『カースタイリング』編集長が新型プレリュードの内外装デザインを語る

エクステリア:さまざまな要件の中で、よくぞ実現した全高1355mm

新型プレリュードのエクステリアでは、風を感じてその流れを利用して飛行するグライダーのように、力で押し切るのではなく、空気の流れを身体で感じながら、それらと一体になってドライブする感覚をスタイリングでも表現した。

9月の発売が予定されている新型プレリュード。
エクステリアデザインのコンセプトはグライダーからインスピレーションを得た「グライディングクロススタンス」。

サイドビューではフロントバンパー下方からセンターピラー基部を通り後輪軸上へとウェッジするキャラクターラインと、ボリュームのあるリヤフェンダーから前方のフロントフェンダー、フードへと回り込むボリュームラインがクロスする立体構成で今回の新型プレリュードの走りの世界観を構築している。

フロントバンパー下部からウェッジして後方へのびるキャラクターライン(黄色いライン)と、フィやフェンダーからフロントフードへ回り込むライン(青いライン)がボディサイドでクロスする。

またAピラー根元から前方に伸びるフロントフェンダーのピークも内側へ絞り込ませながらヘッドランプの中央を貫いてグリルを構成するラインへとつながらせることで、フロントフェンダーの踏ん張り感を演出している。

フロントフェンダーの張り出し感がスポーティさを醸し出している。

もちろん前後のトレッドは可能な限り最大化し、フェンダーギリギリまでタイヤを外側に位置させることで、スポーティなクルマとしてのタイヤの存在感と安定感(車体全体の踏ん張り感)を表現させている。またフロントフェンダー下部のエアアウトレットはドア下部からリヤホイールへと続くが、その形状も実寸以上にホイールが外側へ迫り出して感じるように作られている。

いずれも専用のプラットフォームが用意されない中で、共有するプラットフォーム(P/F)を使いながら巧みな立体造形構成でスポーティカー表現を最大化する工夫をし、最大の効果を得られている。

ボディサイドの“えぐれ”をリヤフェンダー部分で収束させ、リヤフェンダーの張り出し感を際立たせている。

そのP/F共用で、大変だったのはサイドビューの佇まいだったかもしれない。おそらくシートのポジションも自由にならない中で、ヘッドクリアランスを確保しつつ後部へ流れるラインを構成するのは簡単ではなかったようだ。Aピラーからルーフへ繋がり後方へ流れる一連のラインのピーク位置はやや前寄りになっており、このためベルトラインより上部のキャビンボリュームの重心もやや前寄りに感じられる。それはベルトラインより下のボディ部のボリュームがもつ重心位置とずれているので、全体バランスの中でキャビンはやや前がかりに感じられる。

また、歩行者保護要件を満たすために苦しかった部分だと思われるのがフロントフェンダーのピークの高さで、フェンダーの厚みはこの手のクルマに感じたいスポーティ感をやや損なっているような印象を受けた。

そういった事情がある中で、プレリュードという名前の持つスペシャリティクーペとして持たせたい、余裕感のある伸びやかさ、しなやかさを醸し出すボリュームの流れ、オーセンティックな佇まいを表現するプロポーションの実現は容易ではなかったことが窺える。

しかし、1335mmという全高はよく達成した。まだ筆者は屋外でこの新型プレリュードを見る機会はないが、車道上で他の車たちの中に入れば、本当のこのクルマの佇まいとスポーティさを感じることができるのではないかと思われる。

新型プレリュードのボディサイズは全長4520mm×全幅1880mm×全高1355mm、ホイールベース2605mm。タイヤサイズは235/40R19で、スポーティさを表現するのに寄与する“全高に占めるタイヤ外径の割合”は50%以上となっている。

フロント、リヤの灯火類については最近のカーデザインの流れの中にある意匠であり、歴代を彷彿とさせるプレリュードの記号性は高くない。絞られた前後のボディは4つのタイヤの存在感をしっかりと見せているが、前後のランプ類は、その絞り込みによって狭く感じられてしまうフロントエンドとリヤエンドを幅広く見せる役割を持っている。また、リヤランプの内部はダブルのライン構成で、奥行き感とレイヤー感は透明感もあり美しい。

