自然吸気では実現できない性能

今回と次回の2回に分けて展開する当記事では、バイクショップAndyが製作した、Z250SL+スーパーチャージャー装着車と、CBR250R+ターボチャージャー装着車を紹介する。もっとも2輪の世界におけるターボとスーパーチャージャーは、一般的な機構とは言い難いので、本題に入る前に過給機の概要を説明しておこう。

エンジンに大量の空気を送り込むこと。端的に表現するなら、それが過給機の役割だ。パワーアップやダウンサイジング、燃費、空燃比補正など、目的や用途は時代によって異なるものの、ユニット内の部品を回転させることで、大気圧以上に圧縮した空気をエンジンの内部に送り込み、自然吸気では実現できない性能を獲得しようというのが、すべての過給機に共通する使命である。

Z250SLのクランクケース左前方に備わる遠心コンプレッサー式スーパーチャージャーは、デンマークのRotrex製。クランクシャフトからの動力取り出しやコグドベルトを用いた駆動系は、安藤さんのワンオフ。純正のECUと併用するサブコンも、安藤さんがゼロから開発を行った。インテークダクトに備わる追加インジェクターは、スクーターのアフターマーケットパーツを転用。

過給機には大別すると、排出ガスのエネルギーを再利用してタービンを回すターボと、エンジンから動力を取り出して過給機を動かすスーパーチャージャーの2種が存在し(ただし、いずれも現在は電動式が存在。なお海外では、ターボもスーパーチャージャーの1種として扱われる)、どちらが優位と一概には言えない。事実、4輪の世界では2種の過給機が混在し、中にはターボとスーパーチャージャーを併用する車両も存在したのだ。

ターボチャージャー:ターボの最大の美点は、本来なら捨ててしまう排気ガスのエネルギーを再利用して、圧縮空気を生み出すタービンを回転させていること。スーパーチャージャーとの比較では、部品点数が少ないことも美点になる。ただし排気ガスの流速とタービンの回転数が低い状態では、スロットル操作に対する応答遅れ=ターボラグが生じやすい。
スーパーチャージャー(遠心コンプレッサー式):低回転域から十分な過給効果が得られ、スロットル操作に対する応答遅れがほとんどない、というのがスーパーチャージャーの美点。逆に欠点と言われているのは、クランクシャフトから動力を取り出して過給機を動かすのでパワーの一部を損失することと、高回転域では構造的にターボほどの過給が得られないこと。
スーパーチャージャー(ルーツ式):スーパーチャージャーには、ターボと良く似た構造の遠心コンプレッサー式に加えて、二組のローターを回転させるルーツ式、ルーツ式に通じる構成でありながら内部のねじりローターで圧縮を行うリショルム式、渦巻き型ハウジングの内部で圧縮を行うスクロール式など、さまさまな形態が存在。また、クランクシャフトからスーパーチャージャーへの動力伝達には、ギア、ベルト、チェーンのいずれかを使用/併用するのが一般的。

峠道での楽しさと日常域の扱いやすさを重視

さて、ここからはようやく本題で、2輪の世界で過給機と言ったら、多くの人が注目するのは最高出力と最高速だろう。ところがバイクショップAndyの安藤さんは、絶対的な速さにはあまり興味がないと言う。

「過去にアドレスV125の過給機装着車で実測137km/hをマークしたことはありますが、基本的に私が作る過給機装着車は、峠道での楽しさや日常域の扱いやすさを重視しています。せっかく面白い部品を付けても、長い直線でしか性能を味わえないのはもったいない話ですからね」

バイクショップAndyの代表を務める安藤 聡さんは、1986~1993年に全日本選手権GP125に参戦し、一時は坂田和人選手や斎藤明選手らと熾烈なバトルを繰り広げていたライダー。当時も今も、バイクをいじるうえで最も重視しているのは扱いやすさ。

そう語る安藤さんは、以前は125ccスクーターに注力していたものの、現在は250cc単気筒ロードスポーツに主軸を変更。当記事で紹介する2台に加えて、レブル250やCB250R、YZF-R15の過給機装着車も製作している。

「そもそも私の過給機の原点は、約20年前に自分用として作ったCB250RSターボなんですよ。だから主軸を変更したのではなく、原点に戻ったが正解かもしれません。なお私が考える250cc単気筒ロードスポーツの魅力は、同じ排気量の2/4気筒車や400cc以上とは異なる軽快感が味わえることと、維持費が安いこと。ただし、峠道ではエンジンに物足りなさを感じる場面が少なくないので、それを補うために過給機を装着したんです」

