EGシビックの限界突破!
1000馬力を確実に路面に伝える4WD化という選択
日本でも東日本と西日本で土地柄があるように、アメリカも東海岸と西海岸ではクルマ弄りの文化に微妙な違いが存在する。大雑把に言えば、ドラッグレースのタイムやパワーなどの性能にフォーカスするのが東海岸、見るものを魅了する美しい見映えを重視するのが西海岸といった感じだ。

だが、それもあくまで「傾向」であって、必ずしも全てのクルマが当てはまる訳ではない。西海岸の中心地であるカリフォルニア在住のヴィクター・ヘルナンデスが製作した92年式シビックは、パフォーマンスと見映えを兼ね備え、単純な二項対立では語れない好例と言えるだろう。
「仲間同士で一緒に作業したり、物を作ったりできる繋がりの広さが、ホンダ・コミュニティの強みなんじゃないかな。ドラッグ・カルテルのような、ドラッグレースのチューナーであり、オリジナルパーツのメーカーでもあるショップが近所にあるのも心強いね」。

ヴィクターがそう指摘するように、ホンダ車好きのコミュニティはアメリカ全土に広がっており、ユーザー、チューナー、メーカーが織り成す層はかなり分厚い。ヴィクターが現在の仕様に取り組み始めたのは5年程前だが、核となっているK型ターボへのエンジンスワップと駆動系の4WD化に挑むプロセスにおいては、プロアマ問わず多くのビルダーが携わってきた。


日本仕様のK20A型エンジンをハスポートのマウントを使って搭載。1165psをターゲットにするプレシジョンのGEN2 PT6875タービンを装着し、インタークーラーはR35のチューニングで頭角を表すカリフォルニア州オレンジ郡のワイズクラフトがカスタムメイドした。吸気系にはGatoのインテークマニホールド、K-Tunedの90mmスロットルボディも備え、冷却系にはMEZIEREの電動ウォーターポンプも使用している。ヘッドカバーはK-Tunedとドラッグ・カルテルのダブルネームだ。燃料にはアルコール含有のE85を使用し、フレックスフューエルセンサーの供給元であるAEMのフルコンも使って制御。

エンジンとミッションの間にチラリと見えるのが、ドラッグ・カルテルが削り出しで製作した4WD化用インナーハウジングだ。

ゴリゴリのアメリカン・ドラッグレーサーに、マグブルーのボルクレーシングTE37SL(15インチ)を合わせ、タイヤもストリートでの使用を考えたETドラッグラジアルを組み合わせる。フロントブレーキにはスプーン製キャリパーを使用してJDM好きをアピール。
ドライブシャフトはDSSに特注した36mm仕様に強化しており、フロントハブも同じくKerceptの36mm仕様に変更した。足回りにはPCI(プロ・カー・イノベーションズ)のキャンバーキットや調整式のアーム類を投入。ドラッグ・カルテルのコイルオーバーも備え、ドラッグレースに向いたセッティングを施してある。



ダッシュボードやカーペットなど、意外と純正然とした印象も残るインテリア。その中でドグミッションの変速操作に使うK-Tunedのビレットシフター、ドラッグレーサー御用達のカーキー製バケットシートが異様さを感じさせる。デジタルメーターはECUと同じAEM製で、エンジンの情報を細かく表示。ステアリングはスプーン製を愛用している。


カーボンのフロントリップ、ボンネット、リヤウイングはセイボン製。ボンネットの右側にはインタークーラーの製作を担当したワイズクラフトが、タービンにエアを取り込むワンオフのエアベントを設けた。ヘッドライトとコーナーランプは日本仕様のシビックSiR用にコンバートしてJDM化。下回りにちらっと覗くごついリヤデフマウントは、友人のジェレミー・ウォリスが製作。


ターボ化されたK20Aの最高出力は1018ps! 現在の仕様になって初めて行なったテスト走行では、ストリートラジアルで1/4マイル9.5秒をマークし、パフォーマンスの高さを証明。ストリートラジアルで8秒台に突入する目標に向かって突き進んでいる。
その一方、グレーをミックスして調色したオリジナルカラーのボディは秘めたるパワーを予感させる色気が漂い、ホイールはTE37、ブレーキはスプーンと、JDM好きをおおっ!と反応させるエッセンスも盛り込んでいる。西海岸ぽいとか東海岸ぽいとかいったカテゴライズを拒否するような、真の力を感じさせる一台だ。
PHOTO:Akio HIRANO/TEXT:Hideo KOBAYASHI

