旅行者には高い壁?アメリカEV充電の盲点

前編の最後でも少し触れたが、今回の試乗はロサンゼルスとラスベガスを往復するロングトリップとなった。それで日本にいるうちから事前にどこで充電できそうか下調べしておいたのだが、意外と厄介だとわかったのが決済手段だ。
アメリカの住民であれば、そもそも自宅で普通充電を利用するのが基本であり、外の急速充電器を使う場合でも、スマートフォンに入れたアプリに車両とクレジットカードの情報を紐づけて決済することが可能だ。だが、海外からの旅行者である筆者の場合は、アプリをAppストアからダウンロードすることすらできないことが判明した。
そのため現地に設置されている端末を使ってクレジット決済するほかなく、かつプロローグの充電も可能な公共の充電ステーションということで、その時点で既に「Electrify America(エレクトリファイ・アメリカ)」と「EVgo(イーブイゴー)」の2社に絞られる結果となった。
それで道中のどこに充電ステーションがあるか調べたところ、ロサンゼルスからの中間地点よりは少しラスベガス寄りにある、ベイカーという街にエレクトリファイ・アメリカとEVゴー、両社のステーションがあることが確認できた。ただ、EVゴーは都市部には数多くあるものの、郊外に出るとかなり数が限られてしまい、実際には全米トップクラスのステーション数を誇るエレクトリファイ・アメリカ一択となりそうだということも、その時点で何となくわかってしまった。
高速巡航もストレスなし、トルクフルな加速と安定感

ロサンゼルスに到着し、プロローグと初対面すると、さっそく車載のGoogleマップで目的地検索を開始。ひとまずベイカーのエレクトリファイ・アメリカを設定すると、到着時のバッテリー残量にも問題ないことがわかった。ということで、初めて乗るBEVでカリフォルニアとネバダの2州にまたがる冒険の旅へと繰り出したのである。
明らかに都市型のクロスオーバーSUVに分類されるプロローグは、乗ってみると目線の高さも「ほんの気持ち高い」といった程度。周囲を見下ろすような感覚は薄く、すんなり慣れることができた。Googleが考えたUIも非常にわかりやすく、実用性と最新のBEVに乗っている満足感をいいバランスでまとめてあるところも好印象だ。

ハイウェイに乗り、周囲の走行速度が一気に上がっても、プロローグはトルクフルなモーターの力で瞬時に加速。ストレスなく周りのペースに合わせることができた。アクセルオフ時の減速感を好みで調整できるワンペダル・ドライビング機能も付いているのだが、ノーマルモードでも割と強めの減速感が出る印象。渋滞で細かくペダル操作をしていると盛大にピッチングが発生したため、オフを選択してちょうどいいくらいだった。
Honda SENSINGの各機能も標準装備されており、渋滞時はACCが役に立った。慣れない環境下で自分でアクセル操作するよりは、電費を抑える上でも貢献してくれたと思う。
残りの航続可能距離とバッテリー容量は、メーターおよびセンタータッチスクリーンで常時確認することができる。調子に乗ってスポーツモードで走っていると残り数値がみるみる減っていってしまい、改めてガソリンとは違って減り方が一定ではない電気の特性を実感した。
電欠かハンバーガーか、チャージポイントでの攻防

そんなこんなで、途中に撮影も挟みながら移動を続け、予定していたベイカーの充電ステーションまであと少しというところで、バッテリー残量と航続可能距離を示すインジケータもついに赤色に変化! 残り数マイルしか走れない旨を知らせる表示をヒヤヒヤした気持ちで見ながら、滑り込みセーフでエレクトリファイ・アメリカの充電ステーションへと到着した。
これでようやく充電できると安堵した筆者だったのだが、次の瞬間、耳を疑う言葉を聞くこととなる。同行している平野カメラマンが、「もう少し先にある別の充電ステーションまで行こう」というのだ。
なぜそんなことを言い出したかというと、充電中は約30分は時間を潰さなければならないため、だいたいどこのステーションも飲食店やコンビニ、スーパーなどが併設されており、平野カメラマンは移動中にベイカーの飲食事情を下調べしていたのだ。曰く、今いるステーションにあるデイリークイーン(バーガーショップ)より、さらに1.8マイル先のステーションにあるファットバーガーの方がいいと言うのだ。

