われながらダサいタイトルである。
古本屋で見つけた昭和時代の自動車雑誌じゃあるまいし、いまどきタイトルに「ムーディ」なんていう言葉を入れるメディアはない。
だが、このS13のインテリアを見ると、どうも「ムーディ」という言葉で形容したくなるのである。

時代の名車探訪・S13シルビア回の第3回目。
外観に負けず劣らずで魅力のあるS13シルビアインテリアを見ていこう。

【運転席まわり】

●計器盤

外観も去ることながら、「エスイチサンといえばこれ!」とうなずかせる造形の計器盤。

S13シルビアの、ラウンディッシュな計器盤。


外観もB210サニーの発展型みたいな形だったS10とはもちろんのこと、S110やS12とも異なり、外観とともに新しいシルビア像を打ち出している。

3代目サニー(B210・1973年)の計器盤。めったにお目にかかれない、最廉価1200 deluxeを載せておこう。
S10シルビア計器盤(1975年)。
S110シルビア計器盤(1978年)。
S12シルビア・・・じゃなく、この写真の場合はガゼールの計器盤(1983年)。この頃はモデルチェンジするたび、デザインも品質感も手に取るようにどんどん良くなっている。

まずは両脇からドアトリムに流れるラウンド感がお見事。
ラウンドのテーマは前例がないわけではないが、S13ほど徹底したクルマはない。
メーターフード以外全体が低く抑えられていて、解放的なのもいい。
ために空調操作やラジオの位置が低いが、筆者は高さ方向でハンドル輪っかの範囲内に収まっていれば特に支障はなかろうと思っている。

全体にシンプルでありながら、各種必要なスイッチ類をもれなくまとめているのもうまい。
もしこの造形モチーフをいまのクルマで復活させるとなると、現代では必須に近いナビモニターの上方配置が避けられず、それだけでこの雰囲気をスポイルすることになるだろう。

特筆すべきはその仕上がりだ。
空調吹出口やセンターのブラックエリアを除く全体の右から左まで、そしてシフトレバー付近のパッド部は継ぎ目のない一体成型。
果たしてこんなデカいものが一体で造れるのか、製造可否も含めてその成立性に苦労したようだ。

●メーター

左から燃料、速度、回転、水温メーターを一枚の盤面に並べるのは、80年代以降のオーソドックスな手法だ。

燃料計は、70年代の終わりから始まった置針式(おきばりしき)と呼ばれるもので、キースイッチ位置と無関係に、現在の燃料残量を表示する。
以前はキーONとともに目覚め、針がスーッと動いて残量を表示した。
キーがなくたって燃料の量を知ることができて便利・・・ということは、誰もいないガレージで、不審者が窓から覗いてもわかるわけで。
これが燃料盗難防止が理由なのかどうかわからないが、置針式は21世紀初頭あたりになくなった。
いまは指針式のほか、液晶ドット表示が増えていることもあって、またキーON時の作動に戻っている。

速度計下に、いまのような液晶表示ではない、ドラム式の積算距離/区間距離計を、回転計下には液晶のデジタル時計を置いている。
撮影車はATだが、その割にシフトポジション表示はなく、ATがらみの表示では、左下に「O/D OFF」のランプがあるくらい。

Q’sのメーターの消灯状態。
点灯状態。
それぞれについて添え書きもしておこう。

ランプといえば、左右下に並ぶつぶつぶランプを見て、当時中学生だった筆者は「お。発光ダイオード! 進んでいるなあ。」と思ったものだが、この写真撮影時に見たところ、その点消灯の仕方からして、どうやら通常の電球のようだった。
表面を半球状のレンズにしていただけらしい。

ところで本記事を読んでいるあなた、「これ書いている奴、S13のメーターの話なら、肝心なやつ忘れてねえか?」と思っていることだろう。
わかってます、わかってます。
その話は別の項で。

●専用デザインのハンドル

エアバッグがほとんどない時代のクルマは、ハンドルもおおよそ車種ごとに専用設計されていた。
このS13のハンドルも専用品で、それもS13前期だけのものだ。
形状としては3本スポークステアリングだが、左右スポークが下がっていて上を向いた矢印「↑」のような形をしている。
あるいはやじろべえか。
中心のホーンスイッチ部が奥まっているのも特徴的だ。

