FERRARI 296 GTS / Roma Spider

オープンであること以外は異なる2台 

最近はじめてフェラーリを手に入れた。思っていたとおり値が張ったけれど、でもこの先確実にアガってくれるはず! といっても株のハナシなのだが。

さて本日のフェラーリは実車である。「296GTS」と「ローマ・スパイダー」、2台のフェラーリがノーズを突き合わせる様子は壮観だった。チェレステトレビを纏う「ローマ・スパイダー」はロングノーズショートデッキのFRレイアウト。滑らかな曲線を描くパワーバルジの下には3.9リッター V8ツインターボ・エンジンが収まっている。

対する296GTSはロッソコルサをベースとして大胆に水色のアクセントを加えたマラネッロ・コンセッショネアーズ(イギリスのフェラーリ・ディーラー、往年のレーシングチーム)を範とするリバリーである。V6ツインターボはもちろんミッドシップ・マウントされている。

現行のオープンエア・フェラーリという共通点はありながら、それ以外はあらゆる部分が異なる2台、今回のキモはそこだろう。フェラーリのアーカイブを俯瞰すれば、昔からGTモデルとレースカーにも通じたスポーツモデルという2つのラインが存在してきたことがわかる。中でもGTは映画スターや王侯貴族、さらには実業家といった時の人を中心に愛されてきた優雅な歴史がある。

そんな伝統的なGTと比べるとミッドシップ2シーターのそれは比較的新しい潮流といえる。だが今日の認識では1980年代の「308」にはじまり最新の「296」につながるシリーズこそフェラーリの主役というイメージになってしまっているわけだが。

滑らかさを感じるローマ・スパイダー

クーペボディのローマは以前ドライブさせてもらっているが、その際の印象は正直なところ薄い。だが今回、2台の内外装をじっくりと眺めたあと強く惹かれたのは「ローマ・スパイダー」の方だった。

赤でも黄色でもない「ローマ・スパイダー」のカラーリングはゆったりとして肩の力が抜けた感じが絶妙だ。ローマはインテリアの造形にも優雅さが感じられていい。このクルマは助手席に美しいパートナーを乗せて旅に出かけるべき1台なのだ! もちろん今回はいないのだけれど。

走りはじめてすぐ「滑らかさ」に驚かされた。フェラーリに乗って滑らかさに言及したくなったのは初めてかもしれない。スロットルを踏んだ瞬間のパワーの滑らかな立ちあがり、滑らかなシフトアップ、まだ熱が入っていない状態でもいきなり滑らかに効くカーボンセラミックのブレーキ! さらにマネッティーノでコンフォートを選ぶと、お世辞抜きに滑らかな乗り心地までが堪能できた。

フェラーリならではの官能性も味わえる

ドイツあたりのライバルより「ローマ・スパイダー」の動的質感が優れているなんて信じられるだろうか? とはいえ、ただ「滑らか」な1台が欲しいのであれば他にも選択肢はあるはず。「ローマ・スパイダー」に感動させられたのは「滑らか」以外の逐一がちゃんとフェラーリらしくまとまっていたからということもある。

V8ツインターボはまるで自然吸気エンジンのように回せば回すほど直線的にパワーが溢れ出す。排気音は特に官能的とは言えないが、それでもボリュームは十分に大きく「これぞフラットプレーンクランク!」という感覚に浸ることができる。

トドメはスイッチ操作ひとつで青空を仰げるオープンエアドライブである。ここぞという場面でサッと幌を下ろしてゆったりと流し、軽やかな風を感じる。そんな走り方こそ「ローマ・スパイダー」が標榜する世界観に違いないのである。

296GTSのオープンは戦闘姿勢

「ローマ・スパイダー」の豪奢で引き締まった走りにうっとりとした後、「296GTS」のスロットルを踏み込んで目が覚めた。アセットフィオラーノ・パッケージに含まれるカーボン筐体のバケットシートの硬さとドライビングポジションの低さ、立体的でインパクト強めなコックピットの眺め。120度バンク、等間隔爆発のV6はピックアップも鋭く、拍車がかかるように回る。気づけばステアリングリム上に赤いランプが点灯しはじめて、シフトアップを促してくるのだ。その際のエキゾーストノートも「ローマ・スパイダー」よりはるかに力強く、下っ腹に響いてくる。

