型にはまらない自由な発想力
それがクルマ遊びの原点だ!!
取材前にYouTubeを観て予習はしていたが、いはやは実車を前にした時の衝撃は半端じゃなかった。前代未聞、街道レーサー仕様EF8の登場だ。
1970年代末から1980年代前半にかけて一大ブームを巻き起こした街道レーサーは、そのルーツを辿ると、当時の富士グランチャンピオンレースやスーパーシルエット(Gr.5)に行き着く。そこで戦うレーシングマシンに似せてチューニング&カスタムを施したのが街道レーサー仕様であり、グラチャン仕様とも呼ばれた。
外装は、タケヤリデッパにワークスオーバーフェンダーがお約束。さらに、車高をベタベタに落としワイドタイヤを組んだ深リムホイールが定番スタイルだ。中には屋根を切り飛ばしオープンカーにしてしまう猛者もいた。ここ数年は大人しくなってるようだけど、その姿形はかつて毎年正月のニュースを賑わせた、初日の出暴走に出てくるアレを思い浮かべてもらえればほぼ間違いない。

ただ、そんな街道レーサーといっても今回の取材車両はかなり特殊。なぜなら、セドグロやスカイライン、クラウン、マークⅡ、ソアラなどが好まれる中、CR-Xをベースとしているから。ライトウエイトFFスポーツの街道レーサー仕様はたぶんコレが初じゃないかと思うし、だからタイトルでも『世界に一台』を謳ってみたわけだ。
オーナーであり、マシンメイクも手掛けた神原さんが言う。「これまで峠やサーキットを始め、色んなクルマ遊びをしてきましたけど、このジャンルには縁がなくて。ある時、街道レーサー仕様のクルマを間近に見てオーナーとも話をしたら、“これは面白そうだぞ”と思ったんです。見れば見るほど各部の作り込みが凄い。モノ作りが好きな自分としてはそこに興味をそそられて、今ではすっかりハマっちゃいました」。
まずは、目にしたら誰もが振り返る外装だ。当時モノのHiroフルエアロキットを基本にダルマセリカ用ワークスオーバーフェンダーを追加。それに合わせてサイドステップをワンオフ製作し、リヤにそびえるスポイラーはS130Z用ホエールテールを加工装着する。
ちなみに、何でコダックカラーにしたのかを尋ねてみると、こんなコメントが返ってきた。「一つは、かつてカメラ関係でキヤノンやミノルタがレーシングチームのスポンサーに付いてた、あの雰囲気を再現しようと思ったから。もう一つは昔、写真を撮るのにコダックのフィルムを使ってたので。そのイメージですね。今の若いコ達はコダックを知らないんで新鮮に感じるみたいですよ」。

巨大なデッパと延長ボンネットは当然ワンオフ。これだけ大きく前に突き出したデッパは、ちょっとした傾斜でも路面にヒットして割れたり脱落したりしちゃうんじゃないか!? と思ったら、なんと可動式になっていた。
「ね、ちゃんと考えられてるでしょ(笑)?あちこちに街道レーサー仕様ならではのノウハウがあって、そういうところの作りが面白いんですよ」と神原さん。なるほど、コレにハマる理由が分かる気がする。

デッパ裏側の構造はこうなっていた!! まず、横方向に前後2本のスチール製角材を渡してデッパ本体の剛性を確保。肝心の位置決めは、フロントサブフレームから延ばされた左右のスチールパイプで行なう。

このスチールパイプが技ありで、サブフレームに溶接された径の太いパイプにデッパ側の細いパイプが差し込まれ、貫通ボルトで固定。左右方向の動きを規制しつつ、パイプ径の太さの違いから発生する上下方向の“遊び”によってデッパ自体が可動するのだ。この構造を考えてカタチにした人、凄すぎる!!

鉄板加工で継ぎ足されたボンネット前端部の裏側。中央と左右の角材で延長部分の強度を高め、それらと純正ボンネットの間に無垢材の丸棒を突っ張り棒のように溶接する。デッパもそうだけど、街道レーサー仕様ならではのノウハウがあるというわけだ。


とにかく外装に圧倒されまくりなEF8だけど、中身も凄いことになっている。ボンネットの下に収まるB16Aは、実はグループA用エンジンのパーツで組まれているのだ。

腰下はEF用でシリンダーヘッドがEG用のハイブリッド。制御はSSクレイジーECUが担当し、プロスタート改トラクションコントロール&ミスファイアリングも機能する。パワーは未計測だけど、EGのグループAマシンが公称235psだったから、余裕で200psを超えてることは確実。ブリッピングした時、何よりタコメーターの針の弾け方が尋常でなかった。
ちなみに、ミッションはこれまでレース用5速ドグMTを載せてたけど、高速巡航でエンジン回転数が上がりすぎて使い物にならないってことで純正5速MTに換装された。それでもタイヤ外径が小さく、ロ―ギヤード傾向が強いため、グループAマシンで使われたハイギヤードな富士スピードウェイ用3.2ファイナルを組むことで帳尻を合わせている。

マフラーメインパイプ径は76.3Ld。テールエンドは燃料タンク前に設けられる。神原さんいわく、「パワーを測りながら排気管の長さを切り詰めていって最もパワーが出たのがここ。エキマニ集合部から170cm。排気は流速が速いところで抜くのが基本ですよね」。

ステアリングホイールはナルディラリー330φ、シフトノブはDC2純正チタンに交換。フロアはアンダーコートが剥がされ、鉄板剥き出しとなる。センタートンネル上にはETCも装着。

センターコンソールにはオオモリ製水温計と油圧計をセット。その下のSSクレイジー製プロスタートでは、リヤABSセンサーの信号を使い、点火リタード式トラクションコントロールを実現。また、NAでも効果があることが分かったミスファイアリング機能も当時すでに搭載していた。クラッチにセンサーを仕込んでのフラットシフトにも対応。

カラーリングを含めてイロモノに見られがちだけど、意外にも(失礼!!)エンジンまで手が入ったチューニングカー。街中を悠々と走るその姿は明らかに異質で、だからこそ痛快な気分にもさせられた。
ともかく、「真っ昼間なのに、とんでもねぇのが走ってるぞ!!」と、街並みには全く馴染まないその姿を見て、やたらとハイトーンな排気音を聴きながら、ワクワクしたのは本当だ。こういうのが出てきてしまうから、やっぱりチューニングカーは面白い。
TEXT:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)

