■誰にも知られず、見られもしない、給油口にある安全対策
いまやセルフ式給油のほうが主流になっているといっていいほど、セルフスタンドが広まった。
時期は忘れたが、規制緩和によってドライバーが自分で給油するセルフスタンドがあるときから増えた。
セルフ派のひとならわかると思うが、自分で開けた給油口に給油ノズルを差し込むまで、いくつかの「儀式」がある。
油種を選んで油量を選んでお金を入れて・・・
1.給油機横の操作画面で燃料種類を選ぶ。
2.油種、給油量などを選択する。
3.お金を入れる。
4.引っ掛けてある給油ノズル付近にある静電気除去プレートに触れる。
5.ノズルをつかんで給油。
その店舗が後払い式なら油種や給油量セレクトのあと、直接給油に移るなど、場所によって多少手順が変わってくるだろうが、まあ全体的にはこのようなものだ。
●最悪の場合、火柱も・・・
石油会社に勤めている友人に聞いた話。
セルフスタンドであれ有人スタンドであれ(セルフスタンドにも実際には従業員のひとがいるが)、店舗建屋、給油機、洗車機、喫煙所、ピットなど、各スタンドとも配置がさまざまだが、実はこれらの配置は消防法によって決められているという。
火気厳禁のものを扱う場所のことだ、「これとこれは何メートル以上離して配置しなければならない。」という類の取り決めがあることはおおよそ想像がつく。
だから敷地が狭いとか、狭い上に土地の形がいびつなんていう場所は、全体のレイアウトに苦労するのだそうな。
もうひとつ、給油中は「携帯電話の使用」も禁止だと。いまならスマートホンも含むだろう。
「揮発しているガソリンが電磁波によって発火する恐れがあるから」だという。
ところで・・・
ずっとまえ・・・時期としては、2001~2002年頃だったろうか。
セルフスタンドで給油しようとクルマの給油口にノズルを近づけたとたん、静電気の影響で火柱が発生したという火災未遂事件が話題になったことがあった。給油中、何かの拍子に「パチッ!」となり、ガソリンの揮発成分と瞬時に反応して火柱が発生したのだろう。
ドライバーがつかむノズル&クルマの給油口付近から立つ火柱を捉えた監視カメラの映像写真が「フライデー」だったか「フォーカス」だったかの写真週刊誌に載っていたのを見た記憶もある。
余談だが、ちょうどその頃、ガソリンより安価な「ガイアックス」に端を発し、アルコール系燃料の注入によるクルマの燃料系の腐食がちょっとした社会問題になった。車両の取扱説明書に「指定以外の燃料は入れないでください」のほかに「アルコール系の燃料を入れるとエンジンや燃料系に悪影響が・・・」と記されるようになったのもこの頃からだ。
見落としそうになることもある静電気除去プレート。
アルコール系燃料の話はともかく、その静電気である。
給油時、いくら給油口にノズルの先を奥深く突っ込んだところで敵はガソリンのこと、ノズル&パイプ間のすり抜けによる揮発成分の車外放出はどうしたって避けられない。
その揮発成分と、帯電した身体が車体にちょっと触れただけで「ウワォウッ!」とついアメリカンな声を挙げてしまうほどの静電気とが鉢合わせしたら、そりゃあ火柱の1本や2本おっ立ちもするだろう。
だからこそセルフスタンドは、上記に掲げた「儀式」の「4.引っ掛けてある給油ノズル付近にある静電気除去プレートに触れる」ことを求めているのだ。
●クルマに施された静電気対策
私はセルフスタンド派。
とにかく私もセルフ給油するときは静電気除去プレートに触れるようにしている。
以前は意識していなかったので触れないこともあったが、いまは必ずタッチしている。
さて、スタンドは静電気除去プレートを設置しているが、クルマ側には対策が施されていないのだろうか。
実はある。あるのです。
ただ、もしあなたがセルフ派で、給油口を普段目にしてはいてもさすがに意識はしていないと思う。
というわけで、あなたがもしこの記事をスマートホンで読んでおり、スタンド以外の場所にいるなら、ご自分のクルマをあらためて確かめてみてほしい。給油口リッドを開けて現れるキャップの周りに樹脂プレートがついていたら、それは静電気対策の樹脂プレートだ。
ノズルとボディ、金属同士の接触で、火災の引き金になりかねない静電気が生じないようにするためのもの。
数台のクルマを例に、給油キャップまわりの写真を用意したのでお見せしよう。
それぞれ2代目プリウス(2008年型)、3代目キューブ(2012年型)の給油口だが、キャップ&パイプまわりを樹脂プレートで覆い、鉄板むき出しを避けている。
2代目プリウス(2008年型)の給油リッドを開けたところ。
キャップを外すとわかりやすいか。
この赤線で囲まれた部品だ。
こちら3代目キューブ(2012年型)の給油キャップを外したところ。パイプ外周を樹脂が取り囲んでいる。
キャップを外す前はこのような姿。
わが戦闘機・旧ジムニーシエラ(2018年型)の給油口は、キャップまわりが鉄むき出しだ。
給油時は要注意!
