国沢光宏氏の「デンキチ」号は実質”無給電”で稼働

今回の試乗会では、国沢氏が自前で購入し、八丈島に持ち込んだN-VAN e:「デンキチ」号を試乗する機会も得た。デンキチ号はベーシックグレードの「L4」をベースに、ルーフに発電用のソーラーパネルを増設したものだ。

国沢氏の「デンキチ号」。N-VAN e:の急速充電機能を備えないL4グレード。

ソーラーパネルで発電した電気はラゲッジスペースに載せている大型のポータブルバッテリーに蓄電され、そのポータブルパッテリーでクルマのバッテリーを充電するというサイクルになっている。

ラゲッジルームに搭載したポータブルバッテリー。ルーフのソーラーパネルからポータブルバッテリーに充電用のケーブルがつながっている。
ポータブルバッテリーはEENOURのP5000。リン酸鉄リチウムバッテリーで、定格出力2200W、最大容量5120Whのモデル。実勢価格的には20万円超。

ただし、ソーラーパネルもポータブルバッテリーも車載しているために勘違いしそうになるが、あくまで太陽光発電の電力をバッテリーに溜めて、その電力をN-VAN e:に充電しているだけなので、走りながら発電してその電力で走行しているものではないのだ。

ラゲッジルームのポータブルバッテリーに充電ケーブルを接続。
クルマ側の普通充電ソケットに接続して、ポータブルバッテリーの電力をクルマに充電。

八丈島に持ち込んでからまだあまり経ってはいないものの、移動距離がある程度限定される島内移動という環境下においては、走行電力はすべて車載ソーラーパネルの太陽光発電で賄われており、一度も充電していないそうだ。

デンキチ号のシステムを説明する国沢氏。今回は試乗会ということもあり、普段使いよりも多く走ることになるため、一応、通常の充電も行なった。

軽自動車の年平均走行距離はソーラーパネルの太陽光発電で賄える

軽自動車の平均走行距離は400km弱/月で、全体の42%が200km未満という調査がある(日本自動車工業会2023年調査)。
国沢氏のデンキチ号に使用しているソーラーパネルの発電量であれば、この軽自動車の平均走行距離であれば十分に賄えるそうだ。

デンキチ号のソーラーパネル。

とはいえ、背が高く幅が狭い軽自動車のルーフにソーラーパネルを増設すれば、重心が上がってしまうのは当然。普通に走っている分にはそれほど意識することはないが、風の強い日などは影響の大きさが気になるところだ。

装着は汎用のステーを使用。このステーもスチール製のため、それなりの重さがある。さらに、海風にさらされる八丈島ではサビの発生も避けられない。

戸建てマイホーム×太陽光発電×軽EVは賢い選択?

実際、軽自動車の利用実態として最も多い通勤や通学、買い物など(日本自動車工業会2023年調査)の日常ユースであれば一度の走行距離はそれほど多くはない。そうしたルーティン的な使用法であれば、家庭での普通充電でも利用にさほど不自由はないだろう。

N-VAN e:は29.6kWhのバッテリーを搭載し、航続距離はWLTCモードで245km。一般的な軽自動車の走行距離は十分に賄えるだけの性能を備える。充電時間は6kW普通充電で6時間、50kW急速充電で30分。ルーティンでの使用なら未使用時に普通充電でも十分だろう。

まして、公共交通機関に頼りづらく、クルマの複数台所有が前提になる地域なら、近距離用のクルマはEVにしておけば、ソーラーパネルと充電設備の設置の初期投資はあるとしても、燃料代が実質ゼロで利用できる点は、この燃料代高騰の時代にあって非常に助かるのではないだろうか。

自車ソーラーパネル発電による電気力を自家充電中のデンキチ(左)とノーマルのN-VAN e:(中央)、電動原付一種スクーターのEM1 e:。

確かに、EVはまだまだ車両本体価格もエンジン車に比べれば安くはないが、幸い現状では補助金がもありエンジン車との価格差は縮まる。太陽光発電施設導入まで踏まえれば、国と自治体合わせて最大で100万円レベル(乗用登録)の補助を受けられる。

N-VAN e:の補助金の一例(ホンダN-VAN e:オフィシャルページより引用)

N-VANのエンジン車(※)が154万1100円(L/FF+CVT)〜195万9100円(FUNターボ/FF+CVT)で、N-VAN e:は269万9400円(L4)〜291万9400円(FUN)なので、100万円の補助金があればほぼ同程度になる計算だ。
※N-VAN e:はFFのみなのでFF+CVTモデルで比較

充電設備の設置となると、賃貸やマンションでは望み得ない。事業所を備える事業者か、個人レベルであれば一戸建てのマイホームに限られるだろう。逆に、一戸建てのマイホームであれば、屋根などにソーラーパネルを設置して、その電力を近距離利用用の軽EVに充てればガソリン車を所有するよりも、初期投資分を差し引いても将来的にはプラスになるかもしれない。

キャリアやラックを載せるのでなければクルマのルーフはデッドスペース。そこにソーラーパネルを設置しておくのはある意味合理的。常設でなくとも最近は折りたたみ式やシート状のパネルもあり、必要に応じて展開する方法もある。他社ではあるが、日産の「POLE to POLEプロジェクト」でも採られた方法だ。

