ベース車種のサイクルからすると妥当なフルモデルチェンジ

新型デリカミニ(サンドベージュパール×ブラックマイカ)

「デリカミニがフルモデルチェンジする!」と聞いて、あなたはどんな感想を抱くだろうか。正直いって筆者は「もうモデルチェンジするの?」と「あれだけ完成度の高いスタイリングと個性を変えるのって大丈夫?」という2つの疑問が思い浮かんだ。

なにしろデリカミニが登場したのは2023年のことであり、筆者が初めて公道で乗ったのはその年の6月。まだ2年ちょっとしか経っていないのだ。

新型eKスペース(ホワイトパール)

ただし、前者の“早すぎるフルモデルチェンジ”についてはデリカミニの出自と自動車業界の慣習からすると理解できる。

たしかにデリカミニは、ユーザー的には完全ニューモデルと認識してしまいがちだが、業界的な見方をすれば三菱の軽スーパーハイトワゴン「eKスペース」のバリエーションであり、現実的にはeKクロススペースが、2023年のマイナーチェンジによってデリカミニに進化したといえる。そして、デリカミニのベースとなったeKスペースの現行型が誕生したのは2020年3月のことであり、もう5年以上前だ。

2025年秋というのは、eKスペースを進化させるタイミングとして妥当であり、そうであれば同車のクロスオーバーSUVバージョンといえるデリカミニも合わせてフルモデルチェンジを実施するのは自然な流れだ。実際、デリカミニのフルモデルチェンジに合わせて、新型eKスペース(3代目)も発表されている。

新型デリカミニ(サンドベージュパール×ブラックマイカ)

そうはいっても、もうひとつの疑問である「完成度の高いデリカミニを正しく進化させることができるのか」という疑問は残る。しかしながら、新型デリカミニを目にした瞬間、その感情はどこかへ飛んで行った。完璧なまでに“デリカミニ”だったからである。

専用フェンダーまで専用で起こしたデリカミニのフロントマスク

一見すると、従来モデルから何も変わっていないように思える新型デリカミニ。しかし、同車のアイコンとなっている“ジト目”のヘッドライトはもちろん、外板パネルに至るまですべて一新されている。

フロントグリルの中央には大きくスリーダイヤモンドが入り、三菱を代表するモデルであることをアピールしている。前後バンパーに入るスキッドプレートの意匠もこれまで以上のタフネスと機能性を示しているのは見ての通りだ。

ボディについてもAピラーの角度を立てることで室内を広くするなどパッケージングから見直されている。これだけシルエットを変えていながらイメージを崩さず、完璧にデリカミニであることを表現しているのは見事というほかない。

そこにはデリカミニ専用ボディというこだわりがあった。

初代デリカミニは基本的な外板パネルはeKスペースと共有していた。あくまでクロスオーバーSUVバリエーションであり、灯火類やバンパーなど“変えやすい”部分でデリカらしく仕上げるということがデザイナーには求められた。

しかし、今回はフルモデルチェンジである。三菱の伝統的ブランドとなっている『デリカ』ファミリーらしさを、もっと追求することが可能となった。

事実、フルモデルチェンジしたeKスペースと並べて、見比べてみるとフロントフェンダーの形状が異なっていることがわかる。当然、エンジンフード(ボンネット)のラインもデリカミニ専用となる。

フロントバンパーで注目してほしいのは、ナンバープレートの位置だ。eKスペースはセンターにあるが、デリカミニはオフセットしている。オフセットしたナンバー位置を嫌うユーザーがいるのを重々承知の上で、この位置にナンバープレートを置いているのは、フロントバンパーに大きく「DELICA」のロゴを彫り込むため。ロゴのスペースを確保すべく、ナンバープレートがオフセットすることになったという。

また、Aピラーから後ろはeKスペースと共通デザインとなっているデリカミニだが、テールゲートには初代と同じくデカデカと「DELICA」のロゴが彫り込まれている。しかも、ロゴ入りガーニッシュがボディ同色となっているのは2代目デリカミニの進化ポイント。

4WDであることにこだわるのもデリカミニの伝統。今回は、4WD専用にユニークな意匠の15インチアルミホイールを用意した。トレッキングシューズのソールをモチーフにしたデザインは、アウトドア志向を感じさせてくれるもので、新型デリカミニのスタイリングをさらに高めているのが好印象だ。

新型デリカミニのアルミホイール

未来感あふれるモノリスコックピットのインテリア

新型デリカミニのコックピット

新型デリカミニのインテリアは、デジタル的なアップデートと、デリカらしさの強化という2本柱で進化している。

7インチ液晶メーター+12.3インチのインフォテイメントシステムを一体化ディスプレイのように表現する「モノリス」は、時代進化を感じさせる象徴的デザインだ。しかも、エンジン始動時には7インチメーターと12.3インチディスプレイをデリカミニの目が行ったり来たりしながらキョロキョロとした愛嬌ある表現をする演出も入れ込まれた。

一方で、助手席前の大型オープントレーの縁に「DELICA」のロゴを入れると同時にグリップ形状にしたり、ドライブモードセレクターは三菱の4WD車と共通デザインのダイヤル形状にしたりと、オフロード的な表現もなされている。

かつてデリカは「クロカン1BOX」という独自のジャンルを生み出した名前であり、そうした伝統をディテールでも示しているのは、まさしくデリカらしさの強化といえる。

eKスペースのコンセプトは「このクルマなら安心」

新型eKスペース(ホワイトパール)

もうひとつの個性である「eKスペース」のコンセプトは「日常に安らぎが寄り添うクルマ」であり、ユーザーが「このクルマなら安心」と感じてもらうことを狙っている。

とはいえ、スタイリング的には同時にフルモデルチェンジを発表した日産ルークスの標準系グレードとバンパーとグリルによって差別化している程度といえ、デリカミニほど突出した個性を与えられているわけではない。

ただし、コンセプトからすると、縁の下の力持ちとしてユーザーのカーライフをアシストすることが求められるのがeKスペースであり、この内外装デザインは納得だ。

むしろeKスペースの開発において、視界のよさや広いキャビンを実現しているからこそ、新型デリカミニが全体的にレベルアップできたと理解すべきだろう。

残念ながら、スタイリングがお披露目されたという段階であり、現時点では詳細なスペックは未公表だが、ユーザーが安心感を覚える作り込みを受けたeKスペースをベースに、クロスオーバーSUVとしての遊びココロをプラスしたのがデリカミニだと思えば、実際の走りっぷりにも大いに期待が高まってくる。