そのいっぽう、現行ジムニーは確認していないが、私が2018年3月から使っている先代ジムニーシエラにはついていない。
さすがはコスト至上主義のスズキ!
そのすがすがしさが素敵だ。
また、例外はあるだろうが、荷台下に燃料タンクまる見え、そのタンクから伸び出たホース先の給油口も荷台下から顔を出すトラックなどは、その構造上、対策はされていないと思う。
カローラクロス(2021年型)。
樹脂がある。
しかし2024年のこと、全部を調べたわけではないが、いまどきの一般的な乗用車ならまずまちがいなく対策されていると思っていいだろう。
旧N-BOX(2022年型)だが・・・
ちゃんと樹脂がある。
エクストレイル(2022年型)。
ふたを開けた向こうがすべて樹脂。キャップはなく、ノズルを強く押し込むことでバルブが向こう側に押され、給油するというスタイルだ。
●むかしのクルマはどうなのか? マニアック・旧車の給油口博物館
この給油口の静電気対策、SUBARUアイサイトの歴史をイチから調べたことはあっても、さすがに給油口の歴史は調べたことがないので、いつ頃から始まったものなのかはわからないが、とにかく下に掲げるような、現在旧車と呼ばれているような年代のクルマにはついていないことは確かである。
まずはごらんあれ。
給油口博物館にようこそ。最初は初代サニー(1966年)。
案の定、キャップがあるだけだ。昔のキャップはいまの樹脂製と異なり、金属製だった。
お次はダットサン・ブルーバード510(写真は1970年型)。
周囲に何か見えるが金属製で、静電気対策ではないように思う。
初代シビック1973年型。
何も施されていない。
続いて、ケンとメリーのスカイライン(1975年型)。
ボディ左サイドの装飾されたふたがメッキされた樹脂の給油リッドになっている。
何やら黒い何かが見えるが、これはおそらく静電気対策ではなく、ふたが樹脂であることへの何らかの対応だと思う。
反対側(=右側)は装飾された、室内気の排気ダクトになっている。
同じスカイラインでも2世代後のR30型スカイラインRS・2ドアハードトップ(1983年型)。
鉄まる出しだ。
同じ年式のR30の4ドアセダン。
ドア数が変わっても給油口の姿は変わらない(あたり前だ)。
ここからはいまは絶対に見ないタイプの給油口を、こんどは遡る形でお見せする。
ここからは、いまは見かけないタイプを。
売る気で造ったものの、結局は売られることがなかった、幻のスーパーカー、童夢零!(1978年)
リヤ全体がエンジンルームになっているそのふたを開けた左側に、上向きの給油キャップがある。
続いては、トヨタさんちのセリカちゃん(1970年型)。
何と給油口は、後ろのナンバープレートの裏に!
