【クラウン誕生70年／前編】終戦からわずか10年、純国産車として生まれた『初代トヨペットクラウン』
終戦から10年、1955年に登場したクラウンは昭和、平成、そして令和と歩んできたレジェンドモデルと言っていい。日本ならではの高級車とはなにか？ という問いにいつの時代も応えてきた。その象徴が「いつかはクラウン」というフレーズだ。現在に至る全16代。クラウンがいかに進化してきたのかを振り返る。
日本を代表する高級車はいかなる進化をしてきたか？
レクサスをはじめとして、プレミアムなモデルも増えているが、日本を代表する高級車と言えばまずはクラウンだ。サルーンという言葉を普及させた立て役者であり、「いつかはクラウン」のキャッチコピーは誰もが知るほど。まさにレジェンドモデルと言っていい。
ただし、初代については高級車というよりもタクシーやハイヤー向けがメインとされた。登場した1955年は終戦からまだ10年。現在のような自家用車という考え方はなかった時代だけに法人需要が大きな市場だった。ちなみに1955年は当時の通産省から「国民車構想」が発表された年で、その成果はスバル360などで具現化されるが軽自動車レベルでの話ではあった。
もともとトヨタは戦前からAA型など普通車を作っていたこともあって、戦後も小型セダンの開発を継続。初代クラウンもその流れのなかにあった。注目すべきは創業者である豊田喜一郎が掲げた「日本人の手で、純国産車をつくる」という理念。これはすべて自社技術ということを意味する。当時の自動車技術はまだ未熟で、多くのメーカーが海外メーカーと提携してノックダウン生産を行ったりして、海外から技術を吸収している時代だった。
意欲的に開発されただけに、独立懸架式を採用するなど乗用車らしい内容で登場したのは画期的。それまではセダンとはいえ、リジッドサスペンションなどトラックを流用したものだっただけになおさらだ。それゆえ世間の注目度は高く、都心の虎ノ門で行われた発表会にはなんと2万人もの人が押し寄せたという。
そして現在に続く、高級車のイメージのルーツとなるのが2代目だ。初代登場から7年が経っていたこともあって、道路事情などが大きく変わっていたし、高度経済成長真っ盛りで、自家用車もより身近な存在となった。2代目ではサイズを拡大し、デザインも当時アメリカで流行していたボンネットとトランクが一直線につながる「フラットデッキスタイル」を採用した。また王冠のエンブレムが装着されたのも２代目だ。
その後、3代目は伸びやかなボディラインと白のボディカラーなどで、自家用高級車のジャンルで確固たる地位を確立。ちなみに白は救急車などの緊急車両と混同するということで使用禁止されていたのが、1965年に解禁されたばかりだった。
4代目は今や伝説にもなっている個性的なスタイルの通称クジラクラウン。デザインの多様化を探った結果のスタイルだったが、販売的には不振に終わってしまった。その反動か、5代目以降は保守的なスタイルが続くことになる。乗り味もあくまでもふんわりとしたもので、輸入高級車とは一線を画したもの。もちろん技術的には各時代の最先端を採り入れたものの、クラウンらしさという安心感は高い支持に繋がった。
いつの時代も「いつかはクラウン」。バブルを経ても揺るがなかったその地位に変化が起きたのは2000年あたり。新しい時代のクルマが続々と登場してくるなか、昔ながらのクラウンという印象が強まったのは確かだ。
冒頭でレジェンドモデルと言ったが、それゆえの苦悩だろう。カローラしかりで、長年にわたるイメージが固定してしまっているのは今の時代、大きなハンデでもある。実際、ここ数年のクラウンユーザーの平均年齢は70歳を大きく超えている。この「昔の名前で出ています」感をどうするか？ 一時は開発中止、モデル廃止も検討されたというが、ご存じのように、2023年に登場した現行型、16代目は見事新時代のクラウンへと進化して大きな注目を浴びている。個性が異なる4タイプをラインアップというのも驚きだ。今後どうその歴史を刻んでいくのか、やはり興味は尽きない。
1995年 初代トヨペットクラウン
戦後になって乗用車へと本格参入したトヨタ。トヨペットスーパーを進化させて、誕生したのが初代トヨペットクラウンだ。アメ車を参考にしつつも、開発と生産すべてを自社化。フロントサスペンションをダブルウイッシュボーンとしたり、いち早くATを採用するなど、意欲作だった。クルマとしてのキャラクターは高級車というわけではなかったが、トヨタを代表するフラッグシップ的な意味合いを持たされていた。後ろのドアが逆ヒンジ（前開き）で、観音開きの愛称で呼ばれた。
1962年 2代目トヨペットクラウン
クラシカルなデザインから打って変わり、アメ車で流行していた直線基調の「フラットデッキスタイル」を採用して高級感を醸し出している。ただ、エンジンは先代譲りの3R型で、排気量も1.9Lだった。その後、2000GTにつながる2L直6のM型へと変更されて、走行性能を向上。長らくクラウンと言えば6気筒だったが、その流れはここから始まったと言っていい。途中で国産初の2.6L V8エンジンを搭載した兄貴分、クラウン・エイトも加わった。
1967年 3代目トヨペットクラウン
クラウンの定番ボディカラーと言えばスーパーホワイトだ。その始まりは3代目にある。それまでの高級車＝黒塗りのイメージを大きく覆し、キャッチフレーズはズバリ「白いクラウン」。またこちらもサルーンの定番、2ドアハードトップが登場したのもこの3代目だ。技術的には輸出先だったアメリカの安全基準に適合させるために、20項目にも及ぶ安全装備の充実を図ったのは特筆すべき点。個人ユーザー獲得にも力を入れたのも3代目が最初だ。
自動車誌MOOK『クラウン購入ガイド』より
