S13だけの空調機能にご注目!
S13シルビア解説、5回目になってもまだ内装編だ。
今回は空調・オーディオ関連やもの入れについて述べていく。
といっても室内空間の小さい2ドアクーペのこと、装備の数はそう多くはない。
※★マークは、当時資料などでの呼称です。
【空調】
★プッシュ式ヒーターコントロール
空調パネルは、吹出口や内外気切り替えをボタン押しで行なうプッシュ式が全機種に備わる。
風温や風量はスライドノブ式だ。
撮影車のQ’sには販社オプションのマニュアルエアコンがついていた。
当時価格17万9000円、オートエアコンは21万9000円だ。


写真のパネルはマニュアルエアコンだが、オートエアコンは18~32℃の間でセットした温度に合わせ、吹出口選択、風量、内外気切り替えをクルマが行なうフルオート式。
フルオート用パネルは、左上モード選択ボタン5つのうち、「足元送風 + デフロスター」ボタンが追い出され、マニュアルでいう左3つが右にずれた後の「上半身送風」の跡地が「AUTO」ボタンになるのと、風量スイッチにも「AUTO」が加わる。
時代だなと思ったのは、このクルマでは冷媒圧縮のコンプレッサーに、値段の高い可変容量式を用いていることだ。
可変容量式は高価格寄りのクルマに多く、固定容量式は普遍的なクルマに多く用いられるが、もしいま、S16シルビアが200万円台で売られるとしたら固定容量式が用いられると思う。
可変容量式は、斜板式コンプレッサーの斜板の傾きを可変式にすることにより、コンプレッサー容量を自動的に変化させるものだ。
コンプレッサーON/OFFのショックがないからドライバビリティの変化が小さく、吹き出す風温度の変化が少ないのが利点。
固定容量式のエアコンをONにしたとき、「ガツン!」のショックが現れるのは、ONにした瞬間にマグネットスイッチが接続されるからだ。
あの「ガツン!」がイヤな感じで、使い続けるとそのうち故障するような気がするのだが、造りがシンプルな分、故障が少ないのは固定容量式だ。
いつか自動車用コンプレッサーのメーカーのひとに訊いたことがあるが、故障しやすいのは構造が複雑な可変容量式のほうだと認めていた・・・やっぱり訊いてみないとわからないもんだ。
★サイドベンチレーター/フロントベンチレーター
つまり、ただの空調吹出口だ。
助手席サイドにひとつ、センターにふたつ、運転席側にひとつ。
それぞれにダイヤルが設けられていて、上下ないし左右に動かして、個別に(センターはふたつまとめてだが)吹出口を開閉できる。



この部分自体はどのクルマでも見かける平凡な造りで、大きな工夫はない。
で、吹出口は計4つといいたいところなのだが・・・
★ドライバーパーソナルベントグリル
実はS13には、あとふたつ吹出口がある。
つまり前記4つの吹出口と合わせて6つとなるわけだ。
場所はハンドルコラムの左右。
こちらは左右の傾き調整はできないが、グリルごと動かして上下動だけの調整はでき、上に終点までまわせばそのままシャットアウトに。
この頃のマークII兄弟にも似たようなものがあったが、あれは確か、冬場にヒーターが効くほどエンジンが暖まるまでの間、別熱源で手を温めるだけだったと記憶する。
こちらS13のドライバーパーソナルベントグリルは、夏なら涼風、冬なら温風を、ドライバーが直接風を受けて運転操作ができる。
吹出口が多いとひとつあたりからの風量が弱くなるものだが、ファンスイッチを入れて試してみたらそんな兆候は微塵もなく、けっこう豊かな、気持ちのいい風が出てきたことに感心した。
スタイルや走りの性能だけが取り柄のクルマだったのではないことを証明してくれたS13の空調性能に、私は二重丸を捧げたい。
当時の日産はえらかった!



これはS13だけのものだが、残念なのは、これがこのシルビア1世代だけでとどまるもので、次のS14や、その次のS15、もしくは他の日産車に広がっていかなかったことだ。
こういったほんの小さな気遣いがそのメーカーの特徴になり、注文書にハンを押す決め手になるかも知れないのに。
私は自動車の空調、とりわけ換気性能を気にする人間だから、このようなものがいまのクルマに採り入れられれば大拍手で歓迎だ。
【オーディオ】
★AM/FM電子チューナー&一体型カセットデッキ(ドルビー&メタル対応)、PROアコースティックサウンドシステム
長ーい名称の割に、見た目にはただの1DINサイズオーディオである。
J’sにはカセットデッキのない、ただのAM/FM電子チューナーラジオが標準でつく。