パイプはトランク内を通過して荷室フロア下のタンクに至る。1973年のマイナーチェンジ時にタンクはリヤシート背後に引っ越した。
次も同じトヨタのトヨタ000GT(1968年型)。
トヨタ2000GTはリヤサイド上向きに。さきのケンメリの次のスカイライン(ジャパンのC210)もトランクリッド左ヒンジ部に上向きに設置され、雨の日の給油では雨が入りがちになって困ったらしい。たぶん2000GTも同じだ。
リヤハッチゲート左側にある。
次に待つのは初代カローラ(1966年)。
見た目はふつうの四角いリッドだが、上に開くのがだまし討ち。
昭和33(1958)年3月3日という、うそみたいなほんとの日に発売されたスバル360(写真は「増加試作型」と呼ばれるプロトタイプ)。
給油口はリヤガラス中央下に。
初期型はメーターに燃料計がなく、燃料残量は、運転席シート下に収容された「残量ゲージ棒」を指して確認した。棒の濡れた部分の長さで残量を知る寸法だ。
スバル360のメーター。空冷エンジンなので水温計がないのは当然だが、前述の方法で燃料残量を測るので、燃料計もない。
しんがりは初代クラウン!(1955年型)。
給油キャップは上向きにあり、ノズルを上から挿して給油する。このクラウンはすげえぞ! だってその場所は・・・
何とトランクフロアなのだ! マットをめくり、丸いふたを開けるとタンクキャップがご登場。給油時は荷物を全部出さなきゃ。給油口は1958年のマイナーチェンジで左テールランプ裏に移動。2~4代目クラウンでは左右ランプの間に設置。ボディサイドに設けられたのは5代め以降。
古い時代のクルマはなぜ静電気対策がないのか?
想像だが、これら旧車が新車として売られていた頃はセルフスタンドがなく、給油は危険物の正しい扱い方を熟知している従業員が行っていたため、静電気だの火柱だのは問題にならなかったからなのではないだろうか。問題にならなければ対策するという発想にはならない。
新車であれ旧車であれ、セルフ給油時は、冒頭の「儀式」を行っていればまず何事も起きないと思うが、静電気対策が施されていない旧車乗りのひとは、静電気がときに大事を引き起こす可能性があることは認識しておくほうがいい。
・・・・・・・・・・。
何だか旧車の給油口博物館みたいになってしまった。
誰が見るんだ、こんなもん。
●最後に
というわけで、くれぐれもガソリンスタンドでは静電気にお気を付けくださいますよう。
もうひとついうと、ガソリン揮発成分は空気より重いので、空気中を浮遊するというよりは地面付近に溜まる。
店舗入口を見てみよう。どこのスタンドも入口が1段高くなっているでしょ? これは地面側に滞留した揮発成分の、店舗への侵入を防ぐためなのです。
体質や、服装とクルマの内装材との相性にもよるが、できれば頭の先から足の先まで、静電気が生じないスタイルでの給油が望ましい。
と、ここでおしまいにしようとしたところ・・・
冒頭で述べた、給油中の携帯電話使用禁止の理由(電磁波)は、今回の記事のためにあらためて友人に聞いたものだが、その友人から続報が来たのでお伝えしよう。
スタンドは、静電気除去プレートのほかに「静電気対策として、乾燥する冬場は水を撒く」のだと。
友人の石油会社では、アルバイト採用の条件のひとつに、「入社から1年半以内の乙4種資格取得の意志があること」が入っているという。
冬場の散水は迷惑と受け取められかねないが、「試験合格に向けての勉強で静電気の怖さと防止策の理解を深めることで、散水の意図をお客様に明確に伝えられる」ようにすることがねらいらしい。
したがって、その意思がないひとは採用しないという。
だから、冬場の散水後のスタンドですべって転び、「転んじまったじゃねえかっ!」とクレームをつけるのはお門違い。すべては安全のためなのです。
転んだひとは次に来たときにすっ転ばないよう、溝のある新しい靴を買いましょう。
いまやセルフ式給油のほうが主流になっているといっていいほど、セルフスタンドが広まった。
油種を選んで油量を選んでお金を入れて・・・
見落としそうになることもある静電気除去プレート。
2代目プリウス(2008年型)の給油リッドを開けたところ。
キャップを外すとわかりやすいか。
こちら3代目キューブ(2012年型)の給油キャップを外したところ。パイプ外周を樹脂が取り囲んでいる。
キャップを外す前はこのような姿。
わが戦闘機・旧ジムニーシエラ(2018年型)の給油口は、キャップまわりが鉄むき出しだ。
給油時は要注意!
