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今日は何の日?■キャリイに軽初の自動MTであるAGSを搭載
2014(平成26)年8月26日、スズキは軽トラック11代目「キャリイ」に新開発のトランスミッションAGS搭載車を発売した。AGSは、MTの特徴であるダイレクト感あるシフトチェンジと優れた燃費、さらにクラッチ操作が不要というATの利便性を両立できることが大きな魅力である。

60年以上の歴史を誇るスズキを代表する軽トラックのキャリイ

国産初の軽自動車「スズライト」が誕生したのは1955年のこと。スズライトには、セダンSSとライトバンSL、ピックアップトラックSPの3モデルがラインナップされたが、発売当時はセダンとピックアップの台数は僅かで、市場の要求に合わせて商用車がメインだった。

このような状況下で、本格的な軽自動車のトラックとして初代キャリイ「スズライトキャリイFB」が1961年に誕生した。セミ・キャブオーバースタイルで、軽4輪で最大の荷台スペースや積載時の坂道、悪路でもスムーズな走行ができることを謳っていた。
パワートレインは、最高出力21psを発揮する360cc空冷2ストローク直列2気筒エンジンと4速MTの組み合わせ。車両価格は29.5万円であり、当時の大卒初任給は1.5万円程度(現在は約23万円)だったので、単純計算では現在の価値で452万円に相当する。

その後、キャリイは時代のニーズに対応して、エンジンの3気筒化や4ストローク化などを進めながら、トラックとしての使い勝手の良さや利便性を高めて、1971年から2009年までの39年間にわたり、登録車を含めたトラックの車名別年間販売台数No.1を達成した。

クラストップの低燃費と使いやすさが特徴の11代目キャリイ
11代目キャリイは、2013年8月にデビューした。先代では、ロングホイールベースとショートホイールベースの2種類を設定していたが、11代目では小回りの利くショートホイールベースに統一された。
その一方で車体のレイアウトを全面的に見直すことで荷台フロア長はクラストップレベル(2030mm)を維持しつつも同時にキャビンも拡大。さらに運転席は体格にあわせて14段階に調節可能な140mmのシートスライド幅を設けるなど利便性向上が図られた。

エンジンは、最高出力50psを発揮する660cc直3 VVT付DOHCエンジンと5速MTおよび3速/4速ATの組み合わせ。これに超高張力鋼板の採用による50kgの軽量化と組み合わせ、2WDの5速MT仕様で18.6km/L(JC08モード)と軽トラックとしてはトップレベルの低燃費を実現した。
そして1年後の2014年8月のこの日、5 速MTをベースとし、クラッチとシフト操作を自動で行なうAGS搭載車が追加されたのだ。
AGSの乗用モデルへの展開を進めたが、2025年8月現在は採用中止
スズキのAGSは、新開発の5速MTをベースに、油圧アクチュエーターとの接続部分とパーキング機構部分を変更してAMT化。また、一般のATと同様のクリープ機能やヒルホールドコントロールを採用して、AMTの発進にかかわる弱点が解消された。ヒルホールドコントロールとは、坂道でブレーキ油圧を数秒間保持して、後退を防ぐ機能である。

運転中の操作としては、DレンジとMレンジを用意。シフトDの場合は、ATやCVTと同じ感覚で自動で変速する、アクセルを踏み続けると大きな変速ショックが発生するので、変速の瞬間にアクセルを少し戻して変速を抑える必要がある。シフトMの場合は、MTのようにシフトノブの+、-で手動操作による変速ができるが、この時もアクセルを一時的にショックを抑えるように操作する必要がある。
車両価格は、92.664万円(2WD)/107.568万円(4WD)に設定。その後、ASGは「アルト」や「ワゴンR」、「ソリオ」などの主要軽自動車と小型車に採用。また、AGSをハイブリッドと組み合わせることで、「ソリオ」や「スイフト」にも採用された。しかし、2020年頃から徐々に採用車種は減少し、2024年にAGSの採用を廃止することが発表された。

AGSのメリット・デメリット
AMTのメリットは、機構自体はMTなのでダイレクト感のあるシフトチェンジ、動力伝達効率が高いため燃費が優れ、さらにシンプルで軽量、低コストなこと。また大半の部品がMTと共通化できるため、開発・製造コストを抑えられ、MT比率が高い欧州では、その効果がより大きくなる。

一方デメリットは、変速フィーリングが悪いこと。AMTではクラッチを切って変速し次にクラッチをつなぐまでの間に、エンジンの駆動力がコンマ数秒間途切れ、加速中に一瞬推進力がなくなる“トルク抜け”が発生するので、ドライバーは一瞬だが減速感やギクシャク感を感じてしまうのだ。
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AMTは欧州では比較的廉価モデルに採用されているが、日本では欧州に比べて渋滞が頻繁に起こり、ストップアンドゴーや低速走行が多いため、変速時のギクシャク感が目立ち採用が少ない。もうひとつは、AMTはMTがベースなので、MTが壊滅状態の日本では将来的にも出現するのは難しいと言わざるを得ない。
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