連載

GENROQ アストンマーティンアーカイブ

DB7 V12Vantage(1999-2003)

さらに高性能を備えたDB7を求める声

1994年にデビューした「DB7」のパフォーマンスとクオリティは十分に満足のいくものであったが、その素性の良さに注目した好事家たちから、さらにその上の性能を備えたDB7を求める声が上がるようになっていた。

その一方で1995年のル・マン24時間にはフランスのミシェル・ホメルがRSウィリアムズに製作させた、AMR1用6.3リッターV8ユニットを搭載した「DB7GT1」がエントリー(結果は予選落ち)したり、アストンマーティン・ワークスがジェントルマン・レーサーを対象としたワンメイクレースマシン「DB7 i6GTコンペティション」プロトタイプを製作したりと、コンペティション・シーンにDB7を送り出そうという動きも見られるようになる。

そんな中で1996年にTWRのトム・ウォーキンショーは、あくまで自分自身のカスタムモデルとして、DB7にジャガーのグループCマシンに使われた6.0リッターV12DOHCエンジンをデチューンした6.4リッターV12を搭載した「DB7 V12」プロトタイプを製作。イアン・カラムがデザインしたエアロパーツを纏ったボディ共々、その完成度は非常に高いものだった。

すべてが新設計のV12エンジンを搭載

結果的にTWRのプロトタイプが生産化されることはなかったが、そもそもXJSのシャシーがV12エンジンの搭載を前提に設計されていたこともあり、アストンマーティンはV12エンジンを搭載したDB7のハイパフォーマンス・バージョンの開発に着手する。

ここで彼らは古いジャガー製V12を使用するのではなく、フォード・リサーチ&ヴィークル・テクノロジー・グループとコスワース・エンジニアリングの協力を得て、新設計の軽合金製5.9リッター60度V12 DOHC 48バルブ・エンジンを作り上げた。その際、フォード・デュラテックV6のピストンやバルブなどを流用したことから、デュラテックを2基繋げたもの……と言われることもあるが、実際にはブロック、シリンダーヘッド、クランクなど、すべてが新設計となっている。そしてこの進歩的な設計が、現在までAML V12エンジンが命脈を保つ原動力となっていることは、特筆に値する。

一方のシャシーもV12の搭載に合わせ大幅に強化。モノチューブダンパーやアンチロールバーなどで強化したサスペンション、ABS付きブレンボ製ベンチレーテッド・ディスクブレーキ、クロスレシオ6速MTもしくは5速ATなど、全面的なアップデートが施されている。

こうして1999年のジュネーブ・ショーで発表されたのが、大型インテーク、ワイドフェンダー、の前後バンパーなどイアン・カラムの手でリファインされたボディをもつ「DB7 V12ヴァンテージ」だ。

総生産台数7000台超のDB7シリーズ

そのパフォーマンスはヴァンテージの名に恥じないもので、最高出力426PS、最大トルク542Nmを発生する5.9リッターV12ユニットは、6速MTを介して0-60mph(0-96km/h)加速4.9秒、最高速度299km/h、5速ATを介して0-60mph加速5.1秒、最高速度266km/hと、スタンダードのDB7から大きく向上。その結果、直6スーパーチャージャーを搭載するDB7の生産は1999年末で終了し「DB7V12ヴァンテージ」「DB7 V12ヴァンテージ・ヴォランテ」が、実質的な後期型DB7として役割を果たすことになった。

その後2000年にはパドルシフトや2種類の走行モードを持つタッチトロニック・システムを備えた5速ATを投入。2002年には排気量はそのままに最高出力を441PSへとアップし、サスペンション、ブレーキなどを強化。さらにエアロダイナミクスにも手を加え、リフト量を削減した「DB7GT」、そのAT仕様で426PSを発生する「DB7GTA」を発売。ファイナルギヤを3.77から4.09へと変更したこともあり、最高速は変わらないものの加速力が大きく向上したのも特徴だった。

結局、2003年までに2091台が販売されたDB7 V12ヴァンテージを含めたDB7シリーズの総生産台数は7000台を超え、アストンマーティンの製造記録を大きく更新することとなった。それはまたアストンマーティンが、フォード体制下で見事な復活劇を遂げた証ともなった。

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