カローラクロス(2021年型)。
樹脂がある。
旧N-BOX(2022年型)だが・・・
ちゃんと樹脂がある。
エクストレイル(2022年型)。
ふたを開けた向こうがすべて樹脂。キャップはなく、ノズルを強く押し込むことでバルブが向こう側に押され、給油するというスタイルだ。
給油口博物館にようこそ。最初は初代サニー(1966年)。
案の定、キャップがあるだけだ。昔のキャップはいまの樹脂製と異なり、金属製だった。
お次はダットサン・ブルーバード510(写真は1970年型)。
周囲に何か見えるが金属製で、静電気対策ではないように思う。
初代シビック1973年型。
何も施されていない。
続いて、ケンとメリーのスカイライン(1975年型)。
ボディ左サイドの装飾されたふたがメッキされた樹脂の給油リッドになっている。
何やら黒い何かが見えるが、これはおそらく静電気対策ではなく、ふたが樹脂であることへの何らかの対応だと思う。
反対側(=右側)は装飾された、室内気の排気ダクトになっている。
同じスカイラインでも2世代後のR30型スカイラインRS・2ドアハードトップ(1983年型)。
鉄まる出しだ。
同じ年式のR30の4ドアセダン。
ドア数が変わっても給油口の姿は変わらない(あたり前だ)。
ここからは、いまは見かけないタイプを。 売る気で造ったものの、結局は売られることがなかった、幻のスーパーカー、童夢零!(1978年)
リヤ全体がエンジンルームになっているそのふたを開けた左側に、上向きの給油キャップがある。
続いては、トヨタさんちのセリカちゃん(1970年型)。
何と給油口は、後ろのナンバープレートの裏に!
パイプはトランク内を通過して荷室フロア下のタンクに至る。1973年のマイナーチェンジ時にタンクはリヤシート背後に引っ越した。
次も同じトヨタのトヨタ000GT(1968年型)。
トヨタ2000GTはリヤサイド上向きに。さきのケンメリの次のスカイライン(ジャパンのC210)もトランクリッド左ヒンジ部に上向きに設置され、雨の日の給油では雨が入りがちになって困ったらしい。たぶん2000GTも同じだ。
リヤハッチゲート左側にある。
次に待つのは初代カローラ(1966年)。
見た目はふつうの四角いリッドだが、上に開くのがだまし討ち。
昭和33(1958)年3月3日という、うそみたいなほんとの日に発売されたスバル360(写真は「増加試作型」と呼ばれるプロトタイプ)。
給油口はリヤガラス中央下に。
初期型はメーターに燃料計がなく、燃料残量は、運転席シート下に収容された「残量ゲージ棒」を指して確認した。棒の濡れた部分の長さで残量を知る寸法だ。
スバル360のメーター。空冷エンジンなので水温計がないのは当然だが、前述の方法で燃料残量を測るので、燃料計もない。
ところが後年の改良型になると・・・ (写真は1967年型)
ふたの形も変わり・・・(ふたを開けた写真を撮っていなかったのでキャップ周辺はわかりませんが、たぶん鉄まる出しだと思います。)
メーターには燃料計が備わる。相変わらず空冷エンジンなので、水温計はなし。
しんがりは初代クラウン!(1955年型)。
給油キャップは上向きにあり、ノズルを上から挿して給油する。このクラウンはすげえぞ! だってその場所は・・・
何とトランクフロアなのだ! マットをめくり、丸いふたを開けるとタンクキャップがご登場。給油時は荷物を全部出さなきゃ。給油口は1958年のマイナーチェンジで左テールランプ裏に移動。2~4代目クラウンでは左右ランプの間に設置。ボディサイドに設けられたのは5代め以降。