3本スポークハンドル。革巻きハンドルのクルマがないのも意外だ。革巻きは後期型で起用される。

意外だったのはハンドル輪っか・・・グリップの太さだ。
いや、細さというべきか。
この頃のハンドルは、その前の時代のものより太くなっていると思っていたが、いざ握ってみたらまあほっそいことほっそいこと。
ハンドルだけじゃない、次に述べるライトやワイパーのスイッチレバーも、いまのクルマに比べたら、それはそれは華奢なもんでした。
S13以降も知らぬ間に各操作部は太く、ふくよかになっていたようで。
人間、長い時をかけて変化する事象には気づかないものなのだ。

★フロント ワイパー・ウォッシャー スイッチ

OFFを起点に、レバーを下に下げるにおよび、INT(間欠)、LO(低速作動)、HI(高速)の3つ。
操作している間だけワイパーが往復するミスト機構はない。
ウォッシャー液はレバーを手前引きすると噴射され、同時にワイパーも数回連動する。
間欠の時間調整機能はないのが意外で、これは後期型でJ’sを除く全機種につくようになる。

フロント ワイパー・ウォッシャー スイッチ。

いまのクルマはおそらく全メーカーとも、ワイパーはエンジンがONのときしか作動しないはずだが、他社は知らず、少なくともこの頃の日産やスバルのクルマはキースイッチがACC(アクセサリー)位置ででも作動した。

なお、S13は、ワイパーはフロントにのみつけられ、リヤ用ワイパーはオプションですら用意されず、次作S14まで待たされることになる。

★ウォッシャー連動間欠ワイパー(セミコンシールド)

外観の項で述べるべきだったかも知れないが、今回はここで。

「conceal」は「隠す」「見えないようにする」の意味。
カタログの「セミコンシールド」は、「半分隠された」ぐらいの意味だ。
対して完全に隠れたものは「フルコンシールド」と呼ぶ。

ウォッシャー連動間欠ワイパー(セミコンシールド)。

このS13もいまのクルマも、「セミコンシールド」は停止時のブレードがせいぜいフロントガラスのセラミック塗装部にあるだけで「セミ」というほどにも隠れているとはいえず、外から見ればまる出しなのが実情だ。
フード下にワイパーを潜り込ませるフルコンシールドタイプも、口でいうほど簡単ではなく、ワイパー停止位置付近の車体設計は存外に難しいのである。
なるほど、フルコンシールドは高級車に限られていたわけだ。

★ライト コンビネーション スイッチ

先端のスイッチをまわしてスモール(車幅灯)、ロービームが順次点灯。
レバー向こう押しでハイビーム、手前引きしている間上向きになり、引き離しでパッシングとなる。
レバー上下で左右ターンシグナル。
その途中保持がレーンチェンジャーだ。

ライト コンビネーション スイッチ。

なお、パッシングは本来、先行車を追い越したいとき、よけてもらいたいときの意思表示として使うためのものだ。
つまり
「すんません、先を行きたいんで」
「ちょっと、ごめんなすって」
の感覚だ。
だから過去のクルマの取扱説明書には「先行車を追い越すときの合図に使う」と記されていた。

ところがいまは同じ動作なのに
「どけ、コラ。」
のあおり運転として認識される世の中になってしまった。
だからだろう、いまの取扱説明書は「追い越すとき云々・・・」の記載がなくなっているばかりか、「引いている間は上向きに・・・」の表記すら控えめになっている。
取扱説明書が世論に負けた格好で、何ともおもしろくない。

あおり運転に端を発した暴力沙汰がしょっちゅう記事になっているが、ならばハンドルコラムのライトスイッチ付近に必ずある「PASS」刻印は何のためなのかを解説するメディアもないので、ここで説明した次第。

追い越しのための「パッシング」そのものはもともと認められているものなのよ。

★4ウエイ フラッシャー ランプ(非常点滅灯)スイッチ

何のことかというと、要するにハザードスイッチだ。
その下はダミーの空白スペース。
何かのオプションのスイッチがつくのだろう。
昨今、ハザードスイッチは助手席からでも手が届くようにと計器盤センターに設けられるのが通例だが、ハンドルから手を離さなくとも操作できる(と思う)S13のこの位置のほうが使いやすそうだ。
現実には運転者の方が操作頻度が高いのだから。

4ウエイ フラッシャー ランプ(非常点滅灯)スイッチ。

とはいえ、道を譲ってもらったときに「ありがとう」の意思表示で使うのはまちがいだ。
いったい誰が最初に始めやがったのか。

「故障などでやむを得ず路上駐車するときや非常時に使用してください」
と書かれた取扱説明書はあっても、
「道を譲ってもらったときなど、ありがたいときに使いましょう」
なんて記された取扱説明書はどこのメーカーにもない。
こんなときは、相手にちょい会釈するとか、
「ども!」
てな感じで手を上げるだけで想いは充分伝わる。

