モデル末期の今こそ“熟成の極み”か? 現行CX-5に乗る価値を検証

マツダCX-5 XDフィールドジャーニー(4WD)

セダンやハッチバックが日増しにSUVへ取って代わられる中で、その中核を占めるCセグメントのSUVは、数多くのブランドが主力モデルを投入する、非常に競争の激しいセグメントとなっている。

その中でも、日本国内では2017年2月に発売された2代目マツダCX-5は、8年間にわたるモデルライフの中で、比較的堅調な販売を続けてきたと言えるだろう。

【CX-5の暦年販売台数・国産登録車順位】
2017年…4万1622台・26位
2018年…3万8290台・27位
2019年…3万1538台・29位
2020年…2万4222台・30位
2021年…2万2431台・28位
2022年…3万1399台・21位
2023年…2万5714台・28位
2024年…1万9418台・34位
*日本自動車販売協会連合会「乗用車ブランド通称名別順位」より。上記台数には初代も含まれている可能性がある。

2017年2月発表当時の現行2代目マツダCX-5

なお、モデルライフ中盤の2021年11月には、デザイン変更を含む大幅改良を実施。その効果もあってか、まだコロナ禍中にもかかわらず、2022年には販売台数を回復させることに成功した。

そうした結果、2022年にはマツダのグローバル販売台数の1/3を占めるまでに成長したが、寄る年波には勝てず。競合他社のニューモデル投入やフルモデルチェンジ、さらには2023年9月の一部商品改良時に値上げやモデルラインアップの整理を行ったことも影響してか、販売台数は再び下落に転じている。

そして近々、3代目となる新型CX-5がデビューすると、マツダから公式発表された。

アウトドア仕様「フィールドジャーニー」の質感と装備は価格以上

こうして世代交代の時を迎えた2代目CX-5の中で今回は、SH-VPTS型2.2L直4ディーゼルターボエンジン「スカイアクティブD 2.2」を搭載した「XD」をベースに、オールシーズンタイヤを標準装備し、ドライブモードに「オフロード・モード」を実装するなどアウトドア向けに仕立てた「フィールドジャーニー」を、チェックしていきたいと思う。

今回テストした車両は、メーカーオプションの電動スライドガラスサンルーフ(8万8000円)とボーズサウンドシステム(8万2500円)を装着した、ディーラーオプション別で計400万9500円の仕様となっていたが、内外装の質感はその値段相応以上と言っていいだろう。

だが、ことエクステリアに関しては、前述の大幅改良前の方が、高級感とスポーティさを上手く両立できていた。バンパーやグリルの造形は大幅改良後の方がシンプルかつ上質で好感が持てるものの、最も目を引く前後ランプは対照的にデザイン要素が増え、子どもくささを強く印象づけるようになったのは、残念でならない。

全長×全幅×全高:4575×1845×1690mm ホイールベース:2700mm トレッド前後:1595mm

一方でインテリアは、デビュー当初より大きな変更が加えられることなくモデル末期を迎えた。それは「良いものは無理に変える必要はない」のだと、むしろ好意的に捉えることができる。

それは、ソフトパッドや加飾パネルを上側に、ハードパッドを下側に配置したインパネやドアトリム、センターコンソールなどの見た目・手触り品質だけではない。グリップが細く握りやすい真円形の本革巻きステアリング、P-R-N-Dレンジが一直線に配置されたATシフトレバー、アナログスイッチを敢えて多めに残したエアコンやインフォテインメント、ADAS(先進運転支援システム)の操作系といった、機能面もまた同様だ。

奇をてらったところがなくオーソドックスな造形ながら上質かつ機能的な運転席まわり

とりわけATシフトレバーは、MX-30以降の各モデルに採用されている、右上が「P」で「R-N-D」が左側に配置されるタイプに変更されず良かったと安堵している。というのも、MX-30以降のものは、駐車時に「P」レンジへ入れたつもりが「R」レンジで止めてしまう誤操作を起こしやすく、その状態でブレーキペダルを離せば予期せぬ後退で事故を起こすリスクが非常に高いからだ。マツダは早急にこのタイプのシフトレバーを全車で廃止してほしいと、心の底から願わずにはいられない。

CX-5のストレート式ATシフトレバー
MX-30ロータリーEVの逆L字式ATシフトレバー

操作系の弱点は“メーター類”。情報過多で視認性に難ありか?

