コンパクトなのに航続距離は500km以上! 2025年度中に日本導入予定

スズキは2025年7月10日、同社初のバッテリーEV、e VITARA(イー・ビターラ)のティザーサイトを立ち上げた。eビターラはスズキのBEV(電気自動車)世界戦略車第一弾である。インド・グジャラート工場で生産し、2025年夏頃からインド、欧州、日本など世界各国で順次販売を開始する予定だ。

2024年11月にイタリア・ミラノでワールドプレミアされたスズキ eビターラ。スズキが開発した初のバッテリーEVとなる。
デザインコンセプトは「ハイテック&アドベンチャー」。EVの先進感とSUVの力強さを併せ持つ、冒険心を刺激する佇まいを目指したという。

まずは車両の概要から。全長×全幅×全高は4275×1800×1640mm(数値は開発目標値、以下同)。BセグメントのコンパクトSUVといったところで、エンジン車ではマツダCX-3と全長は同じ。BEVではプジョーE-2008(4305mm)、ボルボEX30(4235mm)が近い。ホイールベースは2700mmで、エンジン車のCX-3(2570mm)はもとより、BEVのE-2008(2610mm)、EX30(2650mm)を上回る長さだ。

つまり、eビターラは前後のオーバーハングが短い。プロポーション面では、大径タイヤ&ホイール(タイヤサイズは225/55R18)が四隅に配置されて安定したプロポーションになるし、室内を広くとれる。ホイールベースが長いと心配になるのは取り回しだが、eビターラの最小回転半径は5.2mだ。数値上はCX-3(5.3m)やE-2008(5.4m)、EX30(5.4m)より小回りが利くことになる。

eビターラのボディサイズは全長4275mm×全幅1800mm×全高1640mm、ホイールベース2700mm。

バッテリーは49kWhと61kWhの2種類。Bセグメントクラスでは希少な4WDもあり

駆動方式はフロントにモーターを積む2WDと、リヤにもモーターを搭載する4WDの2種類。BセグメントのBEVで4WDの設定があるのは、世界広しといえどもeビターラだけではないだろうか。「なぜ4WDを設定した?」と開発者に聞くと、「世界戦略車にするのであれば4WDの設定は必要。とくに欧州の営業から強いリクエストがあった」という。日本でももちろん、歓迎される設定だろう。

バッテリー容量は49kWhと61kWhの2種類。2WDは両方とも選択でき、49kWhを選択した場合、モーターの最高出力は106kW、最大トルクは193Nm。61kWhの場合は最高出力128kW、最大トルク193Nmとなる。WLTCモードの一充電走行距離は49kWh版が400km以上、61kWh版は500km以上と発表されている。最高出力に差が生じるのは、バッテリー出力が容量に依存するからだ。

4WDは61kWhのみの設定(49kWhの設定はない)。フロントモーターの最高出力は128kW、リヤモーターの最高出力は48kWとなる。システム最高出力は135kW、システム最大トルクは307Nmだ。最高出力が前後のモーターを足した数字にならないのは、やはりバッテリー側の制約による。一充電走行距離は450km以上と発表されている。

駆動方式はフロントにモーターを搭載する2WDと、前後にモーターを搭載する4WDを用意。後者の下回りを覗き込むと、リヤモーターの存在が窺える。
モーターと減速機、インバーターが一体となったeアクスルを搭載する。

スズキはカタログ上の航続距離と寒冷下での航続距離の乖離をできるだけ小さくすることが重要だと考え、手を打った。具体的にはヒートポンプシステムの採用(マイナス10℃以上で作動)、ステアリングヒーターとシートヒーターの採用である。最小限の電力消費で暖を取り、電力消費を抑える考えだ。この結果、外気温0度で走った場合(2WD・61kWh仕様)、エコモードではWLTCモードが示すEV航続距離に対し、エコモードで約10%、ノーマルモードで約15%の悪化に留めることができているという。空調のヒーターを使った場合は航続距離が半分以下に落ちるので、効果は絶大だ。

充電は普通充電と急速充電(CHAdeMO)に対応。急速充電はバッテリー寿命などの観点から90kWまでに対応する。寒冷時に急速充電時間を短くするため、充電中または走行中に電池を温めることが可能。寒冷時は、走行時の出力を確保するため、走行前に電池を温めるバッテリーウォーマー機能も備える。

