一部改良で内外装デザインの変更、快適装備の追加を実施

トヨタ・カローラ クロスが2025年5月23日に一部改良された。カローラ クロスはカローラシリーズ初のクロスオーバーSUVとして2021年にデビュー。2023年にも改良を行なっている。今回の改良では新たに「GR SPORT」が追加されたが、8月4日に発売を予定している「より走りを楽しみたい人向け」のグレードについては時期が来たら改めて解説することにして、本稿ではメインシリーズについて詳しく見ていこう。

新型トヨタ・カローラ クロス。試乗車は「Z」グレードの2WDモデルで、ボディサイズは全長4455mm×全幅1825mm×全高1620mm、ホイールベース2640mm。
今回のマイナーチェンジではエクステリアデザインも大幅に変更された。従来の「URBAN ACTIVE」の方向性は維持しながら、より都会的な上質感を重視するとともに、若々しく躍動的な要素も盛り込んだ「URBAN PREMIUM」へと進化。

純ガソリンエンジンが姿を消して、ハイブリッドに一本化

カローラ クロスはデビュー以来、ガソリンエンジン搭載車とハイブリッドシステム搭載車(HEV)の二本立てで構成されていたが、今回の一部改良でHEVに一本化された。コスパ(コストパフォーマンス=費用対効果)が魅力のエンジン車を無慈悲に切り捨てたわけではなく、販売比率のほぼ9割がHEVなので整理したのが実状。ただし、「コスパは大事にしたい」と、HEVは一部改良によって内容を充実させながら価格を維持した。

1.8L直列4気筒自然吸気エンジンに走行用と発電用のふたつのモーターを組み合わせるHEVは、改良前と同様に「G」、「S」、「Z」の3グレードで構成される。車両本体価格(2WD、税込)はそれぞれ276万円、298万円、343万円で、「G」と「S」は据え置き、「Z」は18万円上がっている。内容はおいおい説明していくが、昨今の諸物価の上昇や技術、装備に関するアップデートの内容を考えると、いずれもバーゲンプライスというほかない。

最大熱効率40%を誇る1.8L 2ZR-FXEエンジンから成るハイブリッドシステムを搭載。システム最高出力は103kW(140PS)、WLTCモード燃費は26.4km/L(2WDの場合)を誇る。

「地球人の幸福と福祉のために」を使命とするカローラらしさは不変

「カローラなのでコスパは大事にしたい。そこで今回、下のふたつのグレードは価格を維持し、税込み300万円以下を死守すると。絶対命題でやりました。カローラを名乗る以上、我々以上に価格を気にするお客様はいらっしゃると思う。そこは守りたいからです」

そう話したのは、カローラシリーズ全体の開発を統括する福島徹氏。カローラ クロスの開発責任者を務める高橋毅氏は、次のように付け加えた。

「(価格は据え置きなので)下のふたつのグレードは走りの改良がタダで入っている状態。静粛性についてもそう。コンソールなど、使い勝手の部分の変更は全車に入っています。価格は据え置きで、進化させられるところはしっかり進化させている。そこは、カローラとしてこだわったところです」

カローラ クロスの開発に携わる関修司氏も黙ってはいない。

「本来であれば、製品企画側は高く売ってくれたほうがうれしいし、営業側は安く売りたい。今は時代に合わせて(物価の上昇にリンクさせる形で)営業側は高く売りたいと考えるのですが、カローラの場合は逆転している状況。製品企画側としては、なんとしても安く売りたい」

値段は上がっているが、「何も変わっていないじゃないか」とは言われたくないし、言わせないという強い思いが製品企画側にはあった。そんなこと言わせては「絶対だめ」(福島氏)だと。歴代のカローラは3つの考えに基づいて開発されている。「良品廉価」「変化」「プラスアルファ」だ。

「カローラにとって、『良品廉価』は当たり前。カローラとしてやっていかなければならないことだと考えています。『変化』は大事で、時代の変化に追従していくことが大事だと考えています。変わり続けるのがカローラというブランドのひとつのキモだと思っています」(福島氏)

福島 徹さん(トヨタ自動車 TC統括部 製品企画 ZE チーフエンジニア)
関 修司さん(トヨタ自動車 TC統括部 製品企画 ZE 主幹)
高橋 毅さん(トヨタ自動車 TC統括部 製品企画 ZE 主査)

アーバン&アクティブなイメージが強化されたエクステリア

ではプラスアルファは…。最上級グレードの「Z」を題材に見ていくことにしよう。外装デザインは大きく変わった。カローラ クロスはもともと主に新興国のグローバルサウスをターゲットに開発が進んでいた。良品廉価、変化、プラスアルファの説明をしたばかりだが、当初は良品廉価に軸足を置いていたのである。日本市場に投入する予定もなかったという。ところが、日本はもとよりアメリカに出し、中国にも進出し、グローバルモデルに成長した。カローラシリーズ全体で世界150以上の国と地域で販売し、2024年の販売台数は166万台。その半数以上がカローラ・クロスだという。