リヤエンドにはHのエンブレムはなく、最近の流れの中にあるロゴ表現でホンダのBEVカーで表明した「honda」と表記されている。

羽ばたく勢いを感じさせるヘッドライト。デイタイムランニングライトは、細かいストライプで構成されており、緻密な印象。
テールライトはワイドなスタンスを際立たせる、ダブルラインの一文字形状を採用する。
リヤに配された「Honda」のバラ文字エンブレムは未来とのつながり、4代目をモチーフとしたプレリュードの車名エンブレムは過去からの継承を意味するという。
『Car Styling』難波 治編集長はスズキでカーデザイナーのキャリアをスタート。その後独立し、デザインコンサルタントとして多数の自動車メーカーのデザイン開発に携わる。2008年からスバルのデザイン部長として辣腕を振るった後、東京都立大学教授を経て、2024年にカースタイリング編集長に就任した。50年前(1972年)に創刊されたカーデザイン専門誌『Car Styling』はしばらく休刊していたが、2024年からウェブサイトで復活し、2025年3月には紙媒体として『Car Styling 2025 Vol.1』を発行した。カーデザインに興味がある方は、ぜひ手に取ってみていただきたい。なお、12月には第2号の発売が予定されている。

3月31日 — Car Styling誌が帰ってくる!

CarStylingは昨年4月にwebsite版 として再開していたが、それから約1年、多くの方に待たれていた紙版がいよいよ復活する。オリジナルと同じ版形で、もちろんバイリンガルで再登場。編集長はweb版と同様、元スバルデザイントップの難波 治氏。第1世代の休刊から15年ぶり、A4版の第2世代の休刊からは6年ぶりになる。 発売日は3月31日。定価4000円(税抜)。お求めは三栄オンラインストア(https://shop.san-ei-corp.co.jp/shop/g/g505187/)かAmazonが便利です。 TEXT : 難波 治   PHTOS:Car Styling

インテリア:ドライバーとパッセンジャー、ふたりのための魅力的な空間づくり

基本骨格がある中で、インテリア空間に刷新感、変化感を持たせ、本車両の世界観を表現させることが最大のトライだったという。ドライバーオリエンテッドではなく、フロント2座のための室内空間づくりに注力し、いかに前席乗員のふたりに魅力的な室内を提供できるかに集中している。

ドライバーには運転に専念できる環境を用意しつつ、パッセンジャーはリラックスできる空間づくりが行なわれている。

水平基調のインパネは室内空間の余裕を感じさせ、そして手の届く部分(手で触れる部分)には表皮材で加飾し、2色のダブルスティッチはセンス良くスペシャルな印象を醸し出す。細やかな気遣いのある空間に仕上がっている。

手の触れやすい部分には表皮材を用いることで上質感と快適性を向上。
新型プレリュードの内装色はホワイト(写真)とブルーの2色。要所にはバイカラーのダブルステッチがあしらわれる。

しかし、運転席はスポーツドライビングマインドを忘れていない。別体に見えるメーターバイザーやステアリングのトップに見えるセンターマーカー、パドルシフトもスポーツドライビングの気持ちを上げるようにしっかりと作り込まれている。フィジカルなスイッチ、センターゾーンにまとめられたデジタルなスイッチ類なども綺麗に先進的にデザインされている。

下部がフラットになったDシェイプ形状のステアリングホイール。センター上部には、アルカンターラ巻きのマーカーが備わる。
エレクトリックギアセレクター、電子制御パーキングブレーキ、ホンダS+ Shift(エスプラスシフト)をセンターコンソールに集約。

前席シートはドライバー席と助手席ではクッションの形状が異なる。運転席側はサイドサポートを重視し、助手席側はサポートさせながらも乗降のスムーズさにも気を配っている。

リヤシートのスペースはそれなりだ。全体寸法が小さいだけでなく両側面の巨大な張り出しのために、身体を縮めて後席に乗り込んでも頭がその張り出しにぶつかる。車体強度上の必要不可欠なものだと思うが、やはり邪魔ではある。しかしながら、後席乗車を重要視するタイプのクルマではないので問題にはならないだろう。

室内エンターテイメント性はややおとなしいか。センターモニターのサイズも日本車の一般的なサイズであり、必要にして十分ではあるものの、昨今のインフォテインメント力の上がった電動車に代表される新世代のスペシャリティカーの中では控えめに映ってしまうというのは欲張りすぎだろうか。

センターディスプレイのサイズは9インチ。パワーフローの表示も可能。

荷室へはトランクリッドではなくテールゲートを採用しているが、そのラゲッジスペースの広さは素晴らしい。2名分の持ち物であればどのようなシチュエーションだとしてもほぼ問題なくこの車で出かけることが可能だろうし、テールゲートにしたことで荷物の出し入れはしやすく、また荷室床高さも可能な限り低く抑えられている。

リヤシートの背もたれを倒すと、サーフボードも積み込める。スペシャリティクーペながら、なかなかの積載力だ。
左から大沼紀人氏(ホンダ・エクステリアデザイン担当)、東森裕生氏(ホンダ・インテリアデザイン担当)、難波 治編集長(Car Styling)。