偉大な初代の後継車は、元々パンダとして開発されてない?
1980年に誕生した初代パンダは、2003年9月5日に最終生産車がラインオフするのをもって23年間の歴史にピリオドを打った。本来ならここでパンダは終わるはずだった。その後継としてフィアットが開発を進めていたのがコンパクトカーで、MPV(マルチ・パーパス・ヴィークル)テイストで仕立てられたブランニューの5ドアコンパクトHBのジンゴ(GINGO)であった。ところが2003年春のジュネーブショーでこのクルマを発表したところ、トゥインゴ(Twingo)と車名が似ているとのクレームがルノーから入ったのだ。

このクレームにどれだけ正当性があったのかは定かではないが、ルノーとの法廷闘争を望まなかったフィアットは自発的に折れ、ジンゴの代わりに再びパンダの車名を復活させることにしたのだ。

そのため2代目パンダ(ニュー・パンダ)はFIREエンジンの搭載以外に初代との技術的な繋がりはほとんどなく、共通点はFFレイアウトを採用したコンパクトカーというだけで、開発コンセプトからしてそもそもまるで異なっていたのだ。また、東西冷戦の終結に伴い、生産工場もイタリア国内から人件費の安いポーランド南部にあるフィアット・オート・ポーランド工場に変更されている。

ただし、初代から受け継がれた遺産もある。それがこのクラスでは希少な4WDのパンダ4×4(日本仕様は車高を上げた「4×4クライミング」が販売された)の設定だ。初代パンダの4WDシステムは軍用車や特殊車両の開発製造に実績のあるオーストリアのシュタイア・プフと共同開発したパートタイム式だったのに対し、2代目パンダはトルク・オン・デマンド式のフルタイム4WDに変更されている。

これは路面状況に応じて駆動力を後輪にも振り分けるシステムだが、2代目パンダの4WDシステムは、スイッチひとつでデフロック機構を使うことができ、メカニズムこそ異なるが初代モデルと同様に悪路走行を考慮したメカニズムであった。
現代的な装備に加え実用性とスタイリングが魅力だった2代目パンダ
2代目パンダの魅力は実用性の高さとキュートなスタイリングにある。ジウジアーロデザインの初代パンダは、合理的かつ簡素な設計とクラシックとしての色褪せない魅力があるものの、実用車として考えるとどうしても古さを感じてしまう。

初代パンダがデビューした1980年とは時代が違い、コンパクトカーにもエアコンやオーディオ、パワーステアリング、パワーウィンドウなどの快適装備、ABSやエアバッグなどの安全装備が必須となっており、2代目パンダはそれらを装備するすることを前提に開発されたという違いがあった。そして、もっとも大きな変化が車体サイズの拡大による後部ドアの新設だった。

かつては安価なコンパクトハッチには3ドアが主流だったが、現在では5ドアがマストになっている。そうした市場の変化に応えるかたちで、これらの要素を盛り込んで2代目パンダは登場したのだ。

もともとコンパクトMPVとして開発が進められた2代目パンダは、ユーテリィティの向上を狙ってハイルーフを採用したことにデザイン上の特徴があった。しかし、いたずらに背を高くしてしまうと視覚的な安定感を欠き、商用車を思わせる無骨な印象となってしまう。

そこで2代目パンダでは、コンパクトカーらしい軽快感と安定感を表現すべく、ルーフに向かうにつれて垂直方向のラインを絞るスタイリングを採用したのだ。さらにAピラーの上面を大きくラウンドさせることで、キュートかつ躍動感のあるスタイリングとした。

また、長方形のウインドウを嵌め込んだCピラーは、デザイン上のアクセントとするだけではなく、後方視界の確保にも貢献している。そして、「遊びの道具」としてのイメージを与えるために、ベースグレードや100HPなどの一部モデルを除いてルーフレールを標準装備していることも外観上の特徴となっている。

このユニークかつ魅力的なスタイリングは、フィアット開発センターのウンベルト・ロドリゲスの監修の元、アルファロメオGTのほか、中国車のチェリーA1や2代目チェリーQQを手掛けたジュリアン・ビアシオが担当した。
限定車やユニークな派生モデルが多かったのも特徴
ベースグレードでも充分過ぎるほど個性的な2代目パンダには、さらにプラスαの魅力を与えた派生モデルが何車種か存在する。