普通充電用ポートは右側フロントフェンダー部に搭載。
急速充電用ポートは左側フロントフェンダー部に搭載。

エクステリアは金属のかたまりから角を切り落としたような、幾何学的なデザインだ。筆者の好きなタイプで、個人的にはとっても印象がいい。前後のライティンググラフィックに特徴があり、フロントはYの字を横に倒したようなデイライトランニングライトがウインカーを兼ねる。eビターラの表情を特徴づける光り方で、スズキはこれをスリーポインテッドマトリクスシグネチャーランプと呼んでいる。リヤも同様に、テールランプが3点セットで光る。

目力強めなヘッドライトまわり。デイタイムランニングライトとウインカーはYの字を横に倒したような光り方。
テールライト&ウインカーの点灯状態。

インテリアはクラスを超えた!?先進かつモダンな雰囲気

インテリアはモダンで機能的だ。ドアを開けてシートに腰を下ろすと(運転席はパワーシートだ)、バイザーレスの横長ディスプレイ(2枚の液晶パネルが一体化)に「スタートスイッチを押してください」のメッセージが表示される。そのメッセージの位置から、スタートスイッチはステアリングホイール(新開発の異形である)の左側にあることが直感的にわかる。

センターコンソールはフローティングタイプで、トレイ状になった下段の奥にUSBの充電ポート類が並んでいる。上段の奥はスマホのワイヤレス充電パッド。手前にカップホルダーがあり、その手前にD-N-Rを切り換えるダイヤルシフトがある。ダイヤルを押して右に回すとDレンジ、左に回すとRレンジ。Pポジションは独立したボタンが設けてある。

どこかで見覚えが……あっておかしくはなく、トヨタbZ4X/スバル・ソルテラと同じだ。eビターラはスズキとトヨタ、ダイハツの3社が共同開発したコンパクトBEVである。トヨタブランドからはアーバンクルーザーとして市場に投入される(はず)。電動系に関してはBEV開発で実績のあるトヨタの知見と技術が生かされている。ダイヤルシフトはその一例だ(既存のシステムを使えば開発コストを抑えられる)。

後席もゆとりがあると言いたいところだが、注意が必要だ。身長184cmの筆者が運転席でドラポジをとった状態で真後ろに座っても、前席シートバックとひざの間には相応の空間が残る。足元のスペースに不足はない。問題は頭上で、姿勢によってはルーフと干渉する。スライドするグラスルーフを収納するために後席側のルーフが下がっているせいだ。後席ヘッドレストの上は空間があるので、ヘッドレストに頭を寄せた状態で座ればなんとか収まるといった感じである。

インパネ中央部とドアガーニッシュにブラウンを採用し、SUVの力強さと上質さを表現。

扱いやすさが初EVにピッタリ。その気になれば爽快な走りも楽しめる

では、Dレンジをセレクトして走り出してみよう。袖ヶ浦フォレストモータースピードウェイを、一般道を意識しながら走った。ノーマル、スポーツ、エコに切り替えが可能なドライブモードは、ノーマルを基本に走った。アクセルペダルの踏み込み具合に対する力の出方はイメージどおり。過敏でもなく、物足りなくもなく、ちょうどいい。モーター駆動らしい反応の良さは明確に感じられる。

シフトセレクターの右側にはドライブモードの切り替えスイッチが備わる。

そのままアクセルを深く踏み込んでいくと、e-ビターラは軽々と加速していく。技術者のひとりは、「初めてBEVを買う人に選んでほしい」と話していたが、扱いにくさはないし、「これがBEVの走りか!」と感動させるに充分な、爽快な気分が味わえる。それに、エンジン車に比べて圧倒的に静かだ。電動車に特有の高周波ノイズはよく抑えられており、比較対象を競合するBEVに置き換えても、eビターラは優位に立つ。

コーナーでは終始安定している。操舵をきっかけに急にグラリと横に傾いて(ロールして)ドライバーを不安におとしいれるようなことはない。ステアリングを慌ただしく右に左に切って等間隔に置かれたパイロンを縫うように走ってみたが、素早いステアリングの動きにクルマは忠実に追随して向きを変えてくれる。まさに、意のままの印象。日常使いでは扱いやすさに通じる動きだ。