フロントフェンダーの塊をサイドポンツーンと連続させ、ダイナミックな造形を実現。
リヤバンパーの下部には、アンダーガード風のシルバーの加飾が加わったのが目を惹く。
フードエンドを伸ばし、グリル面を立てることでSUVらしい高い車両軸を実現しているのがカローラ クロスのサイドビューの特徴だ。

グローバルモデルになってみると、スタイリングに関する要望の声が聞こえてくるようになった。その声に応える格好で、より都会的で上質感のあるデザインに変化させたのが、今回の一部改良の内容だ。面から開口へとグラデーションで変化するフロントグリルが特徴のひとつ。ヘッドランプはアッパーグリルと一体感のある造形となり、Zは上下方向のグラデーションで光るセンターランプが装備される。また、「Z」はバルブだったターンランプがLEDになり、細くシャープなデザインに変更された。

ガラリとモダンな印象に変わったフロントマスク。ヘッドライトは4つのエッジが効いたランプが特徴的で、「Z」グレードではアダプティブハイビームもオプション装着が可能となった。そして、縦格子状に光るグリルがプレミアム感を演出する。
テールランプはフルLED化。細長くシャープに光る様子も新鮮だ。

プラスアルファは、日本初採用となるシグナルロードプロジェクション(SRP)である(「Z」に標準装備)。フロントのターンランプやハザードランプと連動し、これらのランプの点滅と同期して路面に矢印形状が照射される。夜間の見通しの悪い交差点などで、歩行者や周辺の車両に対して認識性を高める技術だ。地下駐車場の暗がりで確認したが、物陰に隠れたカローラ・クロスがSRPを点灯させると、クルマ自体は見えないのに、路面に照射された矢印で存在をつかむことができ、「こっちに出てくる」と予期することができる。

路面にシェブロン形状を照射するシグナルロードプロジェクション(SRP)。
このように、車両が壁の奥に隠れているような状況でも、路面に照射されたシェブロンのおかげで車両の存在を認識できる。

路面へのグラフィックの照射に関しては現在法整備が進んでいる。法制化を待っていたのでは「いい機能なのにもったいない」と、現行法規の範囲内で実用化にこぎつけた。ターンランプと同じ明るさなので昼間の効果は限定的だし、ターンランプと同期させて光らせることしかできない。それでも効果は絶大だ。「このチャンスを逃したら世の中に出せなくなる」という危機感がカローラ・クロスの開発陣とサプライヤー(小糸製作所)を突き動かし、実用化に至った。この革新的な技術が高価格帯のモデルではなく、良品廉価を旨とする普及価格帯のカローラ クロスから投入されたインパクトは大きい(複雑な制御を必要とせず、低コストで実現できているのもポイントだ)。

ヘッドライトユニットの奥の方で、オレンジ色に小さく光っているのがシグナルロードプロジェクションの照射機構。

スマートフォンが2台並列に置けるトレイを新設

インテリアはコンソールが一新され、アイランド型になった。フロント側で拡大したトレイには、スマートフォンを2台並列で置くことが可能(ケースに入ったiPhone16 Pro Maxも置けることを確認)。ワイヤレス充電機能(おくだけ充電)は左側にのみオプションで選択できる。シフトレバーはスマートなショートタイプになり、コンソールの縁を囲むようにイルミネーションが追加された。落ち着きと上質感のあるベージュ色で、コンソールに合わせ、ドアトリムのイルミネーションも線発光とし、センター部と呼応。エクステリアと同様、上質感が増した印象だ。

インテリアでは、シフトレバーとその周辺のパネル類を一新。上質さと使い勝手を向上した。

機能面でうれしいのは、シートベンチレーションの設定である(「Z」に標準装備)。スイッチはシフトレバーの手前にあり、操作しやすい(シートヒーターと兼用)。シートベンチレーションの設定は、「時代の変化に追従していく」カローラネスの“変化”を象徴する。酷暑が当たり前となった日本の夏を快適に過ごすのにありがたい機能である。

シートベンチレーションの機能を付加する場合、シートは本革か合皮にする例が多いが、カローラ クロスではメイン材の一部にファブリックを採用した(シート全体としては本革、合成皮革、ファブリックの組み合わせ)。そのほうが廉価にできるし、肌触りの点で本革や合皮に比べて夏は涼しく、冬は暖かい。ファブリックで通気性の高い材料が開発されたことに目を付けての採用である。

