みんなが惚れた理由がわかる、S13シルビアスタイリング
日本の2ドアスペシャルティ市場最後のヒット作(と筆者は勝手に思っている)であるS13シルビアの第2章は、まずは外観から見ていく。
車両は初期も初期型、いかにも「S13シルビア!」の1988年型Q’sの4AT車。
色もS13の宣伝カラー、ライムグリーンツートンだ。
※★マークは、当時資料などでの呼称です。
【外観】
●正面
あくまでも低く、幅広くはこの頃の自動車デザインの常套。
セダンでさえその思想だったから、2ドアスペシャルティならなおのこと。
全高は1300mmを切る1290mmで、この頃のセダンよりざっと100mm低い。
最低地上高はたった135mmだから相対的に車輪がより外側にあるように感じられ、典型的なワイド&ローのスタイリングをしている。

●斜め前
S13のワイド&ローっぷりはここから見てもよくわかる。
前輪サスペンションがダブルウィッシュボーンのプレリュード(というよりもこの頃のホンダ車全般)ほどではないにしろ、前輪アーチ上端からフードまでの距離がかなり短い。
S13の前輪サスはオーソドックスなストラット式。
むしろストラット式でよくぞここまで低くしたものと感心する。
ワイド&ローもしくはタイヤが四隅で踏ん張っている感じが強いのは、フェンダーの造形にも因っている。
日産いわく「グラマラスフェンダー」。
車両を真上から眺めたとき、フェンダーのランプ寄りの面を絞り込む(=前すぼまりにする)ことで相対的にフェンダー全体が張り出し、空力的な形状になると説明している。

●真横
車両サイズは全長×全幅×全高:4470×1690×1290mm。
長さはやや小ぶりなミドル級セダンの寸法なのに、この位置から見てやけにのびやかに見えるのは全高が低いからだ。
低いノーズからフロントピラー根元にかけて伸びるフェンダー稜線が、同じ高さのまま大きな弧を描くウエストラインに変化してトランクリッドへ。
いっぽう、ピラー&ウインドシールドで枝分かれしたラインの、ルーフを経てリヤピラー&リヤガラスに至る軌跡も実に自然だ。
キャビンを包むサイド面は、細い細いラインが前から後ろにプレスされているだけだ。
いまのクルマ(最近だいぶよくなっているが)のように、ヘンに複雑にプレスしたエンバース面や、あちらこちらに刻んだラインがなくたって、美しいスタイリングができることをS13は証明している。

●斜め後ろ
S13全盛時代、街で見かけるS13リヤガラスがちょっと特徴的に見えるのは気のせいかと思っていたのだが、今回調べてみたら、当時の日産はリヤガラスデザインの新規性をアピールしていた。
気のせいじゃなかった、リヤガラスは三次曲面ガラスだったのだ。
資料では「カプセルリヤウインドウ」と名付けている。
三次曲面にするとなぜ「キャビン部分をモダンに、かつコンパクトに見せる(当時資料より)」ようになるのかよくわからないが、ここはモダンに見えるとしておこう。
ただ、いくらスペシャルティ2ドアクーペとはいえ、キャビンの上下寸が小さく、「コンパクト」すぎるような気がする。
車両キャラクター上、全高1300mm未満にしたかったのだろうが、1295mmのままウエストラインを5~10mm下に落としただけで、適度にコンパクトに見えるキャビンになるような気がする・・・と、いまさら37年も前のクルマにいってもしかたないのだが。

●真後ろ
フロントがフェンダー絞りと前輪の踏ん張りでワイド感を強調したのに対し、後ろはリヤボディそのものをいっぱいに広げることでワイド感を強調している。
他に、コンビランプが横長であることにも起因していよう。

【灯火】
★超薄型4灯式ハロゲンヘッドランプ
内側から外側にかけ、ハイ、ロー/ハイ(ダブルフィラメント)、スモール、サイド用ターンシグナルと続き、バンパー内にはフロント用ターンシグナルが収まる。

