「舵の効きがバツグン。タコがかかった樽に早く移動できるので、体力温存にもつながる」

「2m超の波でも安定感があるし、スピードも出せる」「舵の効きがバツグン。タコがかかった樽に早く移動できるので、体力温存にもつながる」

試乗会に参加した漁業従事者からは、新型漁船DY-48I-0Aの印象についてこのような声があがった。

新型DY-48I-0Aは、1990年に発売されたDY-48G-0Aの後継モデル。いまも港にはタコ樽流し漁の主力として活躍するDY-48G-0Aがずらりと並び、その勇ましい光景が地域産業になくてはならない“頼れるパートナー”であることを物語っている。

試乗会では約30名が新艇に乗船。高波の中での試乗会となったが、凌波性や安定性、舵効きの良さについて高い評価を受けた

「言うまでもなく、30年という時間は長いものです」と話すのは、このプロジェクトで主に営業を担う樹林謙さん。「漁具や漁法が進化するたびに、これまで全モデルに特艤(とくぎ)※と呼ばれる仕様変更を加えて対応してきました。結果として、納船のたびに約120カ所に特艤を加えることになり、生産や供給の効率にも大きな課題がありました」と振り返る。
※顧客からの要望に応える特別な艤装

一方、設計を担当した尾崎吉彦さんは、「次代を担う、若い漁業従事者も増えています。スマート水産による漁業の効率化等を水産庁が推進していますが、働く人の負荷やコストの低減に、漁船の果たす役割は大きいと考えていました」と新艇開発の背景を説明する。

新艇の設計にあたり、尾崎さんらは繰り返し宗谷を訪問。ときには樽流し漁に同乗し、その操業シーンをつぶさに研究した。「船や人の動き、漁具の種類や数、またその配置など、漁労をより快適にするための要件を洗い出して、それら全てを設計に織り込みました」と尾崎さん。

新艇開発のプロジェクトを牽引した営業担当の樹林謙さん(写真左)と、設計を担当した尾崎吉彦さん

新艇のポイントのひとつに、優れた燃費性能が挙げられる。模型実験やシミュレーターによる検証を繰り返すことで摩擦や造波抵抗を極限まで減らし、約16%もの燃費性能向上を実現。「年間の燃料代は使い方によってバラつきはあるものの、1隻あたり約800万円とも言われています。燃料が高騰するなか、決して小さくはない貢献につながるはずです」と尾崎さん。

さらに、漁労時の疲労を低減する艇体安定性や、低速時に小回りの利くクイックな舵角も大きな進化を果たしたポイントのひとつ。これらも漁に携わる皆さんの声に耳を傾けるとともに、乗船体験などによって漁の実態を深く理解した成果だという。

「すでに3件のご注文をいただいています」と樹林さん。「漁家の皆さんにとっての新艇は、家の新築と同じこと。誠心誠意向き合って迎える進水式は嬉しいですし、その結果、豊漁で見せる漁師さんたちの笑顔に出会えることが漁船営業の大きな喜びです」

ヤマハ発動機が国内初の量産型FRP漁船を発売してから60年余り。かつて漁業大国と呼ばれた日本で、同社は漁業従事者の方と対話しながら、現場のニーズに応えるべく漁船を開発してきた。昨今、燃料高や少子高齢化など日本の漁業を取り巻く環境は多くの課題を抱えているが、ヤマハ発動機は今後も、現場に寄り添った製品開発を通じて日本の漁業の持続的な発展に貢献していく。

ヤマハ発動機公式サイト「漁船・業務艇」