中山間地をはじめとする交通空白地帯のソリューションのひとつとしてミニカーの有用性を検証

静岡県浜松市の水窪地区では、現在「ミニカー」に分類される超小型モビリティを用いて、地域活性化と高齢者のQOL(Quality of Life)向上を目指した実証実験が行われている。

気軽に利用できる“自立的な移動手段”として地域に低速のミニカーを導入することで、住民の人々の外出促進効果や交通円滑性などについての検証が行われているのだ。

「きっかけは、アメリカのシニアタウンで目にした高齢者の皆さんのいきいきとした笑顔でした。パートナーや友人と一緒にPTV(※)で外出を楽しむ姿に、(日本の)中山間地が抱える課題の解決に向けて、一つの糸口になり得るのではないかと考えました」

そう話すのは、ハマハ発動機 技術・研究本部の稲波純一さんだ。

※PTV パーソナル・トランスポーテーション・ビークルの略称。アメリカの一部地域において、コミュニティ内移動の手軽な乗りものとして普及する。乗車人員は2~4人程度。

ヤマハ発動機と岐阜大学、浜松市の連携によって今年6月から始まったこの実証実験では、モニターを希望する地域住民計12名にミニカー(国内未発売)を1カ月間貸与。
日常生活のなかで地域内移動に活用してもらい、通信システムやドライブレコーダーによる交通行動観察や使用者へのヒアリング等を行っている。

稲波さんは、
「日本、とりわけ中山間地をはじめとする交通空白地帯のソリューションのひとつとして、ミニカーの有用性を検証したい」
と話す。

「ちょっとした遠出を考えるとまだ軽自動車は手放せないが、わざわざクルマを出すには面倒と感じていた近距離移動も気軽に出かけられた部分があった」
と話すのは、1カ月間のモニター期間を終えた70歳の男性。

一方、家族3人でシェアしたという自営業の女性は、
「お店に来るお客さんにも人気者。かなり本気で『買いたい!』というお客さんもいた。風を感じて走る感覚や、ゆっくり走って町の人と話したりできるのが新鮮だった」
と振り返る。

モニターの人たちとの対話会やアンケートによる調査でとくに多かったのは、乗車人員に関する要望だった。
「ひとりだと限られる用途も、ふたり以上だと拡がると思う。実際、祖母を病院に送って行くときに使いたいと感じた」
という声や、
「定期的に夫婦で体育館に出かけて身体を動かしている。その移動にも使えたら……」
といった意見が聞かれた。

実証実験の実施は今年9月まで。
その後、岐阜大学の研究チームによる走行データの解析等が進められ、中山間地におけるミニカーの有用性の検証や、社会実装における課題の抽出が行われる予定だ。

「今日から家にいなくなるのが不便だし、寂しくも感じる。もう少し乗っていたかった」――。

モニター期間を終え、次のモニターに車両を引き渡した住民との対話会では、このような言葉も挙がった。

観光地や交通空白地帯のソリューションとして、ヤマハ発動機がランドカーベースのグリーンスローモビリティ(グリスロ)を提案したのは2014年のこと。
10年以上が経過したいま、全国で社会実装の事例も拡がっている。
その多くは「乗り合い型」の低速モビリティだが、水窪地区で行われている実証実験のポイントは「自立型の移動手段」であること。

いつでも自由に活用できる低速モビリティが日常にあることが、人々の暮らしにどのように変化をもたらすのか?
同社ではその検証結果を楽しみに待っている。