「hazard(ハザード)」とは「危険なもの、危険要素、有害性」の意味で、このスイッチは自分が路上でやむなく「危険要素」になってしまうときに使うのである。
こともあろうに「サンキューハザード」なんてヘンな言葉が横行するなんて・・・

これもさきのパッシングと同じく、本来の使い方から誤った使い方が慣例になってしまったいい例だ。

★リヤ デフォッガー スイッチ

ハンドル右にはスイッチがひとつ。
後ろの窓ガラスのくもりを除去する熱線のスイッチがあるだけだ。
その下のダミースペースはフォグランプスイッチの地所らしい。

リヤ デフォッガー スイッチ。

★キー スイッチ

刻印文字数では4ポジション、数字基準では5つポジションとなるのがよくわからないが、とにかくいまのクルマと違ってキーの抜き差しでエンジン始動を行なう。

キー スイッチ。

「0」の「LOCK」は唯一キーの抜き差しができるポジションで、キー抜きでハンドルを揺らすとハンドルががっちりロックされる(盗難防止)。
「1」に文字刻みはないが「OFF」で、電装系統が完全に断ち切られる。
「2」は「ACC(アクセサリー)」で、エンジン停止状態でラジオや電動ミラーなどの操作が可能。
「3」の「ON」はエンジンが回転中の位置。
「4」の「START」がエンジン始動でスターターモーターに電気を入れる位置。
手を離せば「ON」位置に戻る。

黒い「PUSH」のポチボタンは、キーをOFFからLOCK位置にまわすときに押すものだ。

●エンジンのかけ方、止め方

むかしむかし、キャブレター時代のクルマは始動時、チョーク操作やアクセル操作に緻密な儀式が要求された。
クルマが電子制御化されたら鍵をまわしさえすればいいのかというとそうでもなく、キャブレター時代ほどでないにしろ、やはり儀式が必要だった。
エンジン始動がボタン1発時代には新鮮かも知れない、この頃のキー操作によるエンジンのかけ方、止め方をお伝えする。

<かけ方>

・通常時

1.アクセルを踏まず、キーを「START」までまわしてエンジンをかける。

連続して10秒以上まわさないよう、要注意!

2.暖機運転する。暖気されるにしたがって自動でエンジン回転が下がる。

たったのこれだけだ。

他にこんなのもある。

・10秒間まわしても始動しない場合の再始動

1.一度キーをOFF位置に戻して10秒以上待つ(電圧回復のため)。
2.アクセルペダルを1/5ほど踏み込んだ状態でキーをSTARTまでまわして始動し、エンジン回転上昇に合わせて戻す。

まだあるぞ。

・エンジンが暖かいときの始動

1.アクセルペダルをいっぱいに踏み込んだ状態で始動する。

キャブレターのチョーク時代のクルマは、冬にこそアクセルペダルを数回スカスカ踏み込み、チョークを引いて始動したが、「エンジンが暖かいときの始動」は夏冬問わず、アクセルを踏ませるのがおもしろい。

クルマの電子制御化が進んだ後も意外に長く続いたのがこの「・・・暖かいときの始動」で、確か21世紀に入ってからもこの操作法が取扱説明書に記載されていた記憶がある。

自然吸気のCA18DE。このエンジンの場合は、始動も停止もデリケートに扱う必要はない。

<止め方(ターボ車)>

エンジン始動は自然吸気車もターボ付きも同じ。
また、停止は、自然吸気車はクルマを止めたらそのままスイッチをOFFにしてよろしい。
ここで述べるのはターボ付きCA18DET車のエンジン停止法だ。

・市街地、郊外などの一般走行 : 不要
・高速走行・約80km/h定速 : 約30秒
・高速走行・約100km/h定速 : 約1分
・急な登坂連続走行 : 約2分

ターボ車のタービン・・・主にタービン軸は、タービンまで循環させたエンジンオイルで潤滑&冷却を行なっている。
潤滑だ冷却だといっても、浴槽に浸かったおっさんのように軸まわりがオイルで満たされているわけではなく、高速回転している軸まわりをフィルムくらいにまで薄くなったオイル膜が覆っている。
高速道や山間道で、ギャンギャンにフル稼働したタービンは700℃にも800℃もの高温になっている。
ここでいきなりエンジン停止しようものならオイルの供給が即途絶え、高温になった軸まわりが焼き付いてしまう。
ターボ車は高速走行後にすぐにエンジンを止めず、しばらくアイドリング回転させなければいけないとされているのはこのためで、これはいまのターボ車も同じだ。

