32年かけて育てた本物の峠スペシャル
車重1tの軽量ボディに500馬力超の高耐久ロータリーを搭載
甲高いロータリーサウンドがワインディングに響き渡る。ひと目でただ者ではないオーラを放つFC3S。その愛機を23歳の頃から32年間、浮気することなく乗り続けているのがオーナーの魔王さんだ。
FC3Sを選んだきっかけは、後輩に峠へ連れて行ってもらったこと。そこで耳にしたロータリーサウンドと、卓越したコーナリング性能に心を奪われた。やがて地元のチューニングショップ「RSパンテーラ」を訪れた彼は、TO4Eタービン仕様のFC3Sを購入。以来、代表の佐藤さんのサポートを受けながら、着実にマシンを進化させてきた。
「当時はロータリー乗りだけのチームに所属して、速いと評判のクルマに勝負を挑んだり、他の峠に遠征したり。まさにリアル頭文字Dの世界でしたね。今でもサーキットは性に合いません。気分転換にひとりでフラッと走りに行くことが多いんです」と振り返る。
ストリートでの“走り”こそがメイン。ワインディングでの速さと気持ちよさを追求し続け、愛機をステップアップさせてきた。
「峠で負けたくない一心で少しずつ手を入れていったら、いつの間にかここまで仕上がっていました。GTウイングを付けたらフロントの接地感が薄れたので、カナードやアンダーパネルを追加する。すると高速コーナーが速くなるのが分かる。そうやってクルマが良くなっていく過程が楽しいんです。要するにおもちゃですよ」と笑う。
長きにわたり走り続けられた背景には、主治医であるRSパンテーラの存在がある。30年以上の付き合いの中で、オーナーの理想を形にしてきた佐藤さんとの関係は、まさに阿吽の呼吸と言えるだろう。
例えばネオサイドポート仕様のエンジンは、佐藤さんが組み上げてから15年以上経つが、今なお絶好調。インジェクターは1000ccに拡大し、燃料ポンプも強化。F-CON Vプロで制御し、最大ブースト圧1.1〜1.3kgf/cm²時に約540psを発生する。
パイピングはRSパンテーラ製のワンオフ。インタークーラーのパイピングは理想の太さやレイアウトを求め、何度も作り直したという。
ラジエーターはコーヨー製アルミ3層に電動ファンを追加。ARC製インタークーラーはできるだけ後方にマウントし、冷却効率を最適化した。さらにオイルクーラーは純正＋トラスト製の2基掛けとするなど、クーリング対策も万全だ。
排気系はフロントパイプからマフラーまでメイン90φのワンオフ仕様。エキマニもRSパンテーラ製で、スムーズな排気を実現している。
車内はドンガラにした上で、本物のGTマシン用ドライカーボンダッシュボードを導入。スタック製メーターやキルスイッチ、バックモニターを装備し、レーシングカーさながらの仕上がりだ。
シートはブリッドXERO CSをツイン装着。クスコ製8点式ロールバーをピラー溶接留めするなど、剛性アップにも抜かりがない。故障が多いパワーウインドウは前期型の手動式に交換し、スイッチ類もレバー式に変更している。
トルク50kgm超では純正ミッションが耐えられないため、HKS製ドグミッションを導入。20年以上トラブルなく稼働しているという。ただ、今ならRZ34純正6速MT流用も推奨だと佐藤さんは語る。
デフ関連では「吹き出したオイルがタイヤに付着して大スピンした」という経験から、デフクーラーを装備。機械式LSDはマツダスピード製を選択し、安定したトラクションを確保している。
ホイールはボルクレーシングZE40で、9.5J＋12。タイヤは前後ともアドバンA050の255/50R17を装着する。ブレーキはER34純正キャリパー＋314mmローターへと強化されている。
テインやHKSを経て、現在はアラゴスタ車高調にスウィフトのスプリングを組み合わせる。レートはフロント11kg/mm、リヤ10kg/mm。フロントキャリパーはER34純正で、ローターは前後とも314mmに拡大した。
下回りはタモンデザイン＋フェラーリのレースカー用を加工流用し、フラットボトム化。固定には相当な苦労を要したという。
外装はRE雨宮のエアロをベースに、タモンデザインのワイドボディキットを組み合わせ。フロントフェンダーはパンスピード製アーチ部などを融合させたワンオフ仕様だ。さらにボンネットやドア、リヤハッチはガレージカゴタニ製FRPへ交換。アクリルガラスも投入し、車重はわずか1060kgにまで軽量化されている。
32年という歳月をかけて磨き上げられた戦闘力と、尽きることのない情熱。魔王さんのFC3Sは、まさに「本物の峠仕様」と呼ぶにふさわしい輝きを放ち続けている。
●取材協力：RSパンテーラ(佐藤商会) 静岡県富士宮市北山5220-2 TEL：0544-58-4837
【関連リンク】
RSパンテーラ
http://www.rspantera.com