配列からわかるように、ロービームは外側のみ、ハイビーム時は内側が点灯するとともに外側もハイビームに切り替わる。
それぞれの点灯状態をお見せする。






さて、これほどの横長レンズなら、最も内寄りの位置にフォグランプがあってもよさそうなものだがこのS13にはなし。
バンパー下に取っつける白と黄色のプロジェクター式が販社オプションで用意されるほか、「エアロフォルムバンパー」という、S13にはなじまないちょいワルバンパーにつく角型フォグランプもある。
ただしこの角型の取付位置は、ターボ車ではインタークーラーの空気取り入れ口になるため、ターボ車というクルマの性格から、このワルそうバンパー需要が多そうなK’sこそ取り付け不可になるというおもしろ現象が起きている。


★プロジェクターヘッドランプ(フォグランプ組込み)
S13シルビアを語るとき、これがなければ嘘になる、4連プロジェクターヘッドランプ。こちらにはフォグランプが組み込まれる。
1987年のマイナーチェンジ版R31スカイライン(のGTシリーズ)に続く、日産プロジェクターランプ車第2弾だ。
日産はランプのプロジェクター式で、スカG(のロービームのみ)で「日本初」、さきの販社品フォグでも「日本初」、そしてこのフォグ組込み4連(ローとハイ)で「量産車として世界初」という、かなりややこしい3連続初づくしの快挙を遂げた。
いずれも市光工業と日産自動車の共同開発品だ。
1985年のトラッドサニー(B11)の時点で最廉価機種からハロゲンランプを標準化するなど、この頃の日産には、より明るい、より新しいランプ光源の普及や開発に積極的だった印象がある。

この後のセフィーロも含め、当時は走ってくるプロジェクターランプ車を歩道側から見ると7色に変わり、あんときゃあてっきり意図的に採り入れた商品特徴だと思っていたが、後で何かで読んで、開発側としては本当はなくしたかったものだとわかった。
知らなかった。
しかし技術の進化とともに光が変移するプロジェクターランプはなくなった。
●車幅灯
サイドにまわり込む車幅灯にコーナリングランプ機能はなし。
コーナーにランプがある利点は、対向車からクルマのほんとうの車幅がわかるのと、斜め後方からでもサイドからでもクルマの存在がわかることだ。
自分の行く先に、沿道のコンビニエンスなどから車道に出ようとするクルマが鼻先だけ突き出している様子を見ると、このランプ配置の重要さがわかる。
いまのクルマはどうかいな・・・

●リヤコンビランプ
水平方向で上下に分け、上段にターンシグナルとリバースを、下段にテール&ストップを配している。
テール&ストップは電球を2個使っているが点灯面積は同じで、光量が変わるだけの一斉点灯となる。
リフレクターはこの赤エリアに内包されている。






●各部使用電球
ここに掲げた灯火類の使用バルブは下記のとおり。
・外側ロー/ハイ:12V-60/55W
・内側ハイ:12V-55W
・車幅灯:12V-5W
・番号灯(ナンバープレート照明):12V-7.5W
・テール&ストップ:12V-5/21W
・後退灯(リバース):12V-21W
・方向指示灯 兼 非常点滅表示灯(ターンシグナル兼ハザード) 前後/側面:12V-21W / 12V-5W
いまのクルマは多くのランプがLED化してしまい、交換が効かなくなっている。
レンズが割れたり、LED素子がひとつ不点灯を起こそうものなら筐体まるごと交換となり、バカ高い万単位の出費が強いられる。
この時代のランプは、フィラメントが切れたら上記バルブを買って自分ででも交換できるから、ヘッドランプなら左右数千円、それ以外なら数百円の出費ですむ。
このことから私は自動車ランプのLED化を問題視しているゆえ、わざわざ記した次第。
LEDランプ、せめて200万級以下のクルマはほしいひと向けだけのオプションにとどめ、電球に戻しましょうよ。
【外観装備】
●タイヤ&ホイール
J’sとQ’sには185/70R14と樹脂の14インチ用フルホイールカバーが標準で、ターボ付きK’sには195/60R15と15インチ用カバーが標準となる。

