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今日は何の日?■日産がディーゼルエンジンの超低排ガス技術を開発

2007(平成19)年8月6日、日産自動車は米国カリフォルニア州の排出ガス規制SULEVレベルのクリーンディーゼル技術を開発し、この技術を適用したSUV「エクストレイル」を国内に投入することを発表した。低排ガスMK燃焼を採用したエンジンをベースに、高機能触媒とそれを高精度に制御する技術によって超低排ガスを実現した。
2000年代のディーゼルブームと排ガス低減
2000年を迎える頃には、欧州では燃費に優れるディーゼル車が50%近いシェアを占め、世界的にもディーゼル車が人気を集めるようになった。一方で、欧州はEuro4&Euro5規制、日本はポスト新長期規制、米国ではTire2-Bin5といった排ガス規制をクリアしなければならなかった。

厳しい排ガス規制に適合するためには、高圧のコモンレール噴射システムを使い、PM(粒子状物質)はDPF(ディーゼル・パティキュレートフィルター)で、NOxはNOx低減触媒(NOxトラップ触媒または尿素SCR)を使って低減するのが一般的だが、制御を含めて技術的なハードルは非常に高い。
今回日産が開発した超排ガス低減システムは、ルノーと共同開発した新エンジン(MR9)のMK燃焼と高機能HC・NOx触媒技術を採用し、米国カリフォルニア州の排出ガス規制SULEVレベル(北米排出ガス規制のTier2-Bin2と同等)を可能とする優れた技術である。
ちなみに、2015年に米国で発覚したフォルクスワーゲンによるディーゼル車の排ガス不正は、特別なシフトウェアで排ガス試験時のみ排ガスを低減し、実際の走行では排ガス低減技術が利かないようにして燃費や走行性能を向上させるという悪質な行為だった。
日産が開発した超排ガス低減手法の詳細
日産が開発した超排ガス低減技術は、1600barの高圧コモンレール噴射を装備したMK燃焼のディーゼルエンジン(M9R)、PMを低減するDPF、NOxを低減するHC・NOxトラップ触媒で構成される。


・MK(Modulated Kinetic)燃焼を採用したM9Rエンジン
一般的には低温予混合燃焼と呼ばれる燃焼方式で、噴射時期を遅らせて予混合燃焼を促進させてPMとNOxの両方を低減する燃焼方式。

・DPF(ディーゼル・パティキュレートフィルター)
燃焼によって発生したPMをフィルタで捕集し、圧力センサーでフィルタ内のPM推積量を測定。堆積量が所定値に達したらDPF本体の温度を600度以上に上昇させて、捕集したPMを酸化除去。

・HC・NOxトラップ触媒
リーンNOxトラップ触媒のトラップ層に吸着させたNOxの量が所定の値に達すると、空燃比をリッチにして吸着したNOxを反応させ、N2、H₂O、CO₂に還元してNOxを浄化

新技術が適用されたエクストレイル20GTデビュー
開発された超低排ガス技術は、2007年8月にモデルチェンジで登場した2代目「エクストレイル」に適用され、2008年9月に「エクストレイル20GT」としてデビューした。

エンジンは、応答性に優れたピエゾ式インジェクタの高圧(1600bar)コモンレールを装備した2.0L直4 ディーゼルターボ(M9R)で、最高出力173ps/最大トルク36.7kgmを発揮した。トランスミッションは、6速MT(後に6速ATを追加)、駆動方式は4WDである。
エクストレイル20GTは、世界で初めて日本の厳しい排ガス規制であるポスト新長期規制に適合し、クリーンな排ガスと低燃費、ディーゼルらしいトルクフルな性能で人気を獲得。燃費は、10・15モード燃費15.2km/L(6速MT)を達成した。
2000年11月にデビューした初代エクストレイルは、乗用車ベースのライト感覚のオフローダーSUVとして大ヒットし、2001年から国内SUV販売台数トップの座に君臨していた。エクストレイル20GTは、ディーゼルとSUVの相性の良さから、人気モデルとなってエクストレイル人気をさらに高めた。
ちなみに車両価格は、299.985万円とガソリン車よりも約60万円高額に設定された。

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当時は、エクストレイル20GTに続いて三菱「パジェロ」、マツダ「CX-5」とクリーンディーゼル車が発売され、日本でもちょっとしたディーゼルブームが起こった。しかし、排ガス規制をクリアするためのコストアップが大きく、さらにフォルクスワーゲンの排ガス不正の影響もあり、現在ディーゼル乗用車は世界的に激減している。ガソリン車の燃費が良くなったこと、電動化が加速したこともディーセル車の人気減速に影響している。
毎日が何かの記念日。今日がなにかの記念日になるかもしれない。