平野カメラマンは業界では有名な大食漢なのだが、たくさん食べるだけではなく、味にもうるさい。お目当てのファットバーガーとはロサンゼルス発祥の老舗チェーンで、店名からも分かるとおり、アメリカに数あるバーガーチェーンの中でもハイカロリーなことで有名。パティがとても肉肉しく、しかも枚数を好みで増やすことができるところが平野カメラマン好みなのだ。
だが、問題は新たに目指そうとしている充電ステーションが、「ChargePoint(チャージポイント)」だということ。チャージポイントはエレクトリファイ・アメリカを上回る全米最大規模の充電インフラを供給する企業だが、いかんせん下調べした限りにおいては、我々の条件では現地決済も充電もできそうにないことがわかっていた。
まさかアメリカの荒野で電欠するかもしれないリスクと、デイリークイーンよりファットバーガーに行きたいという願望を天秤にかけることになるとは想像だにしていなかったのだが、計算上は行ってダメなら戻ってくることも可能な距離。万が一にもチャージポイントで充電できた場合は、その後の選択肢が格段に増えて旅も楽になるため、仕方なく平野カメラマンの願望を叶えることにしたのである。
で、結局チャージポイントではやはり充電できないことが秒で分かったので、即エレクトリファイ・アメリカへと引き返して充電。今になって考えるとファットバーガーでテイクアウトしてから戻っても良かったのだが、その時は切羽詰まっていて冷静な判断がつかず、結局デイリークイーンのバーガーを頬張る結果となった。

その後も、夜中ベガスの街中にあるショッピングモールのステーションで順番待ちをしていたところ、ステーションもろともモール全体が停電するという大トラブルにも遭遇! もはや笑うしかないほどの悲壮感に襲われるなど、何かと余談の多い旅だったのだが、いい加減、話をプロローグに戻そう。
「プロローグ」はEV普及の第一章としてふさわしい存在だった

プロローグの後にも続くはずだったホンダとGMのEV共同開発は残念ながら頓挫してしまったが、プロローグはホンダがカーボンニュートラル実現に向けた「序章」と位置付けたモデルだけあって、パッケージング、機能性、価格などのバランスはよく取れていると思う。もし自分がアメリカに住んでいて、BEVを買おうと思ったとしたら、十分に現実的な候補として検討するはずだ。
また、ホンダはBMW、GM、ヒョンデ、メルセデス・ベンツ、キア、ステランティスと合弁を組み、「IONNA(イオンナ)」という充電ステーションを北米全域に拡充していく予定だ。アメリカのBEVオーナーには朗報でしかなく、これからBEVを購入する人にとっても安心材料となるに違いない。
今後もBEVが普及していくにあたってはハードウェア(特にバッテリー)の進化だけでなく、急速充電インフラの拡充も、メーカーが主導する形で両輪として進めていかざるを得ないだろう。その点では、イオンナ然り、CCS-NACSアダプターを使った事実上の充電規格統一も然り、ユーザー体験を向上する施策は一歩一歩進んでいる印象だ。
アメリカでも急速充電は意外と高い。ガソリン代と比較して見えた現実

ただ、もうひとつ今回のロングドライブで知った現実として、意外と急速充電器の電気代が安くないという事実も取り上げておきたい。
ラスベガスの街中にあった充電ステーションの単価は、1kWh当たり0.48ドル。プロローグの平均電費計には1kWh当たり3マイル走れると表示されていたので、仮に85kWhの電力を全部使い切ったと仮定すると255マイル(約410km)走行することができる。それにかかる電気代は85(kWh)に0.48ドルを掛けて40.8ドルだ。
その近所にあったガソリンスタンドのレギュラーガソリンの単価は、1ガロン当たり3.89ドル。以前レポートしたパイロットの燃費は19.1mpgだったので、255マイル走るには13.35ガロンのガソリンが必要となり、燃料代は51.9ドルとなる。
一見すると電気代の方が安く思えるが、実はベイカーにあった充電ステーションの単価は1kWh当たり0.64ドルと、もう少し高かった。同じ計算をすると電気代は54.4ドルとなり、パイロットのガソリン代を上回ってしまう。

しかも255マイル走るのにプロローグはバッテリー容量を全部使い切ってしまうが、パイロットのガソリンタンク容量は18.5ガロンなので、まだ余裕が残っているのだ。
ただし、アメリカに居住している人であれば自宅の普通充電を利用するだろうから、その場合の電気代は平均して1kWh当たり0.15ドルと格安だ。また、急速充電器もアプリを使えば会員価格で支払えるので、もう少し条件はいいはずである。もちろんガソリンの単価だって場所や時期に応じて変動することは言うまでもないだろう。
もっと燃費のいいガソリン車と比較することもできるので、結局は前提条件次第なのだが、少なくとも急速充電器頼りでBEVを運用していくのは、アメリカであれ経済的とは言えないし、精神衛生上もよろしくないということだけは、よ〜く理解できた。

繰り返しになるが、プロローグはホンダらしいデザイン、乗り心地の良さとSUVとしての実用性の高さ、現実的な価格帯とをバランスさせた、まとまりのいいBEVだと思う。現実にロサンゼルスとラスベガス、日本で言えば東京と京都くらいの距離感でも無事に旅を終えられたことで信頼感も高まった。
日本に導入される可能性は極めて低いと思われるが、日本のBEV市場も、もっとこうした選択肢が広がっていくことを願うばかりである。
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