フロントシート。シートベンチレーションに対応した本革+ファブリックを採用している。
リヤシート。天井スペースも膝前スペースも十分な余裕がある。

ショーファーカーとしても通用する静粛性と快適性

一部改良版のカローラ クロスは走りの質の面でも手が入っており、とてもいい。「すごいなビズリーチ!」の熱量で「すごいなカローラ クロス!」と叫びたい気分である。試乗日当日はファミレスの駐車場でステアリングを託されたのだが、駐車場から道路に向けて段差を下りた瞬間に「やや、これは!」と脳に衝撃が走った。体への衝撃は皆無である。段差を下りた際に入るはずのとげとげしいショックはない。堅い木の椅子ではなく、柔らかいクッションに腰を下ろした感覚である。その印象は、リヤ席に移っても変わらない。

「走りの質」が高いのも新型の持ち味だ。

変わらないのは静粛性も同様。快適な運転の邪魔をするほどの騒々しいノイズは耳に届かないし、フロント席にいるときと同様にリヤ席でも印象は変わらなかった。ショーファーカーとしても通用する静粛性と快適性である。

ライントレース性がまたいい。早朝の首都高といえば気分良く走るにはもってこいのシチュエーションだが、カローラ クロスはまさに意のままである。車速のコントロールも、クルマの向きのコントロールも思いどおりで、嫌な素振りを少しも見せず、ドライバーの意思に対して忠実に動いてくれる。だから、気持ちいい。

2023年の改良時、ボディに振動を低減する高減衰接着剤を採用。特に後席の乗り心地や振動に効果がある部位に適用されており、車両全体の静粛性向上に貢献している。この技術はGRヤリスやGRカローラでの知見を横展開したものだそうだ。

2023年の改良ですでにハブベアリングの高剛性・低フリクション化、高剛性ボディ接着材を採用しており、今回の改良でサスペンション締結剛性の向上(締結トルクアップ)、ルーフマスチックの高減衰化、リヤフェンダーへのウレタンブロック追加、Aピラー内吸音材の追加(「Z」のみ)を行なっている。「G」、「S」グレードに関しては、これだけの改良が施されてお値段据え置きってどういうこと? な印象で、ゆえに大バーゲンなのだ。講じた策が走りの質向上にはっきり結びついているのだから。

「Z」グレードは新デザインの18インチアルミホイールを履く。かなり凝ったデザインで、5穴ながら6本のツインスポークを採用。表面の切削加工と、サイド部のダークグレー塗装との組み合わせもスタイリッシュ。タイヤサイズは225/50R18。

愛知県の高岡工場で生産していたカローラ クロスは2025年5月から、トヨタ自動車東日本(TMEJ)・岩手工場で生産している。生産を移管するにあたり、工場側から「性能品質の観点で貢献したい」という声が挙がったのだという。一部改良版のカローラ クロスは、フロント、リヤのサスペンションをボディ側に取り付けるボルトの一部について締結トルクを向上させている。これは、工場設備の能力を使い切ることによりバラツキを小さくし、締め付けトルクの狙い値を上げることで実現した。開発と生産が一体となった「もっといいクルマづくり」の最新事例である。

2023年には低フリクションベアリングを採用し、さらに今回の改良ではサスペンションの締結トルクを変更。ステアリングのニュートラル付近のしっかり感が向上するなど、操安性が格段にアップした。

カローラ クロス、良品廉価にもほどがある(ほめ言葉です)。よりスタイリッシュになり上質感がアップしたし、欲しかった機能に、あったらうれしい機能が加わり、走りも良くて、静かで、乗り心地がいい。何度試乗体験を振り返っても、どう考え直しても、「すごいなカローラ クロス!」しか、新しいカローラ クロスを表現する言葉が見あたらない。

グレードトヨタ・カローラ クロス Z(2WD)
全長4455mm
全幅1825mm
全高1505mm
室内長1800mm
室内幅1540mm
室内高1260mm ※パノラマルーフ装着車は1210mm
乗員人数(名)5
ホイールベース2640mm
最小回転半径5.2m
最低地上高160mm
車両重量1400kg ※パノラマルーフ装着車は1410kg
パワーユニット1.8L直列4気筒DOHC+モーター
エンジン最高出力72kW(98PS)/5200rpm
エンジン最大トルク142Nm(14.5kgm)/3600rpm
燃料(タンク容量)レギュラー(36L)
モーター型式・種類1VM・交流同期電動機
モーター最大出力70kW(95PS)
モーター最大トルク185Nm(18.9kgm)
バッテリー種類リチウムイオン電池
バッテリー容量4.08Ah
燃費(WLTCモード)26.4km/L
サスペンション前:ストラット式 後:トーションビーム式
ブレーキ前:ベンチレーテッドディスク 後:ディスク
タイヤサイズ225/50R18
価格343万円