キープコンセプトながら安全性と居住性が向上した3代目

2003~2012年にかけて生産された2代目パンダは、欧州の小型車市場で大きな成功を収めた。しかし、2000年代後半になると年々厳しさを増す安全基準や燃費規制、環境基準に対応するため、フィアットは次世代のパンダを開発する必要に迫られていた。

ニューパンダはパンダじゃなかった?今や初代よりも希少な2代目パンダの『パンダリーノ2025』エントリーは20台のみ!?

2025年5月24日(土)と25日(日)の2日間に渡り、静岡県浜松市にある渚園キャンプ場にて「パンダリーノ2025」が開催された。会場には約300台のフィアット・パンダが集まった。その中で少数派になるのが2代目パンダ(ニューパンダ)だ。しかし、数は少ないがその魅力は初代と3代目に勝るとも劣らない。今回はミーティングに参加した2代目パンダを紹介する。 REPORT&PHOTO:山崎 龍(YAMAZAKI Ryu)

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『パンダリーノ2025』レポートvol.5、2代目パンダ編についてはこちら。

この当時のフィアットは、2000年代初頭の経営不振から脱却し、脱・同族経営とGMとの提携解消、ブランドイメージの再構築に勤しんでいた時期でもある。幸いなことに2007年に誕生した500が世界的なベストセラーとなり、ようやくひと息ついたところではあるものの、まだまだ経営に余裕があるとは言えない状況だった。

『パンダリーノ2025』の様子。

そこで3代目パンダを開発するにあたって、フィアットは好評だった前モデル(2代目)のコンセプトを引き継ぎつつ、2代目パンダの開発時には意識されなかった初代パンダのエッセンスを取り入れ、居住性と快適性、多用途性、実用性の向上を重視し、開発・生産コストを抑えた手堅い設計でまとめられることが最初に決定された。

『パンダリーノ2025』には初代に次いで多数のエントリーがあった3代目パンダ。

プラットフォームやメカニズムは、先にデビューしていた500やランチア(クライスラー)・イプシロンに使用されていた「FCAミニ」が流用されることになった。これはもともと2代目パンダ用に開発されたコンパクトカー用のFWDプラットフォームなので、基本設計は2代目パンダを正常進化とも言える。ただし、3代目パンダはパッシブセーフティと居住空間の改善を目的に、全長が前モデル比で112~162mm拡大されている。

初代と並ぶ3代目パンダ。

ロベルト・ジオリト氏が手掛けた「スクワークル(角丸の四角)」デザイン

3代目パンダのスタイリングを手掛けたのは、ムルティプラや500を手掛けたフィアット・デザインセンターのチーフデザイナーを勤めたロベルト・ジオリト氏だ。彼の作品は実用性を重視しながらも遊び心に溢れたスタイリングが特徴となっており、3代目パンダもその例外ではない。

2013年型パンダEasy。足元を引き締めるのは旧車テイストなエンケイAPACHE2。パンダにこのホイールの組み合わせは珍しい。

デザインテーマは「スクワークル(角丸の四角)」。エクステリアは歩行者保護のためボンネットにボリューム感が増し、ウェストラインも2代目よりも高くなっている。シルエットは2代目との類似性が見られるものの、全体的には角丸でまとめられた。

パンダEasyのリヤビュー。バックドアテントを使用していることから、オーナーはキャンプなどのアウトドアが趣味なのかもしれない。

フォグランプを囲むガーニッシュやクォーターウィンドウには、デザインテーマに沿ってスクワークルの意匠が施されている。また、フロントグリルのデザインは、500の「ヒゲエンブレム」に影響を受けたように感じられる。

3代目パンダのインパネ。

インテリアはさらに強烈な個性を放っていて、メーターやシフトノブ、スイッチ類、ドアハンドル、オーディオレシーバーまでスクワークルの意匠で統一されている。ステッチにひと工夫してステアリングまでスクワークルデザインにしたのは、さすがにやりすぎだとは思ったが(さしものフィアットもそう思ったらしく、のちのマイチェンで一般的なステアリングに変更された)、これはこれでユニークな試みなのは確かである。

3代目パンダのインテリア。

また、初代パンダは蓋付きのグローブボックスを持たず、インパネの左右いっぱいに広大な物入れが用意されていたが、3代目の助手席にはそれにあやかってオープンポケットが備わる。

初代パンダのインテリア。

これらの特徴的なデザインは、ジウジアーロ氏の手による初代パンダがスクウェアなボディデザインであり、おそらくは初代の持つアイデンティティを3代目のスタイリングに取り入れようと考えたためだろう。結果的に初代を超えたとまでは言えないものの、3代目パンダはフィアットの小型車らしく、優れた実用性と魅力的なイタリアンデザインを巧みに融合させたクルマに仕上がった。

初代以来となる2気筒エンジンを搭載&フルタイム4WDモデルも設定

3代目パンダには、初代パンダ・セリエ2に採用されて以来、長きに渡ってフィアットを代表するパワーユニットとして使い続けられてきた1.2L「FIRE」直列4気筒SOHCエンジンに加え、パンダシリーズとしては初代パンダ30以来、久しぶりの2気筒エンジンとなる0.9L「TWIN AIR」2気筒エンジンが設定された。

欧州向けの3代目パンダに設定があった1.2L「FIRE」直列4気筒SOHCエンジン。

欧州市場ではこれらをベースにしたガソリン/LPGのバイフューエル仕様が設定されたほか、フィアットが得意とする直噴コモンレール方式1.3L「Multijet II」直列4気筒DOHCディーゼルエンジンの設定もあった。しかし、日本正規輸入車は全グレード0.9L「TWIN AIR」2気筒エンジンのみだった。