アルミホイールは15インチ版が全機種にオプション。
14インチが標準のJ’sとQ’sで15インチアルミを選んだ場合、当然タイヤも195/60R15とセットになる。
アルミのデザインは、奥で丸穴が開いた水滴型のくぼみが円周に12個並んだもの。
カバーもアルミも、この頃のこのサイズの日産車で使われているものを使いまわしているが、どのクルマにも似合うようにデザインされている。
また、これまた全機種にオプションのHICAS-IIを選ぶと、タイヤが同じくJ’sとQ’sも含め、195/60R15 86HのポテンザRE71になる。
ところで私が以前使っていた日産ティーダの185/65R15タイヤの指定圧は、速度無関係に前輪2.3kg/cm2、後輪2.1kg/cm2だった。
いま使っている旧ジムニーシエラは205/70R15で、同じく前輪1.6kg/cm2、後輪1.8kg/cm2・・・駆動輪が入れ替わると圧が高いほうも前後が変わり、特に乗り換えたばかりの頃はややこしい思いをした。
対してこのS13シルビアは、18570R14、195/60R15問わず、そして前後問わず、そして高速走行時も含めて一律2.0kg/cm2・・・わかりやすくていい。
●CA18DEエンジン
J’sとQ’sには自然吸気のCA18DE、K’sにはインタークーラーターボのつくCA18DETが載せられる。
「CA」はエンジン名称、数字は排気量の上2桁、「D」がDOHCを表し、「E」は日産の電制制御燃料噴射の商標「EGI」を示す。
「T」は「TURBO」だ。
CA18DEとCA18DETはシリンダーヘッドが赤く塗られ、ぱっと見では同じに見えるが、よく見るとシリンダーヘッド形状が異なっている。
オイル容量は、CA18DE、CA18DETとも約3.2L、エレメントを含めると約3.6Lだ。

CAエンジンはZ型エンジンの後継として開発された。
初搭載は日産FF車第2弾のオースターJX/スタンザFX/バイオレットリベルタ(1981年)で、シングルキャブレターのCA16S/CA18S、EGIのCA18Eでスタート。
Z型からツインプラグを継承、横置きを主体に設計されているが、もちろん縦置きも念頭に入れられ、FR車ではS12とこのS13シルビア、そしてその頃のスカイライン、ローレル普及版での実績がある。
当時の日産の1600~2000ccをカバーする主力エンジンだった。
●いまじゃ見ないぞ、スロットルワイヤー
電子制御スロットルに置き換わった現代では、ある年代から上のひとには懐かしいスロットルワイヤー。
アクセルペダルを踏まなくとも、ボンネットを開けてこのワイヤーを直接手で動かせばエンジンをおっ吹かすことができた。
私なんぞ、バッテリー上がりを起こしたクルマを救援するときに使ったものだが、いまはそんな技も使えない。
ところで、針金を数本よじったワイヤーを使う、この従来方式こそが真の「スロットル・バイ・ワイヤー」だと思うのだが、ワイヤーそのものをなくし、アクセルペダルの踏み加減を電気信号に変えてバルブ開閉を行なういまの方式になって「スロットル・バイ・ワイヤー」と呼ぶのがややこしい。
どうも、私たちが認識する「ワイヤー」が金属線であるのに対し、通信線のことを「ワイヤー」と呼ぶアメリカの慣例から来ているらしい。

●いまでも見るぞ、冷却液リザーバータンク、ウォッシャー液タンク
エンジンルーム正面に立って左側(=車両右側)のストラットタワー部こちら側に見える大きいタンクがエンジン冷却液のリザーバータンク。
S13のCAエンジンが要求する冷却液の量は約7Lだ。
いっぽう、その手前に見える管はウォッシャー液タンクの補給口。
いまの多くのクルマ同様、タンク本体は見えず、外したキャップから伸びるストラップがどこまで濡れているかで残量を知るという不便なタイプだ。

★電動ドア ミラー
1983年に認可されたドアミラーは、1988年のS13ではさすがに全機種標準装備。
鏡面調整の電動式がQ’sとK’sに標準、J’sは手動式で、いずれも倒し込みは手で行ない、ツートン塗装車はドアミラーがボディ共色となる。


