ベトナムの首都ハノイの主力公共交通機関はバス

ベトナムの首都ハノイでの公共交通機関の主力を担うのが、路線バスだ。市内の移動手段となる鉄道「ハノイメトロ」の建設が進められているが、2021年11月に最初の路線となる2A号線が開通して以降は、2024年8月に3号線の一部区間が開通したのみ。将来的には、8路線まで拡大されるというが、その完成までには、まだまだ多くの時間が必要だ。

ハノイ市街からやや離れたイエンギア・バスターミナル。ハノイメトロ2A号線の終点でもあるため、ここから郊外へと向かうバスが集結する。

それ以外にも、専用レーンによるバス高速輸送システム「ハノイBRT」もあり、こちらは日本のODAで建設されたもの。ただ1路線のみと、こちらのエリアも限定的。どちらも移動エリアが限定されるため、最も身近な市内の移動手段として愛されているのが、路線バスなのだ。

ハノイBRT。普通のバスだが、優先的に走れる専用レーンを持つため、渋滞の影響を受けないのが強み。
BRTの改札口。チケットを購入して、改札口から停留所に入る。
BRTの停留所。路線内に同様の施設を構える。

愛される理由のひとつが、値段の安さ。2024年11月に、10年振りという価格改定が行われたが、最も安い路線は8000ドン=約45円という手頃さ。料金は路線による定額制となっているので、15km未満の短距離の路線であれば、この料金で済んでしまう。

その一方で、15㎞以上の区間のバスの値上げ率は少し大きめとなっている。今回利用した路線のひとつは、1万2000ドン(約68円)だが、以前は8000ドン(約45円)だった。それでも十分に安いといえるのだが……。

その安さの秘密は、路線バスに補助金が出ているため。ハノイ市も、市民の足として路線バスを支えているのである。

路線バスにもEV化の流れ……その背後にはビンファストあり

ビンファストのEVバス。まわりにはビンファストの電動バイクタクシーの姿も。

路線バス自体はエンジン車が基本だが、2021年12月から現地自動車メーカー「ビンファスト」製のEVバスを運行されるようになった。「ビンバス」という名称で、ビンファストが運航する路線バスだ。

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フォーやバインミーなどの料理や民族衣装のアオザイなどで知られるベトナムにも、自動車メーカーがあることをご存じだろうか。それが「ビンファスト」だ。 REPORT:大音安弘(OHTO Yasuhiro) PHOTO:大音安弘(OHTO Yasuhiro)/ビンファスト(VINFAST)

https://motor-fan.jp/mf/article/343203
ビンファストについてはこちらもご覧ください。

その特徴は、黄緑と黒のボディカラー。このバスを街中で見かけることが多く、着実にEVバスの普及が進んでいることを感じさせる。それだけビンファストは、EV化に本気ともいえる。

ビンファストのEVバス。鮮やかな黄緑色と黒のツートンボディがトレードマーク。
ビンファストのEVバス。目立つ存在だが、走行音は静か。
ビンファストのEVバス。広告のラッピングバスもあり。
歩道橋から見下ろしたビンファストのEVバス。

実際にハノイの路線バスに乗ってみた

路線バスの利用方法だが、こちらも世界共通と言えるバス亭での乗降となる。看板だけの停留所もあるが、屋根と椅子のある場所も多く、乗り場を見つけることは難しくない。ただ、日本でもよくあることだが、ひとつのバス停を複数の路線で共有しているため、乗り間違いには注意が必要。早速、私も路線バスで出かけてみることにした。

バスの停留所。手前のオレンジがエアポートバスで、奥のグリーンが路線バス。
エアポートバスの時刻表。
路線バスの時刻表。なぜかカバーガラスが割れていた。
ハノイ市内とノイバイ空港を結ぶエアポートバスはオレンジ色だ。

私が乗車したハノイ駅そばにある停留所は、大通りに面していることもあり、10分前後の間隔で様々なバスがやってくる。若者からお年寄りから幅広い世代に愛用されているのは、どこでもお馴染みの光景だ。

エアポートバス(左)とビンファストのEVバス「ビンバス」。

驚いたのは、ベンチで隣り合わせたおばあさんに、いきなり話しかけられたこと。ベトナム語なので全く理解できなかったが、ハノイでは居合わせた人と会話するのは結構当たり前らしい。首都ながら、のどかな雰囲気もあるのだ。

バスには路線番号と路線の始発と終点が明記されているが、文字を読むのは大変。事前に目的地に出向く路線番号を調べておくのがベターだ。停留所では、基本的には人がいれば、バスは止まってくれるが、ベンチに腰かけたまま乗らない素振りを見せると、そのままスルーしてしまうようだ。