3代目パンダに搭載される0.9L「TWIN AIR」2気筒エンジン。正規輸入車のエンジンは全車のこのタイプとなる。

日本仕様に組み合わされるトランスミッションは、2014年に100台限定で販売されたパンダMTを除き、FWDモデルはデュアロジックで、4WDは6速MTとなる。なお、ハンドル位置はFWDモデルが全車右ハンドル、4WDモデルが全車左ハンドルであった。

2020年型パンダCross 4✕4。足まわりはCRIMSON DEAN CROSS COUNTRYのホワイトホイールを装着する。

4WDモデルの「4✕4」や「Cross 4✕4」には前作に引き続きトルク・オン・デマンド式のフルタイム4WDが採用されている。この4WDシステムにはELD(エレクトロニック・ロッキング・ディファレンシャル)が備わり、電子安定性制御を介してセルフロック式ディファレンシャル(電子式デフロック)の動作をシミュレートすることで悪路走破性を高めている。

パンダCross 4✕4のリヤビュー。SUVライクなCross 4✕4は前後のバンパーにスキッドプレートが装着される。

なお、悪路走行を前提とした「4✕4」は65mm、「Cross 4✕4」では80mm車高をアップし、アプローチアングルとデパーチャーアングルが向上している。SUV色の強い「Cross 4✕4」は、専用のアルミホイールに175/65R15サイズのタイヤを組み合わせる。さらに、独特な分割型ヘッドランプとスキッドプレートを備えた新しいフロントマスクが与えられ、それにあわせてテールランプも分割式となっている。

Cross 4×4のブラックアウトされた分割式のテールランプ。リヤウィンドウにはスーパーカブ専門店「Cuby」のステッカーが貼られている。同店はフィアット系のパーツも取り扱っている。

3代目パンダは2011年9月のジュネーブショーで発表され、2012年2月から欧州市場で販売を開始。生産はナポリ近郊のポミリアーノ・ダルコ工場で行われ、3代目は初代、2代目に続き、欧州市場でヒット作となった。

3代目パンダのラゲッジルーム。全長の拡大によって荷室も広くなった。

日本では2013年5月から販売を開始し、2023年12月9日に限定200台の「Cross 4✕4」の発表をもって販売を終了した。この日はポミリアーノ・ダルコ工場で最後のパンダがラインオフした日でもあった。

初代に次ぐエントリー!しばらくは初代とともに3代目が『パンダリーノ』の主役に

今回の『パンダリーノ2025』に集まった300台のパンダのうち、初代に次ぐエントリー台数を誇っていたのが3代目だった。もっとも車齢の古いクルマでも13年落ちということで、新車時のコンディションを保っているクルマが総じて多い。

2015年型パンダMT。限定100台の貴重なFWDモデルのMT車。ベースとなったのは右ハンドル仕様のEasyだ。ホイールはブリヂストンのスーパーRAP?

また初代や2代目と違ってノーマル車が多く、オーナーが自分好みに手を入れた車両でもホイールを交換したり、ローダウンサスを組んだりと、軽めのカスタムを施した車両がほとんどだった。

2014年型パンダEasy。アランチャ(オレンジ)のボディカラーがポップで明るいパンダのイメージによく似合っている。

中古車相場はだいぶこなれてきたとは言え、それなりの金額を支払って新車で購入、あるいは高年式の中古車を購入した人も少なくはないようで、素材として弄り倒すにはまだまだ新しいクルマということもあるのだろう。だが、磨き上げられたボディを見れば、どのクルマもオーナーから大事にされていることがわかる。

2013年型パンダ・ラウンジ。Easyのトリムレベルを引き上げた上級モデル。

ノーマルに近い車両が多いものの、ルーフテントやバックドアテントなどのアウトドア用品を活用している人が多い印象だった。おそらくは経済的で使い勝手の良いオシャレなファミリーカーとして愛用しているユーザーが多いのだろう。

2015年型パンダ4✕4アドベンチャーエディション。ルーフテントを備えたキャンプ仕様。

すでに欧州では4代目となる新型のグランデパンダが登場している。現時点での日本導入時期は未定だが、数年のうちに日本でも販売が開始され、そう遠くないうちに「パンダリーノ」にもその姿を現すはずだ。

2024年に発表されたグランデパンダはEVとマイルドハイブリッドをラインナップする。全長こそ3代目+300mm程度の3999mmとギリギリ4mを切るサイズに収められたが、全幅は1760mmと100mm前後拡大されている。

しかし、グランデパンダはボディサイズが拡大し、EVとガソリンエンジンに48Vシステムを組み合わせたマイルドハイブリッドとなることから、販売価格の引き上げは避けようがない。そうなると新型の導入後もしばらくの間はこのイベントの主役は初代と年式の新しい3代目が務めることになるだろう。

2014年型パンダEasyのクロスオーバー仕様。ボンネット上にはランドローバー風のバッジが装着され、エンブレムをアバルトに交換。社外の大径ホイールにブロックタイヤ、ワンオフのスキッドプレートなどの装備でドレスアップしている。

3代目パンダの生産は2022年に終了したが、このクルマの魅力は今もって全く損なわれてはおらず、初心者からベテランまで誰もが楽しめる身近なイタリア車として末永く愛され続けていくに違いない。

『パンダリーノ2025』3代目パンダ・フォトギャラリー