安藤さんが16歳の時から愛用しているCB250RS。自身の勉強用として2000年頃に気化器のインジェクション化を図り、その作業が一段落した後にターボを導入。

その言葉を聞いた僕は、なるほどと思いいつつも、実は過給機の必然性に微妙な疑問を抱いていた。と言うのもZ250SLとCBR250Rの場合は、輸出仕様のKLX300・CBR300R用のパーツを使えば排気量が拡大できるし、それ以前の話として、KTMやトライアンフの400cc単気筒車を選択すれば、エンジンの物足りなさは解消できるのだから(もちろん、排気量が251ccを超えると維持費は高くなるが)。また、250ccクラスで過給機がちゃんと回せるのだろうか?という気がしなくもない。

CBR250R+ターボ装着車のインプレは、近日中に公開予定の第2回目で紹介する予定だ。

そんなわけで、今回の試乗は微妙な気持ちで臨んだのだが……。市街地とワインディングロードで2台の過給機装着車をじっくり体験した僕は、目からウロコをボロボロ落とすこととなった。以下の文章では、Z250SL+スーパーチャージャー車の乗り味を紹介しよう。

Z400SL……ではない?

和光2りんかんのシャシーダイナモで実測した、Z250SLのパワーカーブ。ノーマルがカタログデータ通りの29pであるのに対して、スーパーチャージャー装着車は42.5psをマーク‼ なおバイクショップAndyが設定するステージ1の過給圧は0.7barが基本だが、Z250SLのスーパーチャージャー装着車は10000rpm前後を0.9barに設定。すでに3年以上に及んでいるテスト走行で、致命的なエンジントラブルに遭遇したことは1度も無いそうだ。

こんなにもパワフルで、こんなにもトルクフルなのか‼ 試乗前に見た実測データで、最高出力が29→42.5psに、最大トルクが2.4→3.1kg-mに向上していることは把握していたものの、Z250SL+スーパーチャージャー車はアイドリングのやや上となる低回転域から高回転域まで、あらゆる領域で過給が利いていて、あらゆる領域でノーマルを上回る力強い加速が実感できる。比較用として安藤さんが準備してくれたノーマルとの差は歴然で、当初の僕はZ400SL?という印象を抱いた。

とはいえ、その表現は正しくないのだ。ライダーの操作に対する忠実なレスポンスと全域で感じるシャープな吹け上がりは、ピストンやクランクシャフトといったエンジン内のムービングパーツが軽い、250ccならではなのだから。KLX300用のφ78mmピストン(Z250SLはφ72mm)を用いた排気量拡大では、こういった軽快なフィーリングは味わえないだろう。

2016~2017年に国内販売が行われたZ250SLは、トレリスフレームにKLX250ベースのエンジンを搭載するスポーツシングル。SLはスーパーライトの略で、車重は148kg。兄弟車としてフルカウルのニンジャ250SLも併売された。

そして軽さと言えば今回の試乗で僕は改めて、250ccクラスならではの軽快なハンドリングを認識。前言を覆すようだが、KTMやトライアンフが販売している車重が170kgの400cc単気筒車では(Z250SLは148kg)、ここまでのヒラヒラ感や自由自在感は得られないと思う。

いずれにしても、僕はZ250SL+スーパーチャージャーの乗り味に大いに感心。しかも驚くことにバイクショップAndyが手がけた2台は、ノーマルに対するマイナス要素がまったく見当たらなかった。過給機という言葉から多くの人が連想しそうなシビアさが微塵も無く、峠道のコーナーの立ち上がりでは思い切ってアクセルを開けられたし、気温が35度前後の炎天下の渋滞路を、ノーマルと同じフィーリングで余裕で走れたのである。

ディティール解説

コクピットには空燃比計とブーストメーターを追加。Z250SLの過給はアイドリングのやや上、クラッチをつないで発進した瞬間から始まり、無理をしてスロットルを開けなくても、普通に走っているだけで0.7kpaに到達する。
エンジン左側のインタークーラーは軽自動車用がべースで、カーボン製カバーは同店のワンオフ。なおインタークーラーは吸気温の低下を実現するパーツだが、過給圧が0.7barのステージ1仕様ならマストではないそうだ。
クランクケース前方下部に備わる空冷式オイルクーラーと、その隣に見えるフィン付きのオイルタンクは、スーパーチャージャーの冷却用。なおエンジンを冷却するラジエターは、ノーマルをそのまま使用している。
インテークダクトに設置されたブローオフバルブは、スロットルオフ時に余剰の圧力を開放する。減速時に聞こえるプシュー!という音と左足の脛にかかる圧力は、スポーツライディング中の乗り手の気分高揚に大いに貢献。
ターボパワーが高回転域で炸裂‼ 250cc単気筒で、2スト的なフィーリングが味わえる、バイクショップAndyの過給機装着車 | Motor-Fan[モーターファン] 自動車関連記事を中心に配信するメディアプラットフォーム

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