2004年に登場したパンダ・アレッシィは、同名の食器や家庭雑貨メーカーとのコラボで生まれた限定車だ。開発に当たっては最上級グレードのパンダ・マキシをベースに、アレッシィの手で内外装をオシャレにアレンジしており、ゴアオレンジ、カポエラグリーン、ダークウェーブブラックとオフホワイトとのツートンカラーによるビビットなエクステリアに、ボディ同色で仕立てられたインテリアカラーが特徴となる。

2006年末にイタリアでデビューしたパンダ100HPは、その名の通り100psの最高出力を発揮する1.4L直列4気筒DOHC16バルブエンジンを搭載するホットバージョンで、強化されたサスペンションに大きなハニカムフロントグリル、サイドスカート、専用リヤバンパー、クロームエキゾーストパイプなどの装備が与えられた。日本には右ハンドル+6速MT仕様で2007年に130台、2009年に100台限定で導入された。


このほかにも、欧州市場では商用車のパンダバン、4×4クライミングをベースに異なる意匠のバンパーと丸型ヘッドランプを持つパンダクロス、スイス限定のパンダ・スイスなどが販売された。
2011年に3代目パンダが登場した後も欧州市場では、フィアットのボトムレンジを担うエコノミーカーとして、パンダ・クラシックの名称で2012年12月20日まで生産が続けられた。
年々数を減らしつつある2代目パンダ
『パンダリーノ2025』のエントリーはたったの20台
『パンダリーノ2025』の会場になった渚園キャンプ場には約300台の新旧パンダが並んでいたが、2代目パンダのエントリーは少なく、その数はわずか20台ほど。その多くが4×4クライミングやアレッシィ、100HPなどのいわゆる「役物」で、販売の主力だったプラスやマキシといったFWDモデルの上級グレードは数えるほどしかいなかった。

主催者に話を聞くと「以前はエントリーも多かったのですが、最近は内外装を中心にパーツの欠品が増えたこともあって、乗り換える人も多く、参加台数を減らしています」という。

2代目パンダを長く維持する上でネックとなるのが、ロボタイズドMTのデュアロジックだろう。4×4クライミングや100HPなどはMTのみの設定となるが、販売の主力となる通常のFWDモデルはデュアロジックを装備していた。このギアボックスはイージードライブと引き換えに、定期的なメンテナンスが必要となる上、一般的なトルコンATに比べて寿命が短いという欠点がある。

使い方にもよるが、5~6年ほどで高額な修理が必要となるトラブルに見舞われるケースが多く、長く所有していれば、いずれはデュアロジックユニットの載せ替えが必要となるのだ。それが2代目パンダのエントリー数が少なくなった理由のひとつなのだろう。

同じパンダでも初代はクルマの成り立ちがまるで違うが、2代目にはキープコンセプトの3代目がある。高額な修理費用が掛かるトラブルが生じたところで廃車にして、2代目パンダから別のクルマに乗り換えるという選択をする人がいるのも当然のことだろう。
2代目パンダを買うなら今がラストチャンス!
中古車相場は底値でまだまだ程度の良い個体が見つかる
しかし、逆に考えれば2代目パンダに乗るなら今がラストチャンスだ。初代とは違って2代目パンダは快適装備や安全装備が充実しており、我慢を強いられることなくアシに使用できるコンパクトカーでもあるし、パンダシリーズのアイデンティティのひとつであったWサンルーフから発展した「スカイドーム」を採用しているのはこのモデルまでで、次の3代目では大型サンルーフは廃止されてしまった。

中古車価格はこなれており、総額50~80万円くらいでコンディションの良い車両が充分に狙える。新品のデュアロジックユニットへの載せ替えの場合、部品代と工賃を合わせて30万円ほど掛かるが、不安な人は車両購入時に交換しても良いだろう(その場合でも100万円ほどの予算で乗り出せる)。新車・中古車を問わず、車両価格がすっかり高騰してしまった現在、安価にオシャレなアシ車を探している人やイタリア車の初心者にも悪くない選択だと筆者は思う。

また、MTを自在に操れるなら4×4クライミングや100HPも選択肢のひとつだ。この2台はデュアロジックにまつわるトラブルの不安がない上、MTを駆使した運転する楽しみがある。とくに100HPは少々乗り心地がハードだが、軽量な車体にパワフルなエンジンを載せたまごうことなきイタリアン・ホットハッチ。国内に正規販売された数はわずかに230台。将来プレミアムがつく可能性も高く、安く手に入る今のうちに買っておいて損がない1台だ。
『パンダリーノ2025』2代目パンダ・フォトギャラリー


























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