Q’sとK’sには、この長い名称のオーディオが標準装備。
どうせなら、操作のひとつひとつを記していこう。

<チューナー部>
1.メモリー選局ボタン : あらかじめメモリーしておき、その後はボタンを押すだけで選局。
2.手動選局ボタン : 押し続けている間周波数が変わり、手を離した時点で停止する。
3.表示部 : 周波数を表示する。また、AM放送、FM放送受信時は「AM」「FM」の文字を表示し、ステレオ放送受信時は「ST」を表示。また、メモリー選局した場合は、「Ch」にてそのメモリー選局チャンネルを表示する。
4.自動選局ボタン : 押すと自動で周波数が切り替わり、次の放送波をキャッチした時点で停止する。
5.AM/FM切り替えボタン : AM放送とFM放送を切り替える。
6.つまみ : 押してスイッチON/OFF、左まわしで音量小、右まわしで音量大。外側のリング状つまみは後席の音量調整用で(知らなかった!)、上下で音量小大となる。
7.BASS : 低音調整で、上下スライドで低音強弱を調整する。
8.TRE : 高音調整で、上下スライドで高音強弱を調整する。
9.左右音量調整 : 複数あるスピーカー音声の左右バランスを調整する。上スライドで右側大、下スライドで左側大。ターンシグナルレバー上下に合わせ、こちらも上向きをL、下向きをRにしたほうがよかったような・・・
いま、好きな音楽はナビと一体化したオーディオ機能に録音して聴く、もしくはスマートホン接続で聴くようになり、カセットを知らないひとが増えているようなので、カセットデッキ操作についても説明しよう。

<カセットデッキ部>
1.ドルビーNRボタン : ドルビー録音されたテープを使うときに押す。押すとボタンの表示灯が点灯し、もう一度押すと消灯する。
2.再生方向切替ボタン : 再生中の押すとテープの再生方向が切替わる。早送り、巻き戻し中に押すと演奏状態に戻る。
3.テープ取出ボタン : 強く押し込むとテープが取り出せる。早送り、巻き戻し中に押すと再生状態に戻る。
4.カセットテープ挿入口 : テープを長手方向に、たいていはテープが右側になる向きにして入れる。
5.早送り・巻き戻しボタン : 再生方向と同じ方向のボタンを押すと早送りができる。再生方向と逆方向のボタンを押すと巻き戻しができる。
再生方向切替だの、テープが右側だの、早送り・巻き戻しだの、ナビ録音やスマートホン接続世代には「???」かも知れぬ。
★PROアコースティックサウンドスピーカー
スピーカーは、ラジオしかつかないJ’sには2つ、Q’sとK’sは4つで、PROアコースティックサウンドシステムゆえ、名称も「PROアコースティックスピーカー」となる。
左右のドアスピーカーはただくっついているだけに見えるが、上方に20度、後方に15度傾けて設置されており、コンサート会場にいるかのような、前方定位の臨場感あふれる音場を実現するという。

フロント用が「PROアコースティックフロントスピーカー」なら、リヤ用は「PROアコースティックサウンドスピーカー」で、これは後席後ろのパーセルトレイ上にある。
薄型のすっきりした形をしていて、後方視界を妨げないのがいい。

★フルオートパワーアンテナ
キースイッチがACCまたはONのときにラジオスイッチを入れると自動でスルスルとアンテナが伸び、ラジオを切るないしキースイッチをOFF自動で収容される。
場所はトランクリッド左。
この位置にパワーアンテナがあるのを見るたび、レジェンドのときだったか、すでに引退して長かった本田宗一郎さんが、
「こんなとこにパワーアンテナなんかつけやがって、伸びたアンテナの先端が子どもの目に刺さったらどうするんだ!」
と激怒した話を何かで読んだことを思い出す。



パワーアンテナは、私が以前乗っていたパルサーやブルーバードにもついていたが、半分の位置でストップするポジションがあるといいと思った。
パワーでも手動でもいいのだが、アンテナは伸縮のほうが「アンテナ!」という感じがする。
いまは短い黒い棒が屋根に立っているやつが多いので、私はあのタイプを磯野波平の1本毛アンテナと呼ぶことにしている。
●FMダイバーシティ
磯野波平アンテナ・・・じゃなかった、パワーアンテナの他、S13にはもうひとつアンテナがある。
リヤガラスのくもり取り熱線の上のプリントアンテナだ。
FM受信時、ロッドアンテナとプリントアンテナ、受信状態のいい方を選び、安定した受信をすることができる。
なお、「ダイバーシティ」と書かれるが、綴りは「diversity」で、英語発音では「ディヴァシティ」。
「同じ信号を複数のアンテナで受信し、良質のものを選択する」意味を持つ技術用語として独立しているが、もともとは「多様性、さまざま、雑多」という意味だ。



・・・・・・・・・。
内装見渡し編は3回ほどにするつもりだったが、また長くなりそうなので、冒頭に書いた「もの入れについて」は急遽次回送りにする。
ではまた。
【撮影車スペック】
日産シルビア Q’s
(E-S13HA型・1988(昭和63)年型・4速AT・ライムグリーンツートン(特別塗装色))
●全長×全幅×全高:4470×1690×1290mm ●ホイールベース:2475mm ●トレッド前/後:1465/1460mm ●最低地上高: 135mm ●車両重量: 1110kg ●乗車定員:4名 ●最高速度: – km/h ●最小回転半径:4.7m ●タイヤサイズ:185/70R14 ●エンジン:CA18DE型・水冷直列4気筒DOHC・縦置き ●総排気量:1809cc ●ボア×ストローク:83.0×83.6mm ●圧縮比:9.5 ●最高出力:135ps/6400rpm ●最大トルク:16.2kgm/5200rpm ●燃料供給装置:ニッサンEGI(ECCS・電子制御燃料噴射) ●燃料タンク容量:60L(無鉛レギュラー) ●サスペンション 前/後:ストラット式/マルチリンク式 ●ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ディスク ●車両本体価格:186万9000円(当時)
