Aston Martin Valhalla
豊富なレーシングヘリテージで

スーパーカーにおける圧倒的な成功事例はマラネッロのビジネスモデルであることは間違いない。対抗馬(牛?)というべきランボルギーニも、このビジネスの成功例で成長著しいブランドだが、それでも売り上げ規模ではマラネッロの半分以下に留まっている。
フェラーリは強い。だから多くのブランドが後を追う。特にF1を頂点とするブランドビジネスを築くチャンスに恵まれたメーカーであれば尚更だ。例えば英国のマクラーレンなどは、今もなお挑戦し続けている。
そこにもうひとつ加わった老舗ブランドがあった。アストンマーティンだ。もちろん、彼らもまたレーシングヘリテージの豊富なブランドである。黎明期にはF1を戦い、ル・マンでも勝ってきた。とはいえ、フェラーリやマクラーレンのようにモータースポーツの頂点たるF1参戦を続けてきたわけではない。暗黒の時代もあった。アストンマーティンとF1を関連づけることのできるクルマ好きは、フェラーリやマクラーレンに比べるとまだまだ圧倒的に少ないだろう。
大株主となったローレンス・ストロールが

なにしろ、61年ぶりのF1サーカス復帰(2021年)そのものがある意味、唐突な出来事だった。フォースインディアを買収し、レーシングポイントと名を変えて、息子ランスを走らせていたカナダの大富豪ローレンス・ストロールが、アストンマーティンの大株主となったことでF1のチーム名もアストンマーティンと変えたのがそもそもの始まりだ。以来、シルバーストンにあるジョーダン時代からの施設を改変しながらマシンを製作し戦ってきた。
創立から110年の節目となった2023年、彼らはF1ファクトリーを全刷新した。ローレンスがついに本気でF1の頂点を目指すことを決意した現れであった。なにしろ、世界最新鋭のシミュレータと風洞実験トンネル(60%)を持ち、大小様々なCFRP成型用オートクレーブを揃えるなど、その規模もまたF1界最大となっている。
3つある建屋のうち、シミュレータのある最も小さなビルでさえ以前の工場の倍もあるのだ。さらに2026年シーズンからはホンダのワークスPUを使用することが決まっている。常勝デザイナーのエイドリアン・ニューウェイも加入した。あとはドライバーのピースさえ揃えば必勝体制が敷かれたと言っていい。
最後のピースとして

要するにローレンスはF1でどうしても頂点に立ちたい。そして頂点に立った暁には現在のロードカービジネス(+公式マーチャンタイズ)もまたマラネッロのような好循環を迎えると考えているのだと思う。
それが証拠にロードカーラインナップは今、更なる上級移行が試みられ、拡充されている。今やマラネッロとほとんど同じ品揃えになっていると言っていい。
2シータースポーツカーの「ヴァンテージ」はFRながら「296」シリーズ相当だし、「DB12」は「ローマ」や「アマルフィ」、「ヴァンキッシュ」は「12チリンドリ」、「DBX」は「プロサングエ」、「ヴァルキリー」は「SP3 デイトナ」や「F80」に相当する。そのほか、超VIPカスタマーに向けたトラック専用モデルの販売とアクティヴィティの充実も図ろうとしている。
アストンマーティンの商品ラインナップはかくのごとく揃ってきたわけだが、マラネッロのそれと比較したとき、ひとつだけ物足りないカテゴリーがあった。それはミドシップのスーパーカーだ。その最後のピースというべきモデルが「ヴァルハラ」である。
マラネッロ追撃の狼煙


ヴァルハラはプラグインハイブリッドモデルであり、フロント2個とリヤ1個の電気モーターを備え、これらをV8ツインターボ+8速DCTを組み合わせることで1000PSオーバーを達成した。これはマラネッロでいえば「SF90 XX ストラダーレ」と見事に符号する。価格帯もほぼ同じ。それでいてカーボンモノコックボディや美しいスポーツプロトタイプデザインなど、跳ね馬を凌駕するポイントも散見される。スーパーカーファンにとっては今、最も見逃せない1台になっていると言っていい。
F1サーカスにおける必勝体制とロードカーラインナップの拡充、VIPカスタマー向けアクティヴィティの充実などなど、アストンマーティンは今、同じ英国のマクラーレンよりもいち早く、マラネッロ追撃の狼煙をあげおわったも同然の状況だ。
果たしてローレンスの野望は身を結ぶのだろうか。レギュレーションが大いに変わる来シーズンのF1にも注目したい。日本人としてはホンダの成功にも期待し見守りつつ……。
PHOTO/Aston Martin Lagonda

