●そもそもタイプ2とは?

フォルクスワーゲン(VW)の最初の製品は、1938年に生産が始まったタイプ1(本格生産は戦後の1945年から)。車名がなかったので、そのボディ形状に由来する「ビートル」の愛称で世界に広まった。

初代=T1型タイプ2は1950年に登場した。

続いて1950年に登場したワンボックス型のバン/ワゴンがタイプ2だ。こちらの愛称はドイツでは「ブリー(ドイツ語でブルドッグ)」、アメリカでは「VWバス」や「コンビ」、「サンバ」など。とくにアメリカでは60年代のベトナム反戦運動に端を発するサブカルチャーのムーブメントのなかで、タイプ2は絶大な支持を得た。

タイプ2は1968年に2代目となり、79年に3代目に進化。ここまではビートルと同様のリヤエンジンだ。3代目で初めて車名が与えられ、乗用タイプは欧州では「カラベル」、北米では「ヴァナゴン」、商用タイプは「トランスポーター」。型式名はT3とされ、遡って初代はT1、2代目はT2の型式名が与えられた。

1990年の4代目=T4でFFに転向。VWがT1〜T4を「トランスポーター」と総称するようになった一方で、ファンの間ではリヤエンジン時代のT1〜3を「タイプ2」と呼ぶことが広まった。T1〜2だけを「タイプ2」とする熱心なファンも少なくないようだ。

●復活劇は2001年に始まった

2001年1月のデトロイトショーでデビューしたマイクロバス・コンセプトが、ID.Buzzに至るすべての出発点だ。

2001年のマイクロバス・コンセプト。

高いベルトラインや短い前後オーバーハングからノーズの大きなVWマークまで、T1型タイプ2の面影を色濃く残しながらも、モダンなテイストのFFミニバン。もしも初代から一貫した開発が続いていたら今はこうだっただろう、と思わせるに充分なレトロモダンなデザインだった。

ちなみにVWは94年のデトロイトショーでタイプ1=ビートルをモチーフにしたコンセプト・ワンを発表し、それを97年にニュービートルとして量産化していた。マイクロバス・コンセプトは言わば「原点回帰」の第2弾。デザインを担当したのも、ニュービートルと同じカリフォルニアのデザイン拠点である。

インテリアは柔らかな曲線を多用したシンプルでフレンドリーなデザイン。3列目席から腕を伸ばしたディスプレーは格納式で、裏表両面に画面がある。

ボディサイズは全長4722mm×全幅1909mm×全高1904mmで、ホイールベースは3000mm。タイプ2の系譜を受け継ぐT4型トランスポーター(北米名ユーロバン/日本名ヴァナゴン)と、ほぼ同等だ。電動スライドのリヤドアを左右に備え、3列シートの2列目席は180度回転して3列目席と対座できる。フロントに搭載するエンジンはVR6(バンク角が狭いV6)で、当時の量産2.8Lではなく、新開発の3.2L版(02年からゴルフなどに採用)だった。

デトロイトショーでVWはマイクロバス・コンセプトについて、「現時点で生産化の計画はないが、消費者の反応によっては変わることもある」としていた。果たして翌02年の6月、VWはマイクロバス・コンセプトの量産化を決定する。狙いはタイプ2のT1〜2型がカルト的な人気を誇ったアメリカだ。

当時のアメリカではライトトラック系(ミニバンやSUV、ピックアップ)の需要が自動車市場の半分(今は8割)を占めるまでになっていたが、VWにはそこで戦う駒がない。03年にSUVのトゥアレグを北米に投入するのに続いて、マイクロバスを05年からドイツで生産し、その3分の2を北米で売る…計画だった。

しかし2004年3月、マイクロバスのプロジェクトはキャンセル。T5型(03年発売のカラベル/日本未導入)をベースに開発していたが、減収に見舞われていた当時のVWにとってはコストがかかりすぎる。そこにユーロ高が追い打ちをかけた。代わって09年、クライスラーのミニバンにVWバッジを付けてアメリカで発売したのは、駒不足を補う苦肉の策だった。

●再挑戦のニューブリー

それでもVWは諦めなかった。2011年3月のジュネーブショーでニューブリー・コンセプトを発表。同年秋の東京モーターショーにも展示されたから、ご記憶の方も多いだろう。

2011年のニューブリー・コンセプト。

「ブリー」は前述のように、タイプ2のドイツでの愛称だ。外観は10年前のマイクロバスを、時代進化分モダナイズした印象。ただしサイズは大幅にコンパクトになり、全長3990mm×全幅1750mmのボディに3人掛けのシートを2列レイアウトする。

ニューブリーは3×2の6人乗り。98年に日産が初のハイブリッド車として発売したティーノも、同様のシートレイアウトだった。

サイズより驚かされたのが、BEVだということ。床下に40kWhのリチウムイオン電池を積み、85kWモーターで駆動する。ただしプレスリリースには「ガソリンやディーゼルも搭載可能」とも記載されていた。翌12年に新しいモジュラープラットフォーム、MQBを採用した7代目ゴルフがデビューし、14年にはそのBEV版のe-ゴルフが登場(電池は24.2kWh)。ニューブリーのひとつの狙いは、まだ秘密のMQBの幅広い可能性を示唆することにあったようだ。

とはいえ忘れられないのが、東京モーターショーでVWブランドの当時のデザインディレクターに聞いた言葉。「ニューブリーはたんなるコンセプトカーではない。近い将来に生産化するよ」と、彼は笑顔で語っていたのだが…。

●MEB第一弾のBUDD-e

ニューブリーの後、VWはBEV専用プラットフォームであるMEBを開発する。MQB派生のBEVでは限界があるとの判断だったのだろう。これでニューブリーの生産化は白紙に戻った。

2016年のBUDD-eはMEBプラットフォームのミニバン・コンセプト。

MEBの第一弾は、2016年1月のCESで発表したコンセプトカーのBUDD-eだった。これも2列シートのミニバンだが、全長はニューブリーより60cmも長い4592mm。ホイールベースも53cm延ばして3151mmとし、電池容量を92.4 kWhに増やして500kmを超える航続距離を標榜した。

BUDD-eのインテリア。新時代のインターフェイス・デザインが、このクルマの売りだった。

そうしたBEVとしての性能に加えて、BUDD-eが強調したのがHMIやコネクティビティだった。だからCESでお披露目したわけで、インテリアのデザインは今の眼で見てもモダン。エクステリアにも、もはや往年のタイプ2の面影はほぼ消えていた。

タイプ2に通じるのは高いベルトラインぐらい。フロントにはまるでエンジン車のような大きなグリルを備える。ツートーンのペイントも、マイクロバスやニューブリーがそこで「タイプ2らしさ」を表現したのとは異なり、普通にルーフだけを塗り分けていた。

VWはその後、BUDD-eを中国に持ち込み、市場の反応を調べた。中国ではナンバープレートの新規発行枚数に制限があり、初めてクルマを買う人はオークションでナンバープレートを競り落とさないといけないのだが、BEVやPHEVなどの新エネルギー車=NEVはその例外。中国でBEVの購買意欲が高いことを、VWはこのBUDD-eで確認したという。

そして同じ2016年の9月、VWはパリサロンでI.D.を発表。後のID.3の原型となるゴルフ級のBEVコンセプトだ。MEBプラットフォームを使うBEVがさらに続くであろうことは、このときから示唆されていたのだが…。

以下、後編に続く。