サーキットはスムースな路面ばかりなので乗り心地面の感想は保留としたい。本コースからピットロードに向かうルート上にわずかに存在するガタガタした路面での凹凸のいなしかたは、ボディのしっかり感を感じさせた。

18インチ・アルミホイールは空力と軽量化を両立させた樹脂ガーニッシュ付き。

回生ブレーキの制御についても判断を保留したい。eビターラは通常(ノーマル)時、アクセルペダルを離しても強い減速度は発生しない。どちらかというと空走感が強い。ダイヤルシフトの左側にあるイージードライブペダル(EDP)のスイッチを押すと回生ブレーキは強くなる。「渋滞時にアクセルペダルの操作だけで容易な運転ができるだけでなく、ワインディングなどでよりスポーティな走りが楽しめる」という触れ込みだ。

ロー、ミディアム、ハイの3段階をセンターディスプレイのメニュー操作で切り換えることができるのだが、そうとは知らず、強弱の程度の違いを試すことはできていない。たぶんずっとミディアムだったのだろうが、ミディアムでは物足りないシーンもあった。EDPを選択しても完全停止はせず、極低速域ではクリープに移行し、最後はドライバーにブレーキを踏ませる仕立てである。

回生ブレーキの強さは3段階から調整できる。操作はセンターディスプレイから行う。

回生ブレーキの効能に慣れた人で、積極的に強弱をコントロールしたい人は、パドル操作で強弱をコントロールしたいと感じるかもしれない。残念ながら、eビターラはパドルを備えていない。強弱を簡単に切り換えられるスイッチも設けられておらず、ディスプレイにメニューを呼び出してセットするしかない。ステアリングの上下や前後位置をいったん決めたらそうそう位置を変えないように、回生ブレーキの強弱も頻繁に変えない。という想定のもとの設定である。

2WDの1.4倍の登坂性能を誇る4WDはハンドリングにもプラス

2WDで何かが足りないというわけではなく、4WDを選択するとよりうれしさが増す印象。センターディスプレイで前後モーターへのトルク配分を確認しながら走っていると、かなり緻密に前後の配分を変えている印象。4WDは滑りやすい路面や悪路での走破性の高さだけでなく、乾燥舗装路でも恩恵が受けられる。例えば旋回時はリヤに駆動力を配分することで、フロントタイヤに余力が生まれ、浮いたぶんを曲がる力に振り向けることが可能。その結果、旋回性が高まる(よく曲がるように感じる)というわけだ。

取り回しがしやすく、扱いやすい。ちょうどいいサイズのBEVがスズキ eビターラである。コンパクトなサイズのBEVを待っていたという人にうってつけの1台だといえる。デザインは好みがあるだろうが、エクステリア、インテリアともに先進感にあふれモダン。インテリアの質感の高さも印象に残った。

ボディカラーは5タイプ。ルーフがブラックとなる2トーンがランドグリーンパールメタリック、スプレンディドシルバーパールメタリック、アークティックホワイトパール、オピュレントレッドパールメタリックの4タイプ、モノトーンがブルーイッシュブラックパールの1タイプ。

スズキが初めて開発したEVは興味深いメカニズムが満載! 「eビターラ」に投入された技術のポイントとは?

スズキ初の電気自動車(バッテリーEV)となる「eビターラ」。その中身には、興味深いメカニズムが凝縮されている。安全性に優れたリン酸鉄リチウムイオンバッテリー、コンパクトにまとめられたeアクスル、EV専用の新プラットフォーム「ハーテクトe」といった技術の要点をレポートする。 TEXT&PHOTO:世良耕太 PHOTO:世良耕太/スズキ

スズキ eビターラ 主要諸元
全長4275mm
全幅1800mm
全高1640mm
ホイールベース2700mm
トレッド前1540mm/後1540mm
最小回転半径5.2m
最低地上高185mm
車両重量1700kg(2WD・49kWh)/1790kg(2WD・61kWh)/1890kg(4WD・61kWh)
乗車定員5名
タイヤサイズ225/55R18 98V

スズキ eビターラ基本性能(プロトタイプ)