「自負や自信が芽生え」直近3年間で障がい者の退職はゼロ。見守り、成長支えるスタッフが貢献

「私たちの会社、ヤマハモーターMIRAI(以下MIRAI)には、いつか特例子会社ではない、自立した企業体になるという夢があります。10年後には、いま働いているプロパーの社員たちが、経営や事業を支えるリーダーとして活躍していてほしいと願っています」
同社の水口洋史社長は、目指す未来の姿を思い浮かべながらこう話す。

「特例子会社」とは、障がい者雇用の促進と安定を図るため、障がい者雇用において特別の配慮をする会社のこと。
特例子会社で雇用された障がい者は、親会社の雇用とみなされる。

事業領域拡大のひとつである中古パソコンの再生事業。年間5000台以上を手掛けている

MIRAI設立時の社員数は23名。事業は同社社屋の清掃と部品の梱包作業からスタートした。
その後、オフィスでの事務補助業務や中古パソコンの再生事業、さらには社内の自動販売機や従業員用ユニホームの管理など、段階的に活躍の幅をひろげ、現在では社員数も100名規模まで拡大している。

国が定めた法定雇用率(障がい者雇用)は民間企業で2.5%。一方で水口社長は「将来的に3%以上になる」と予測している。
視線の先にある“自立した先進的な特例子会社”へと成長していくためには、「障がい者と健常者がいきいきと共働する会社になることが必要」と話し、その基盤づくりが進められている。

MIRAIが提供するサービスは製造職場にも拡大。同社の一部工場では清掃業務をはじめ、設備の保守・点検も担っている

そうした施策のひとつに、一昨年刷新された人事・給与制度がある。
一部に合理的配慮は残されているものの、障がい者と健常者の区別のない職級制度が設けられ、すでに役職に就いた障がいのある社員も複数誕生した。

一般的に、障がい者の1年後の職場定着率は60~70%といわれているが、MIRAIは社員の定着率が高い会社でもある。
「仕事に取り組む中で、一人ひとりの心に社会人としての自負や自信が芽生えている」という言葉を裏付けるように、直近3年間で障がい者の退職はゼロ。
「背景には、社員たちを見守り、成長を支えるスタッフの存在があり、その貢献も非常に大きいと感じています」
と水口社長は続ける。

年末に開かれる社員総会。その年、著しく成長し活躍した社員の表彰などが行われる

同社の企業理念は「みんなの未来をMIRAIと創る」――。
さまざまな障がい特性や性格、特徴がある社員が互いに理解し合い、「自立」と「挑戦」、そして「柔軟」な姿勢(=MIRAIの行動指針)で働いていくことで、「もっと強くてユニークな会社になれる(水口社長)」。

そのポイントとしてDE&Iを挙げ、
「障がい者と健常者が共に働く職場環境を整えることで、付加価値の高い事業への挑戦も可能となり、それがスキルアップにもつながっていくはずです。簡単なことではありませんが、そこにチャレンジしていきたい」。
次の10年に向けて、水口社長は語る。