停留所に止まるビンファストのEVバス。右側通行なので、日本とは逆で右側が乗降口になる。

バスの運行は、日本のようなワンマンではなくツーマン体制で、車掌さんに料金を支払う仕組み。なので、少額の紙幣を用意しておくことが必要になる。支払いを済ませると、乗車券となるレシートが渡される。因みに硬貨は流通していないので、全て紙幣だ。

車掌さんは男女ともにいる。今回の乗車でお世話になった女性の車掌さんには、手振りで近くの席に座るように指示され、ちょっと高圧的な雰囲気が……。単に不愛想なだけなのだろうけれど。一方、男性の車掌さんは自由に座らせてくれ、少しにこやかだった。もちろん、対応の差は車掌さんのキャラクターによるものだろう。ただ、日本では経験することがない車掌さんの存在は新鮮に感じた。

バスの運転は、ちょっとせっかち。停留所の停止直前の走行中にドアを開けたり、乗車中でもバスがゆっくりと動きだしたりしてしまうことも……。この辺はドライバーの性格も反映されるようだが、ローカルルール的でもある。

エンジン車のバス。まだまだ主力はエンジン車だが、環境負荷低減のために、CNG車の導入も進められている。
エンジン車のバスの車内。日本の路線バスは、オートマチック車が基本となったが、こちらはMT車。なので、よりドライバーによる乗り心地の差がある。

バスの内部は、日本の路線バスと大きくは変わらず、前側と中央に乗降口がある。乗車時に車掌さんが料金を徴するため、乗降は、前後どちらからでもOKだ。車内はクーラーが効いていて快適。降車時には降車ボタンで知らせるのは日本と同じ。

今回、エンジン車とEVの両方のバスに乗ることができた。エンジン車はMT車なので、荒っぽい運転手だと良く揺れる。一方、EVバスは静かなだけでなく、乗り心地も良好。加速も良いため、ドライバーも運転し易いようで、エンジン車よりも運転が丁寧なようにも感じられた。

床面が低くフラットなので車室も広い。ガラスエリアが大きいので、景色も良かった。運転席付近に立っている男性が、このバスの車掌さんだ。
バスの乗降は前後共にOK。運賃は車掌さんが徴収するからだ。
車内から見た中央乗降口。
非常口の案内だが……。
非常口の案内のすぐ横に脱出用ハンマーが設置されている。

いずれも乗車したバスの車内はきれいで、窓も大きいので安心して乗ることができた。タクシーやライドシェアの運賃も安いが、やはりバスの手軽さには勝てない。ハノイを尋ねた際は、利用してみることをお勧めする。

路線バスには小型のもの。写真は、近年導入が始まったロシアのGAZ製バスだ。

はとバス的な観光バスもあり

市内を走るバスには、空港行きのエアポートバスに加え、都心でも見かける観光用の2階建てバスなども見かけることができた。2階建てバスは「ハノイシティツアー」という市内の観光バスで、1日乗車券となっていて、13か所の停留所で乗り降り自由。しかもシートには、12か国語対応の音声ガイド付きで、日本語にも対応。

ハノイ市内を巡る2階建て観光バス「ハノイシティツアー」。赤いボディなので良く目立つ。

私も観光でハノイを尋ねた際は、利用してみたいと思う。1階はエアコン付きで2階はオープン。2階席では、暑さ対策でノンラーという伝統的な円錐形の帽子を貸してくれるそうだ。

寝台車のような長距離バス

ハノイ市から郊外に向けた長距離バスもあり、駅前のバスステーションにはマイクロバスから大型バスまで様々なバスが並ぶ。

バスステーションの待合所。エアコンが効いておらず、ちょっと蒸し暑かった。スナック売り場もあり、軽食も取れる。
ステーションに並ぶ各種バス。ヒョンデ製のマイクロバスは、ベトナムでのシェアが高いそうだ。

その中には、最近、日本でも話題となった寝台付きバスも発見。内部を覗いてみると、左・中・右の3列のレイアウトに、上下2階建てのカーテン付きの個室が並んでおり、ちょっと寝台車を彷彿させる。

ハノイ発サパ行きの寝台バス。サパは中国との国境近くで、国立公園を中心としたネイチャー系アクティビティの人気エリア。FUTA Hasonがハノイから北へ向かう路線をメインとしたバス会社で、KIM LONGはベトナムの国産バスメーカーだ。
寝台バスの車内。座席/ベッドは2段×3列のレイアウトで、だいたい40席くらい。ハノイからサパまでは約320kmの行程で、価格は31万ドン=約1755円。

ただし、常に足は伸ばした状態となるようだ。長距離の寝台バスはベトナムではメジャーな存在なようで、寝台にも様々なタイプがある様子。ハノイはバス旅も面白そうだ。