こちらターボ付きCA18DET。高速走行後、山間道走行後のエンジン停止は慎重に。

走行直後はエンジンルームだって相当熱かろうに、その熱気の中でのアイドリングのたった30秒やら2分やらなんて大して変わらないような気がするのだが、タービンやオイルにとっては大きな違いなのだろう。
ターボはハイパワーに目が向きがちだが、その冷却技術も称えるべきだと思う。

●ペダル

撮影車のK’sはAT車なのでクラッチペダルはなし。
いちばん左にフットレスト、右にブレーキペダル、最右がアクセルペダル・・・AT車とはいえ、とりわけ大きいブレーキペダルに目が行く。

左からフットレスト、ブレーキペダル、アクセルペダル。

アクセルペダルは前回第2章で述べたアクセルワイヤーにつながっている。
ひるがえってわが現代、電気信号でスロットル調整する、いまの電子制御スロットル車のアクセルペダルは、踏み加減からドライバーの意思を読み取るためのスイッチに過ぎないことがわかる。

おんなじ写真をもういちど。エンジンルーム内のスロットルワイヤー。

★フルレンジ電子制御オートマチック(E-AT)とATモードスイッチ

PRND21の電子制御式6ポジションタイプ・・・日産名「E-AT」だ。
レバー横のボタンでロック解除、その下の小さなポチボタンでオーバードライブ(O/D)のON/OFFを切り替える。

E-ATのシフトレバー。

ハンドル左には表示ランプ付きのE-ATスイッチがある。

ATモードスイッチ。

スイッチはシーソー式になっていて、「POWER」側を押すと高めのエンジン回転で変速し、「HOLD」側押しで、「1」レンジで1速、「2」で2速、「D」のO/Dオフで3速、O/Dオンで4速がそれぞれ固定される。
「D」での「HOLD」は発進時から3速4速に固定されているわけではなく、発進時は2速で順次3速なり4速なりに早めに変速し、到達した時点でそのギヤを常時保持に務めるロジックだ。

POWERでもHOLDでもないスイッチ中立は「AUTO」モードで、POWERと経済モードをアクセルペダルの踏み込み如何で自動で切り替え、このときは「POWER」ランプが自動で点消灯する。

これらを一覧にすると次のようになる。

E-ATの変速ロジック一覧。

★パーキング(駐車)ブレーキ

芯材は金属なのだろうが、この頃にはレバー全体が樹脂で覆われるようになっている。
たかが駐車ブレーキのレバーだが、スタイリッシュになった。
操作法にそれ以前のクルマと違いはなく、ボタンを押さずに上に引き上げてパーキングブレーキ制動、やや上げ気味にしてのボタン押し&下げで解除だ。

パーキング(駐車)ブレーキ。

★電動ドア ミラー(のスイッチ)

パーキングブレーキレバーの後ろには、通常ならハンドル右にある電動ミラーのスイッチがある。
キースイッチがACCかONの位置で作動する。
この位置は運転姿勢のまま調整できるのが〇!

電動ドア ミラースイッチ。格納スイッチがつくはずのところがのっぺらぼうで、何となく間延びしている。

第2章で書いたように、S13当初は電動格納機能が標準でつくクルマはなく、「Sパッケージ」と呼ばれるセットオプションでしか選ぶことができなかったが、後期型ではJ’sを除く全機種に標準化された。

というわけで今回はここまで。
S13のインテリアのお話のつづきは次回に。

【撮影車スペック】

日産シルビア Q’s
(E-S13HA型・1988(昭和63)年型・4速AT・ライムグリーンツートン(特別塗装色))

●全長×全幅×全高:4470×1690×1290mm ●ホイールベース:2475mm ●トレッド前/後:1465/1460mm ●最低地上高: 135mm ●車両重量: 1110kg ●乗車定員:4名 ●最高速度: – km/h ●最小回転半径:4.7m ●タイヤサイズ:185/70R14 ●エンジン:CA18DE型・水冷直列4気筒DOHC・縦置き ●総排気量:1809cc ●ボア×ストローク:83.0×83.6mm ●圧縮比:9.5 ●最高出力:135ps/6400rpm ●最大トルク:16.2kgm/5200rpm ●燃料供給装置:ニッサンEGI(ECCS・電子制御燃料噴射) ●燃料タンク容量:60L(無鉛レギュラー) ●サスペンション 前/後:ストラット式/マルチリンク式 ●ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ディスク ●車両本体価格:186万9000円(当時)