だが、CX-5にも欠点がないわけではない。アナログ指針のメーターには線の細い書体が使われているうえ、狭いスペースに多くの情報を詰め込みすぎている。しかも各情報の重み付けが不充分なため、運転中に瞬時に情報を読み取るのが非常に困難だ。これは、CX-60&80のフルデジタルメーター仕様でも若干改善された程度なので、車種横断的な抜本的改善を強く望みたい。

メーターパネルは視認性が良いとは言えない部分もある

フロントシートは近年のマツダ車全車種を通じて座面が若干短く、下半身の収まりが悪い傾向にあるものの、2021年11月の大幅改良時にシート形状が変更されたことで、幾分改善された模様。後席はヒール段差が360mmと大きく取られているため下半身の収まりが良く、背もたれは前席以上に充実したサイズ。また頭上、膝回りとも、身長174cm・座高90cmの筆者が座っても15cm以上の余裕があり、前席よりもむしろ快適に過ごすことができそうだ。

フロントシートは座面が若干短いもののサイドサポートは強め。「フィールドジャーニー」はブラックの合皮を採用
後席はシートサイズ、空間とも余裕があり、ヒール段差も大きく取られているため、快適さでは前席をむしろ上回るか

その分荷室は、4:2:4分割可倒式の後席を倒した際に、段差こそないものの傾斜は残るため、小さな荷物を大量に積む際は荷崩れがやや心配だが、後席使用時でも奥行きは945mm(筆者実測)と深いため、日常の買い物はもちろん家族での旅行でも困ることは少ないだろう。

4:2:4分割可倒機構を持つ後席の背もたれは荷室左右のノブでも倒すことができる。荷室の奥行き×幅×高さは950(後席使用時)〜1610(後席格納時)×1040(タイヤハウス間)〜1450(最大)×750(フロアボード上段セット時)〜790mm(同、下段)(メーカー公表値)

しかも「フィールドジャーニー」の場合、フロアボードは裏面が防水加工された「リバーシブルラゲッジボード」になっているうえ、床下収納も取り外して丸洗いが可能な樹脂製のサブトランクが標準装備されている。アウトドアレジャーで汚れたウェアをそのまま置けるのは非常に便利だ。

「フィールドジャーニー」専用装備の「リバーシブルラゲッジボード」と樹脂製サブトランク

走りについても、この「フィールドジャーニー」がベストではないかと思えるほどの好バランスを見せてくれた。かつてデビュー直後に225/55R19 99Vタイヤ装着車を試乗した際は、粗粒路でのNVH(ノイズ・振動・突き上げ)にやや難があると感じられたが、それがほぼ解消されているのだ。

2021年11月の大幅改良で、フロアクロスメンバーの強化や構造用接着剤の採用、シートフレーム取付剛性アップ、シート&クッション形状変更、スプリング・ダンパーセッティング変更などに加え、サスペンション部品の共振周波数をコントロールし室内でのドラミングノイズを低減したことも、大きく貢献しているのだろう。

4WD車のベアシャシ−。サスペンションはフロントがストラット式、リヤはマルチリンク式

さらに「フィールドジャーニー」の場合、225/65R17 102Hのオールシーズンタイヤを標準装備している。これが225/55R19 99Vタイヤ装着車に対し、乗り心地はもちろんハンドリングもよりマイルドな味付けとなっている大きな要因のは間違いない。

CX-5自体のキャラクターを考えれば、より乗用車ライクでレスポンスの良いハンドリングの方が好みという人がいても、何ら不思議ではない。だが、状態の良い高速道路を走るよりも、荒れた舗装路やラフロードを走る機会が多いならば、この「フィールドジャーニー」の方を、筆者としてはより強くお勧めしたい。