J’sの手動式は、窓を開けて調整するのかというとそうではなく、本体が固定されるドアガラス先端の三角ベース室内側に生えたノブで行なう。
雨の日でも手を濡らさなくてすむのはいいが、左サイドは上半身を助手席側に傾けなければならないことに変わりはない。
電動格納式は、ふたつあるパッケージオプションのうちの片方「Sパッケージ」と呼ばれるオプションに含まれ、さきのプロジェクターヘッドランプ、ハイマウントストップランプ付リヤスポイラー、アーム式シートベルトガイド、アクセントモールとのセットで装着される。
もうひとつのパッケージオプション「Gパッケージ」については別記事で・・・
【またまたエンブレム大特集】
●フロントの「SILVIA」
この頃の日産車は(トヨタも)、車名ごとのマークをフロントに掲げていたものだが、S13では「SILVIA」文字を透明パネルに刻む。
ライトのレンズはガラス製だが、センター部分はポリカーボネート製で、当時資料では「クリスタルグリル」と説明した。
いまならLEDを仕込んで全体をぼんやり光らすなり、「SILVIA」文字を浮かび上がらせるなりするところだろう。

●ボディサイドで機種とエンジン型式を標榜
後輪アーチの前方で、楕円の「Q’s」バッジで機種名を、その下の小さな「TWIN CAM 16VALVE」文字でエンジンタイプを控えめに主張。
トランプのキング(king)、クイーン(queen)、ジャック(jack)にあやかった機種名は、高いほうから「K’s」「Q’s」「J’s」。
なお、S13最初の半年の販売比率はおおざっぱに、K’sが70%弱、Q’sが30%強、J’sが1%。
このたび発効の、アメリカのトランプがかけた自動車関税は、従来より12.5%上乗せした15%だ。

●後ろの「SILVIA」と「S」マーク
上側の★キー シリンダー オーナメントはトランクを開ける鍵穴のふた。
こいつを左に回すとキー孔が現れる。
刻まれた雷みたいなのは、「SILVIA」の「S」を模(かたど)っている。

ところで私は、車両ごとのマークデザインは、トヨタより日産の方がうまいと思っている。
C210からR31スカイラインの「S」、R32の「S」もいいし、ゼムクリップを組み合わせたようなB11までのサニーの「S」、矢が刺さったパルサーの「P」・・・最後のU14ブルーバードの、青地にシンプルなラインで飛ぶ鳥を刻んだ「幸せの青い鳥」マークなんて傑作だ。
どれもこれも標本ケースに入れて部屋に飾りたいくらいで、いまの「NISSAN」よりずっといい。
初代プリメーラで社章をエンブレムにした「NISSAN」をクルマによって使い分け、ゴーンが来たとき、部分的に残されていたペットマークも廃止して新NISSANマークに変え、いまはその次の「NISSAN」になっている。
個別ブランドだってもっと大事にしてもいいのではないか。
いまのクルマに親しみや愛着がちっともわかないのは、1世代か2世代で終わるネーミングのクルマが多いのと、ペットマークがないせいだ。
こう考えると、「クラウン」が王冠の、「カローラ」が花冠のマークを途絶えさせることなく、それぞれ70年、60年、車名を守り続けているトヨタはえらいと思う。
★後ろ左下の「NISSAN」
1983年から使われている「NISSAN」の文字を左リヤランプ下にレイアウト。
「SILVIA」もそうだが、見た目にはシール(デカール)に近く、一般的な銀めっきのエンブレムという姿からはほど遠い。

× × × × × × ×
シルビア外装編はここでおしまい。
次回はS13のインテリアに迫る。
【撮影車スペック】
日産シルビア Q’s
(E-S13HA型・1988(昭和63)年型・4速AT・ライムグリーンツートン(特別塗装色))
●全長×全幅×全高:4470×1690×1290mm ●ホイールベース:2475mm ●トレッド前/後:1465/1460mm ●最低地上高: 135mm ●車両重量: 1110kg ●乗車定員:4名 ●最高速度: – km/h ●最小回転半径:4.7m ●タイヤサイズ:185/70R14 ●エンジン:CA18DE型・水冷直列4気筒DOHC・縦置き ●総排気量:1809cc ●ボア×ストローク:83.0×83.6mm ●圧縮比:9.5 ●最高出力:135ps/6400rpm ●最大トルク:16.2kgm/5200rpm ●燃料供給装置:ニッサンEGI(ECCS・電子制御燃料噴射) ●燃料タンク容量:60L(無鉛レギュラー) ●サスペンション 前/後:ストラット式/マルチリンク式 ●ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ディスク ●車両本体価格:186万9000円(当時)