「296GTS」もスイッチ操作ひとつでオープンになるが、「ローマ・スパイダー」のそれとは意味合いが違う。それは重心を下げ戦闘姿勢をとるシークェンスなのである。気分はマラネッロコンセッショネアーズがレースで走らせていた312Pである。

マネッティーノにはローマのようなコンフォート・モードが存在しない。スポーツが標準であり、その上はレースとCTオフ、ESCオフの順で険しさが増していく。

ほどよい反力を返してくるステアリングを切り込んだ瞬間、ミッドシップの恩恵がはっきりと感じられた。ステアリングと前輪がダイレクトに結ばれているような感覚があり、容赦なく旋回Gが高まる。「ローマ・スパイダー」のステアリングフィールも十分にスポーティだったが、「296GTS」のそれは次元が違う。

一方後輪にはパワートレインと直結しているような一体感があり、ドライバーが4輪の荷重を完璧にコントロールしていると実感できる。

踏み始めからパワーを発揮するモーター

V6エンジンの最高出力は663PSもあるが、対するモーターも強力でスロットルの踏みはじめからいきなり167PSを放出する。以前296GTBを試乗したときと同様に、おおよそハイブリッドシステム搭載のデメリットは感じられなかった。むしろこの素早い回生とブーストの気配がなかったとしたら最新のスーパースポーツとしては物足りなく思えたかもしれない。

それと同時に、今回はオープンエアを意識して首都高から房総の海辺で試乗したのだが、やはりミッドシップ・フェラーリのパフォーマンスを解き放つにはサーキットやワインディングが最適なステージなのだと思い知らされたのである。

クーペよりスパイダーに魅力を感じる

フェラーリの現行ラインナップで、中心となっているのが2台のオープンモデルだ。V6PHVとV8、MRとFRなど、パッケージは大いに異なるが、そこにフェラーリとしての共通した哲学はあるのか。ラインナップの刷新が行われる今、改めて検証してみよう。
サーキット志向のレーシングマシンとロングツーリング志向のGTという性格に分けられる2台。

今回の2台をドライブして感じたのは、雰囲気も走りでもクーペよりスパイダーの方が魅力的ではないか? ということ。そして個人的には「ローマ・スパイダー」の優雅な世界観に強く惹かれてしまったのである。

これまで個人的最高の21世紀フェラーリは「812スーパーファスト」だったのだけれど、これからは「ローマ・スパイダー」推し。あとは株価が上がるのを待つのみである。

 REPORT/吉田拓生(Takuo YOSHIDA)
PHOTO/田村 弥(Wataru TAMURA)
MAGAZINE/GENROQ 2025年9月号

フェラーリの現行ラインナップで、中心となっているのが2台のオープンモデルだ。V6PHVとV8、MRとFRなど、パッケージは大いに異なるが、そこにフェラーリとしての共通した哲学はあるのか。ラインナップの刷新が行われる今、改めて検証してみよう。
横から見ると、ミッドシップとFRのプロポーションの違いがよくわかる。

SPECIFICATIONS

フェラーリ・ローマ・スパイダー

ボディサイズ:全長4656 全幅1974 全高1306mm
ホイールベース:2670mm
乾燥重量:1556kg
エンジンタイプ:V型8気筒ツインターボ
排気量:3855
最高出力:456kW(620PS)/5750-7500rpm
最大トルク:760Nm(77.5kgm)/3000-5750rpm
モーター最高出力:──
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク(カーボンセラミック)
タイヤ&ホイール:前245/35ZR20 後285/35ZR20
0-100km/h加速:3.4秒
最高速度:320km/h
車両本体価格:3436万円

 

フェラーリ296 GTS

ボディサイズ:全長4565 全幅1958 全高1191mm
ホイールベース:2600mm
乾燥重量:1540kg
エンジンタイプ:V型6気筒ツインターボ
排気量:2992
最高出力:610kW(663PS)/8000rpm
最大トルク:740Nm(91.8kgm)/6250rpm
モーター最高出力:122kW(167PS)
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク(カーボンセラミック)
タイヤ&ホイール:前245/35ZR20 後305/35ZR20
0-100km/h加速:2.9秒
最高速度:330km/h
車両本体価格:4319万円

 

【オフィシャルサイト】
フェラーリ・ジャパン
https://www.ferrari.com/ja_jp/

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