撮影車両は225/65R17 102Hのヨコハマ・ジオランダーG91を装着。17インチアルミホイールは「フィールドジャーニー」専用のグレーメタリック塗装

進化し続けた「スカイアクティブD 2.2」の完成度は最終段階へ

SH-VPTS型2.2L直4ディーゼルターボエンジン「スカイアクティブD 2.2」は、2代目CX-5のデビュー時点ですでに完成の域にあったと記憶しているが、その後も2018年2月と2020年12月の商品改良で、相次いで性能をアップ。2017年2月の発売当初は最高出力175ps/4500rpm、最大トルク420Nm/2000rpmだったが、2018年2月には同190psと450Nm、2020年12月には同200ps/4000rpmへと高めながら、燃費や静粛性、コントロール性も改善させてきた。

6速ATもより素早く変速し、4WDもより悪路走破性を高めるべく、着実に進化を続けている。「フィールドジャーニー」ではさらに、ドライブモードに「オフロード・モード」を実装。後輪へのトルク配分増加、「Gベクタリングコントロール」やトラクションコントロールの制御変更、アイドリングおよびATシフトアップの回転数アップなど、滑りやすい路面での安定性とトラクションを高める制御が採り入れられている。

「フィールドジャーニー」はSH-VPTS型2.2L直4ディーゼルターボエンジン「スカイアクティブD 2.2」と6速AT、4WDのみを設定

結論:“買い”で間違いない。マツダが磨き上げたCX-5の完成度を見逃すな

では「モデル末期の2代目マツダCX-5は“買い”か“待ち”か?」

その答えはズバリ“買い”だ。

現行2代目CX-5は完全に熟成の域に達しており、たとえ新型となる3代目CX-5がどれほど進化していようとも、購入して後悔することは少ないと想像できる。

むしろ、昨今のマツダを取り巻く状況を見るにつけ、3代目CX-5には不安要素の方が多い。

マツダCX-5 XDフィールドジャーニー(4WD)

まず乗り心地は、再び悪化する可能性の方が高い。近年のマツダ車で、デビュー当初より乗り心地が洗練されていたモデルが、どれほどあっただろうか? 端的に言えば皆無に等しい。テストコースの設計が乗り心地を評価するうえで不充分か、テスト時の評価項目設定あるいは評価基準に問題があるか、走りを熟成させるための時間やコストが不足している、あるいはそれら全てかを、疑わざるを得ない。

またATシフトレバーは、前述の逆L字型ゲートに改悪される懸念が拭えない。北米向けのCX-50は従来のストレート式を維持しているので、CX-5もこれを踏襲すると期待したいが…。

マツダ CX-5 次期型プロトタイプのスパイショット

そして最大の懸念材料は、ディーゼルエンジンの廃止だ。2025年3月のに発表した「ライトアセット戦略」の中でマツダは、「スカイアクティブX」の後継となる新開発エンジン「スカイアクティブZ」をハイブリッドシステムと組み合わせ、2027年中に3代目CX-5へ設定する一方、ディーゼルエンジンは直6に集約する方針を明らかにしている。つまり3代目CX-5のデビュー時点で、ディーゼルエンジンがラインアップから外れる可能性は高いと見るべきだろう。これに伴い「フィールドジャーニー」が廃止されることも、充分に考えられる。

だから現行2代目CX-5、特にディーゼル車、それも「フィールドジャーニー」が欲しいならば、今すぐにでもディーラーへ行くべきだ。残された時間は余りにも短い。

マツダCX-5 スペック

■マツダCX-5 XDフィールドジャーニー(4WD)
全長×全幅×全高:4575×1845×1690mm ホイールベース:2700mm
車両重量:1690kg
エンジン形式:直列4気筒DOHCディーゼルターボ
総排気量:2188cc
最高出力:147kW(200ps)/4000rpm
最大トルク:450Nm/2000rpm
トランスミッション:6速AT
サスペンション形式 前/後:ストラット/マルチリンク
ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤサイズ:225/65R17 102H
乗車定員:5名
WLTCモード燃費:16.6km/L
市街地モード燃費:13.4km/L
郊外モード燃費:16.3km/L
高速道路モード燃費:18.7km/L
車両価格:383万9000円

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