる。併せて、ウインドウグラフィックも後半部をグッと留めて後軸側を肉厚に力強くみせる形状に改められた。

ジェントルな加速を味わえるDB12のV8ツインターボエンジン

歴史を遡ればDB6のオマージュにもうかがえる、この仕立てによってヴァンキッシュはマッシブな印象を際立てている。対すればDB12はエレガンスを重視した意匠とみることが出来るだろう。ちなみにリヤのトランクスペースはDB12が262L、ヴァンキッシュが248Lとほぼ変わらず。ヴァンキッシュは2シーターとなるが、席背後には手荷物を置くスペースが用意されるなど、実用性に著しい差はみられない。

差を感じないといえば内装の質感や部品の仕上げも然りだ。ダッシュやセンターコンソール周りの意匠はやや異なれど、ウエストミンスター宮殿やエリザベス二世号などにも用いられるスコティッシュレザーの名門、ブリッジ・オブ・ウィアーの設えを愉しむに、両モデルに違いはないといえるだろう。触感だけでなく操作感にも気遣われたスイッチ類も相まって、上質さは期待を超えるレベルに達している。これもまた、新世代のアストンマーティンに共通する特徴といえるだろう。

上質さと品の良さを味わえるヴァンキッシュの室内

一方で、当然ながら大きく異なるのはドライビング・ダイナミクスだ。DB12のパワーユニットはAMGから供給を受けるM177系の4.0リッターV8ツインターボだが、同系ユニットを積む前型のDB11に対しては実に170PS/125Nmもアウトプットを上積みしている。

でも、十二分なその速さ以上に感心させられたのが低回転域のマナーや中高回転域のフィーリングといった気持ちよさの面が確実に前進していることだ。100km/h以下の速度域でも8速がしっかり使えるトルクバンドの広さや、7000rpm付近まできっちり続くパワーの伸びは、GT寄りのスポーツというアストンマーティンのトラッドにピタリと歩を合わせている。

上品なキャラクターを引き立てるDB12のインテリア

ヴァンキッシュの12気筒はDB11の初出時に搭載された5.2リッターV12ツインターボの発展型だが、こちらも回転のフィーリングや質感はさらなる洗練を果たしている。爆発の粒立ちの細かさによる回転の滑らかさはやはりDB12のそれとは一線を画したものだ。さりとてアストンマーティンらしい骨太さもきちんと備わっていると唸らされるのは、元気のいいパルス感を伴った猛々しいサウンドによるところも大きいだろうか。何より速さは数値的な差以上に劇的で、後輪を歪めて身悶えるように弾け飛ぶ全開加速はヴァンキッシュならではの臨場感に溢れている。

アストンマーティンはすべてを速さのために費やすようなスポーツカーの造り方とは常々距離を置いてきた。好事家も唸らせる美しいボディの内に、獰猛さを剥き出しにしたエンジンを収め、ツーリングカーとスーパースポーツの狭間を自在に行き来する。特にRB2型の直6ユニットを手に入れたDB4以来は、そういうクルマ造りを志向してきた。

個性の違いがはっきりと感じられる試乗であった

好事家も唸らせる見事なスタイリッシュなボディに獰猛なエンジンを搭載するアストンマーティンの2モデル。その個性の差は想像以上のものであった。
好事家も唸らせる見事なスタイリッシュなボディに獰猛なエンジンを搭載するアストンマーティンの2モデル。その個性の差は想像以上のものであった。

ヴァルキリーやヴァルハラのようなアルティメイト系を別腹で用意する現在も、DB12やヴァンキッシュに宿る意思はそこにある。エレガンスとエモーション、2つのEをどう配分するかによって両車の個性の差分が絶妙に描き出されている、その棲み分ける自信こそがブランドの強さということになるだろう。

REPORT/渡辺敏史(Toshifumi WATANABE)
PHOTO/佐藤亮太(Ryota SATO)
MAGAZINE/GENROQ 2025年9月号

SPECIFICATIONS

アストンマーティン・ヴァンキッシュ

ボディサイズ:全長4850 全幅1980 全高1290mm
ホイールベース:2885mm
車両重量:1910kg
エンジンタイプ:V型12気筒DOHCツインターボ
総排気量:5204cc
最高出力:614kW(835PS)/6500rpm
最大トルク:1000Nm(102kgm)/2500-5000rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:RWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前275/35ZR21 後325/30ZR21
0-100km/h加速:3.3秒
最高速度:344km/h
車両本体価格:5290万円

アストンマーティンDB12

ボディサイズ:全長4725 全幅1980 全高1295mm
ホイールベース:2805mm
車両重量:1685kg
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3982cc
最高出力:400kW(585PS)/6000rpm
最大トルク:800Nm(81.6kgm)/2750-6000rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:RWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前275/35ZR21 後325/30ZR21
0-100km/h加速:3.6秒
最高速度:325km/h
車両本体価格:3090万円

【問い合わせ】
アストンマーティン・ジャパン・リミテッド
TEL 03-5797-7281
https://www.astonmartin.com/ja

【車両協力(ヴァンキッシュ)】
アストンマーティン銀座
TEL 03-5220-7007
https://www.graz-ginza.jp