EVは、現時点では使用環境が限られるのは否めないが、その環境が上手く当てはめることができるならコストメリットはもちろん、将来的な温暖化対策に貢献することもできるのではないだろうか。

八丈島で軽EVに乗る

試乗では国沢氏のデンキチ号とノーマルのN-VAN e:(「FUN」グレード)をドライブ。メディア対抗の電費トライアルでは、徹底した電費走行により1位を獲得した。信号もほとんどなく、一定のペースでゆったりと走るのは八丈島の風景を楽しむこともできて一石二鳥。アクセル開度や傾斜とペースで如実にバッテリー残量の減り方が変わるのがわかるだけに、電費走行はなかなかに知的なゲームと言えるだろう。

とはいえ、火山島である八丈島は、平地は少なく坂が多い。特に山付近ともなると傾斜もキツく、アクセルも開け気味にならざるを得ない。となると、バッテリーの消費も大きくなってくる。
現状では、八丈島には一般的な急速充電器が無いので、バッテリー容量的にはやや不安を感じることもあったのは気になる点ではある。

N-VAN e:の充電口。写真左が普通充電、右が急速充電。
デンキチ号は普通充電のみなので、写真右の急速充電口は無い。
ダッシュボード右下端に急速充電口の開閉スイッチ。
急速充電口。ソケットのカバーは扉の内側に固定できる。
急速充電中のN-VAN e:。カタログ値では30分で満充電になるはずだが、充電施設との相性が悪かったのか、あまり効率良く充電できなかった。そういう意味でEVはインフラ的に一般ユーザーが利用しにくい面を残している。

登りがあれば下りもあるわけで、下り坂での回生充電に期待するところもあったのが、思ったよりもバッテリー残量は回復しなかった。もう少し、回生による充電が行われるとバッテリー残量の不安も多少は解消されるのでは無いかと感じた。

都道215号線「八丈一周道路」の、その名も”大坂”を下るN-VAN e:。この坂の登りは電費に厳しい。

八丈島は島という限られた空間を移動することになるので、走行距離はあまり伸びない。とはいえ、島内の移動はクルマに限られるため、完全なクルマ社会だ。にも関わらず、当然、燃料は全て運んでこなければならないため、ガソリン代が高い(離島補助はあるにはあるが)。
となると、ソーラーパネル+軽EVは離島でのコミューターとしては可能性のある組み合わせなのでは無いかと感じられた。

大坂を登るデンキチ号。電費を気にしなければ、ペースを維持するのは難しくないパワーはある。

壮大で豊かな自然をのんびり満喫できる八丈島

八丈島空港の到着ロビー。羽田空港からの直行便は1時間ほどのフライト。

八丈島の魅力は東京から飛行機で1時間ほどで、南国の孤島に渡れることにある。火山島だけに白砂浜こそないが、海水浴やダイビング、釣り、季節によってはホイールウォッチングなどのマリンアクティビティが楽しめる。

四方海に囲まれた八丈島ではマリンレジャーが盛ん。写真は、八丈富士山麓のふれあい牧場。

北側の八丈富士に南側の東山(三原山)などはトレッキングコースとして自然を満喫できる。そこまで本格的でなくても気軽に散策できるコースもある。何より、光害とは一切無縁の満点の星空は圧巻だ。
火山がもたらす恩恵として、温泉も島の南側に点在しており、広大な太平洋を眺めながらの絶景風呂や野手溢れる混浴温泉が味わえるのも魅力だ。

滝の裏側に回り込める裏見ヶ滝は滝そのものよりも、南国のジャングルを思わせる散策路がワイルド。近くには混浴の裏見ヶ滝温泉もあり。

また、八丈島といえば源為朝や宇喜田秀家が流された土地であり、派手さこそないが縁の史跡も散在しており、歴史浪漫に思いを馳せるのも一興。

裏見ヶ滝への散策路の途中には源為朝を祀った為朝神社石宮への石段がある。石段は丸石で作られており、その急傾斜と相まって上り下りが難しい。

そして、くさやや島寿司、椎茸に明日葉にご当地焼酎や八丈島産牛乳のソフトクリームなど、ここでしか味わえない地物グルメも見逃せない。

独特の匂いと濃厚な風味のくさやは伊豆諸島名物。
肉厚で味わい深い八丈島産椎茸。
天ぷらなどに最適な明日葉も八丈島の推しグルメ。

ホンダの電動スクーター「EM1 e:」にも乗ってみた

N-VAN e:とEM1 e:。

今回の試乗会では国沢氏のデンキチ号、N-VAN e:「FUN」に加え、電動原付一種スクーター「EM1 e:」にも乗ることになった。八丈島の南側半周+αのツーリングコースをライドしたインプレッションはこちら。

ホンダの電動スクーター EM1 e:と八丈島。乗ってみた。 | Motor-Fan[モーターファン] 自動車関連記事を中心に配信するメディアプラットフォーム

ホンダ・EM1 e:……156,200円 ホンダ・モバイルパワーパックe:……108,900円 ホンダ・パワーパックチャージャーe:……55,000円  ※いずれも消費税込み 郵政用バイクに電動スクーターのホン […]

https://motor-fan.jp/article/1252473/
EM1 e:で八丈島を走ってみたインプレッション。

フォトギャラリー:N-VAN e:×八丈島